日本語で『ラーニング・テクノロジー』と検索サイトに入力すると、7,920件ヒットする。
 一方、英語で『Learning technology』と入力すれば、1,120,000,000件もヒットする。
 『ラーニング・テクノロジー』とは、テクノロジーを活用した学習の総称を指すが、欧米を中心に、ここ数年で一気に取り上げられるキーワードになった。
 日本では、教育や学習とテクノロジーを同時に語ることはあまりないかもしれない。せいぜい、『イーラーニング』くらいが一番近い概念と言える。しかし、ここで取り上げる『ラーニング・テクノロジー』とは、もう少し活用範囲の広い概念を指す。
2015年 進化するラーニング・テクノロジー

発展するラーニング・テクノロジー 遅れをとる日本

 米国人財開発協会(ASTD)が毎年開催する人財開発世界大会では、人と組織に関わるテーマを毎年9項目程度に分類して、それぞれのテーマで講演や事例紹介が行われる。
 2年ほど前から『リーダーシップ』や、『学習評価』といったオーソドックスなテーマに混ざって、『ラーニング・テクノロジー』というテーマで、事例発表や研究成果が発表されるようになった。
 元々は、ビデオで学習していた仕組みをネットワーク上に置いて、それをWEB Based LearningやWEB Based Trainingと呼び始め、2000年前後は『E−Learning』というテーマで取り上げられていった。
 日本の大手企業は7割を超える企業が、何らかのかたちでイーラーニングを導入していった。その後、10年以上たった現在でも、導入率は8割でそれほど変わらない。(株式会社日本能率協会マネジメントセンター2014年度調査) 利用率は大企業が8割だが、中小は5割程度である。ひょっとして、日本におけるイーラーニングは未だ、研修を動画で撮り、ネットで流すだけの学習で、あまり学習効果がないと考えていないかと心配になる。

ASTDでのキーワードの変化でみる学習環境の変化

 『ラーニング・テクノロジー』の話に戻すと、ASTDでは、その後SNSの広がりやモバイル端末の活用により『ソーシャルラーニング』『モバイルラーニング』『タブレットラーニング』へとキーワードが変化していった。今は、多くの人が仕事でもプライベートでも、携帯電話やパソコンを活用してネットワークに繋げ、必要な情報を検索して生活している。このようなITの進化は、学習にも大きな変化が起こっている。
 近年のイーラーニングでは、より学習環境を整備して様々な工夫がされている。
 1.学習する動機付けが向上する工夫 → ゲーミフィケーションの活用
 2.学習効果を最大化する工夫    → 学習心理学の活用
 3.広く情報を活用できる工夫    → 外部情報との連携
 4.どこでも学習できる工夫     → モバイル端末の活用
 5.デバイスに依存しない工夫    → クラウド環境の仕組み

 『ラーニング・テクノロジー』は、イーラーニングだけではなく、ITを活用した学びに関わるさらに幅広い活用を意味するようになっている。
 1.学習パターンや習慣に関するデータ活用  → ビックデータの活用
 2.人財データを育成、配置、発掘などへ活用 → タレントマネジメント・システム
 3.人事・教育データの予測で活用      → タレント予測分析

 今後、ウェラブル端末の活用や、ロボットの活用なども考えられる。ITの進化は人々の学習に大きな影響を与えることが確実であるが、今まで行っていた研修やクラス学習が無くなることはないと考える。
 研修や、クラス学習などの集合研修は、教室に来る前に、事前学習として自分のペースでイーラーニングを用いて自学自習し、教室では事前学習した参加者同士で、お互いの自己学習の成果を活用して学び合う仕組みになっていく。(反転学習、Flipped Learning)
 このような環境においては、今まで集合研修で教えていた、教師やトレーナーの役割も変化しなくてはならない。先生が知識を持っていて、生徒に知識が無いとしていた学習スタイル(客観主義)では、生徒の知識や能力に応じたデリバリースタイルが必要であった。ITが進化した環境になれば、知識はいつでも誰でも獲得できるようになり、先生と生徒の知識や情報の差は、限りなく無くなる。そこで講師やトレーナーは、いかに対象者に合致した情報を選択できるか、あるいは、参加者同士の相乗効果で、より発展的な学習を起こすようなファシリテーションが必要になる。

HR総研 客員研究員 下山博志
(株式会社人財ラボ 代表取締役社長/ASTDグローバルネットワーク・ジャパン副会長)

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