前回、「CS(顧客満足)よりも、ES(従業員満足)を!」(7月7日)と題して、コラムを執筆した。その中で、会社がことさらCSだけを訴えても、従業員の心は冷める一方。CSを目指したいというのであれば、より一層ESを目指すべきなのであるということを伝えたところである。
パート・アルバイトの有給休暇の取得率向上策

 今回は、前回に少し関連することでもあるが、「パート・アルバイトの有給休暇の取得率向上策」についてお伝えしたい。特に小売業やサービス業など、パート・アルバイトを多数雇用している業態では、避けて通れない課題であろう。この有給休暇の取得率という課題は、仕事に対する従業員のモチベーションをあげる満足要因ではないにしても、これを解決しなければ不満が出てくるという不満足要因に直結するものだと考えている。

 労働基準法上、会社は有給休暇を従業員へ与えなければならないという責任を有しているが、その有給休暇を取得させなければならないという責任までは法令上会社には求めていない。この点において会社は法令に甘えているのではないかという疑問を持つ。もちろん、有給休暇は自己の意思表示をもって取得する性質の休暇である。ただ、取得しにくい社風では、いくら権利化された休暇で原則取得自由といっても、取得に抵抗を感じるのは、私だけではないだろう。取得率が高い会社は、やはり取得しやすい社風なのである。社風とは、まさにトップの姿勢そのもの。トップ自ら有給休暇の取得率100%を目指すというくらい宣言してほしいものである。

 参考までに弊社では、月初ミーティングにおいて今月の有給休暇取得予定を確認している。もちろん、体調不良などで当日の有給休暇申請もあるが、事前に確認しておけばシフト等職場の労務管理にもほとんど支障なくオペレーションができるので助かっている。このように仕組み化することで、従業員も自由な雰囲気の中、有給休暇の取得を進めることができるのである。

 パート・アルバイトの場合、1か月毎にシフト表を組んでいるケースは少なくないであろう。仮に有給休暇を取得することになると、わざわざシフト表に組まれている要出勤日に休むこととなる。従業員にとって、実はこれは心理的にハードルが高い。シフト表は有給休暇を取得することを前提に組まれているわけではない。通常、どの会社も余裕のあるオペレーションでシフト管理することはなく、もっとも効率的なオペレーションを想定してシフト管理を行う。そのような中、有給休暇を申請すると再度シフト表の組み換えが必要になり、同僚へ迷惑がかかってしまうと申し訳なく思うのが人情というもの。

 また、シフト表の組み換えが困難な場合、事業の正常な運営を妨げることにもつながる懸念や、そもそもシフト表を組む際には、従業員もそのシフトに入ることを了承しているわけであろうから、その後に意図して有給休暇を申請し、労働義務の免除を請求することは信義則上も問題がありそうだ。

 そこで、元々は労働日ではない日をあえて労働日と仮定して、その日に有給休暇を付与するという擬制付与の仕組みが現実的な対応となろう。そのような取扱いをしなければ、パート・アルバイトの有給休暇の取得率の向上は難しい。この擬制付与については、有給休暇の買上げでは?と思われるかもしれないが、労働日の設定は労使双方当事者間の自由な取り決めであるため、この運用自体労働基準法上たちまち違法とまではいえないであろう。

 弊社でも非常勤パートの有給休暇について、擬制付与の仕組みを活用し取得率100%を達成しているが、擬制付与なくして取得率100%はあり得ない幻想ではなかろうか。


e-人事株式会社 代表取締役・社会保険労務士 牧 伸英

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