従業員「社長、最近毎月200時間以上勤務していますが、残業代をもらっていません。残業代を請求します。」
社長 「まあそう言うな。その分利益が出たらボーナスを出すから。」
従業員「このまま不払いが続くなら、労働基準監督署(以下監督署)に相談します。」
社長 「なんだと?君は会社を潰す気か?全従業員が路頭に迷ったら君のせいだぞ!それでも行くのか?」
社長 「まあそう言うな。その分利益が出たらボーナスを出すから。」
従業員「このまま不払いが続くなら、労働基準監督署(以下監督署)に相談します。」
社長 「なんだと?君は会社を潰す気か?全従業員が路頭に迷ったら君のせいだぞ!それでも行くのか?」
先日、某エステティックサロン店の従業員が、残業代を減額されたことなどについて監督署に申告した行為を会社側に非難されたとして、厚生労働省に公益通報者の保護を申し立てた、という出来事があった。新聞等報道によると、社長自身が同店舗の従業員を集めて、「暴き出したりして会社を潰していいの?」と述べたという。
会社の知名度の高さもあり、世間でも大きな反響を呼んだので、ご存知の方も多いだろう。この社長の言葉は、少なからず経営者の本音の部分と言えるかもしれない。しかしながら、他山の石、人の振り見て我が振り直せ、である。同社の轍を踏まない為に、会社としてはどのような姿勢で臨むべきであろうか。
公益通報者保護法によると、一定の条件を満たす労働者は、労働基準法等の違反を通報したことによって、勤め先から報復的な不利益取扱いを受けないよう保護されている。冒頭の従業員と社長のケースのように、通報先が社内である場合には、社長は事実を調査し、改善に向けた取組みをしなければならないという努力義務が課せられている。(同法第9条)
にもかかわらず、「会社を潰す気か?」などと逆上してしまっては、問題はますますこじれるばかりである。そこで、万が一、こうした通報が社内で行われた場合に備えて、その対応方法を社内で決めておく必要があるだろう。
具体的には、就業規則等で、相談・通報先、責任者、通報後の具体的な対応、プライバシーの保護の徹底、通報によって不利益な取り扱いをすることは決してないこと、などの事項を明記する方法が考えられる。このような環境を整えることによって、通報者も安心して相談でき、労使双方が感情的にならずにきちんと問題に向き合えるようになる効果が期待できる。
もしも、ひとたびこのようなもめ事が企業外部で注目されるような事態になれば、“従業員の士気の低下”“社内の人間関係の悪化”“人材流出”“企業の信用の失墜”等の多くのデメリットが出てくることが予想される。社内の仕組み作りを充実させて、できる限り自主的な解決が図れるようにしていくべきだろう。なお、消費者庁のホームページ上で、民間事業者向けに「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」が公開されている。参考にしてみるのも良いかもしれない。
しかし、こうした後手の対応ではなく、できればその前に何とかしたいものである。紛争に発展させない為の予防の取組みこそ、もっとも大切だろう。この点について、次のような事例がある。
アパレル産業大手のグンゼでは、「風通しカフェ」という名の会議を、特定の職場の従業員10~30人で開催しているという。この「風通しカフェ」では、内部通報に発展する前に、従業員から本音を聞き出し、できる限り現場での解決を図っているという。実際に通報件数はこの数年間と比較して、6割程度に減ったそうである。
言いたいことが言い合える、本音をぶつけられる、そんなコミュニケーションが取れている職場は前向きで活気に溢れている。ここはひとつ、公益通報者保護について、受け身ではなく、「風通しカフェ」のように積極的な攻めの気持ちで取り組んでみては如何だろうか。雨降って地固まる、災い転じて福となす、としたいものである。
出岡社会保険労務士事務所 出岡 健太郎
会社の知名度の高さもあり、世間でも大きな反響を呼んだので、ご存知の方も多いだろう。この社長の言葉は、少なからず経営者の本音の部分と言えるかもしれない。しかしながら、他山の石、人の振り見て我が振り直せ、である。同社の轍を踏まない為に、会社としてはどのような姿勢で臨むべきであろうか。
公益通報者保護法によると、一定の条件を満たす労働者は、労働基準法等の違反を通報したことによって、勤め先から報復的な不利益取扱いを受けないよう保護されている。冒頭の従業員と社長のケースのように、通報先が社内である場合には、社長は事実を調査し、改善に向けた取組みをしなければならないという努力義務が課せられている。(同法第9条)
にもかかわらず、「会社を潰す気か?」などと逆上してしまっては、問題はますますこじれるばかりである。そこで、万が一、こうした通報が社内で行われた場合に備えて、その対応方法を社内で決めておく必要があるだろう。
具体的には、就業規則等で、相談・通報先、責任者、通報後の具体的な対応、プライバシーの保護の徹底、通報によって不利益な取り扱いをすることは決してないこと、などの事項を明記する方法が考えられる。このような環境を整えることによって、通報者も安心して相談でき、労使双方が感情的にならずにきちんと問題に向き合えるようになる効果が期待できる。
もしも、ひとたびこのようなもめ事が企業外部で注目されるような事態になれば、“従業員の士気の低下”“社内の人間関係の悪化”“人材流出”“企業の信用の失墜”等の多くのデメリットが出てくることが予想される。社内の仕組み作りを充実させて、できる限り自主的な解決が図れるようにしていくべきだろう。なお、消費者庁のホームページ上で、民間事業者向けに「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」が公開されている。参考にしてみるのも良いかもしれない。
しかし、こうした後手の対応ではなく、できればその前に何とかしたいものである。紛争に発展させない為の予防の取組みこそ、もっとも大切だろう。この点について、次のような事例がある。
アパレル産業大手のグンゼでは、「風通しカフェ」という名の会議を、特定の職場の従業員10~30人で開催しているという。この「風通しカフェ」では、内部通報に発展する前に、従業員から本音を聞き出し、できる限り現場での解決を図っているという。実際に通報件数はこの数年間と比較して、6割程度に減ったそうである。
言いたいことが言い合える、本音をぶつけられる、そんなコミュニケーションが取れている職場は前向きで活気に溢れている。ここはひとつ、公益通報者保護について、受け身ではなく、「風通しカフェ」のように積極的な攻めの気持ちで取り組んでみては如何だろうか。雨降って地固まる、災い転じて福となす、としたいものである。
出岡社会保険労務士事務所 出岡 健太郎