今年もA社では終業後に毎年恒例の花見が行われた。そしてその翌日……

部長 「B君、昨日は花見の世話係ご苦労様。」
Bさん 「いやあ、なかなか大変でしたよ。ところで部長、世話係をした分の残業代はつくんですよね?」
部長 「なんだって?君も冗談がうまいねえ、あっはっはっはっ。」
Bさん 「またまた部長、あっはっはっはっ。」
花見で残業代請求できる?

 勤務終了後に親睦会もかねて夜桜見物。ここまでは微笑ましい職場の光景である。しかし一転、その時間について残業代を請求する従業員が現れた。さて、このBさんの言い分は認められるであろうか。

 Bさんの残業代請求が認められるためには、花見の世話係としての時間が労働基準法(以下労基法)上の労働時間と認められる必要がある。そこで労基法の労働時間に関する規定を確認して、それに当てはまればOK!ということになるのだが……なんと労基法には労働時間の定義について書かれていないのである。念のためその他の法律を探してみても、やはりどういう時間が労働時間であるかということは書かれていない。驚くべきことに、世の中でこれだけ残業代について紛争があり、労働時間について問題になっていながら、労働時間を定義した法律はないというのが実情だ。

 そこで、実際の最高裁判例を参考に考える。三菱重工業長崎造船所事件(H12.3.9)によると、労基法上の労働時間とは次の時間のことであるとしている。

『労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間』

 これをBさんのケースに当てはめてみるとどうだろうか。花見の世話係は終業後に行われたもので、労働時間ではない!という主張もできそうだ。しかし、裁判所はこの点について「労働実態を客観的に評価して判断する」としている。つまり、単純に就業規則や労働契約上の時間だけでなく、上司の命令等があればそれも労働時間でしょう、という理屈だ。Bさんが上司から頼まれて世話係をしたのであれば、それは指揮命令下に置かれていた時間として労基法上の労働時間となる可能性は高く、残業代請求もまんざら理不尽なことではないかもしれない。

 どこの職場にもいわゆる盛り上げ上手、仕切り上手な「宴会部長」がいるだろう。ひょっとすると、全国の宴会部長が一斉に残業代請求……なんてこともあり得ない話ではないことになる。企業側としては、この点についてリスクマネジメントが必要かもしれない。ではどうすればよいか、参考になりそうな行政解釈がある。
『労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にならない。』(S26.1.20基収2875号)
“教育”を“花見”と読み替えれば、ヒントが見えてこないだろうか。

 宝酒造が実施した新社会人対象の調査結果によると、新社会人の約6割が「飲み会も仕事」と考えているそうである(H26.4.15日本経済新聞記事より)。こうした傾向は若い世代ほど強いと思われ、上司世代とは大きなギャップがあるということは押さえておくべきだろう。
 ただ、私個人の経験から述べさせて頂くと、飲み会の席でのコミュニケーションは、仕事でも人生においてでも、決して無駄にはならない(たまには無駄もある)と思う。明日ありと思う心の仇桜、激動の今の時代を同じ職場に集ったのも何かの縁である。年に一度くらい、細かいことは置いといて、皆と桜を楽しんでみるのも如何であろうか。


出岡社会保険労務士事務所  出岡 健太郎

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