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キーマンがキーマンを育てる「人材育成の連鎖」をいかにつくり出すか

組織・人事コンサルティングファームとして高い評価を得ている株式会社ベクトル。
代表の卜部氏に、会社設立の経緯と、人材育成・研修のポイントについて伺いました。

人材育成とは、組織の戦闘能力をアップさせること

会社設立の経緯を教えてください。

私は20数年にわたってダイエーで人事畑を歩んできましたが、その間、企業を強くする人材とは、リーダーとはどういう人か、そういう人をどうすれば育てることができるのかといったことをひたすら考え、さまざまな施策の立案と実行を積み重ねました。そうやってビジネスのリアルな現場で私が得た結論は、人事系コンサルタントの方々などがよくおっしゃる教科書的な内容とは、ずいぶん違うものだったんです。
ダイエーを退社後、この経験をベースにした組織・人事コンサルティングファームとして、2003年6月、株式会社ベクトルをスタートしました。会社といっても、最初は私1人だけ。ワンルームマンションの1室に毎日泊まりこんで仕事をして、週1回、日曜日の午後に洗濯物を持って自宅に帰る。そんな生活をまる1年間続けました。

開業1日目は、自宅に置いていたダンボール20箱分の書類、中古事務機器店で買ったデスクやキャビネットなどをレンタカーに積んで搬入し、それからパソコンの設定、電話の設置、会社の設立登記書類の作成と、ダンボール箱に囲まれて猛然と仕事を始めたことを思い出します。なにしろ1人ですから、サラリーマン時代とは違って、全て自分でやらないといけません。「会社を大きくしない限り、一生これが続く。必死で働いて雇用力をつけて会社を大きくしよう」と固く心に誓ったものですね(笑)。
そして、株式会社ベクトルを起業して以来、私は「人を育てることが使命である」というポリシーのもと、「人を育てるには深い愛情が必要であり、人を育てて、よりハッピーな人生にすることができれば素晴らしいことである」という変わらぬ思いを持って仕事をしてきました。

研修や人材育成の重要性とその意義について教えてください。

「人材の成長なくして、企業はいま以上の成長を望めない」、また、「これからの経営課題で一番重要なことは“人材育成”である」と考えています。そして、人材育成の中で最も重要なことは、「キーマンをいかに育て上げるか」です。そのキーマンがさらなるキーマンを育てる、いわば「人材育成の連鎖(=人を育てる正のスパイラル)」が起き、人材を輩出する会社だけが、巨大企業へと成長していける。このことは、私が過去の経験の中で見いだしたひとつの真理です。そもそも、人材を育成するとは、組織の戦闘能力をアップさせることと同義です。組織を拡大発展させるためには、人材育成による戦闘能力アップ=生産能力を高めるということが重要なんです。

部下を活かして育てる管理職が、まず身につけるべき力とは

株式会社ベクトルの研修の特徴とはどのようなものでしょうか。

人を大きく成長させるためには、まず「考える習慣」をつける必要があります。なぜ考える習慣が重要かというと、考える習慣を持っている人は地頭力を高めることができるからです。地頭力とは、仕事をする、あるいは商売をする上で必要な能力なんですね。たとえば、IQが高く有名大学を卒業している人によくあるパターンですが、担当者として事務処理をしている時は優秀だったのに、管理職になったとたん、残念ながら並以下になってしまう……。これは、事務処理を機械的にこなすことだけに集中し、「考える習慣」がなくなってしまっていたせいかもしれません。
つまり、せっかく研修を行っても、座学で講師の話を効いて機械的にノートをとるだけでは、人は決して大きく成長しないということなんです。そこで、私たちがご提供する研修では、さまざまなテーマを設定し、自分自身で、あるいはグループで徹底的に考え、議論することで、考えることの重要さや楽しさを体験していただいています。研修後も「考える習慣」が継続して身についていくような工夫を盛り込んでいることが、特徴のひとつです。

アンケートによると、一番ニーズが多いのが「新任管理職研修」という結果がありますが。

管理職を対象とした研修を実施する上で、最初に考えるべきことは「人や仕事の内容を評価する力」を育てることではないかと思います。チームを率いていく管理職には当然リーダーシップが求められますが、その前提として絶対に欠かせないのが「人や仕事の内容を評価する力」なんです。この力が満足にない上司だと、部下はついてきませんし、部下を活かして育てることもできませんよね。

たとえば、日本の戦国三英傑、「信長」、「秀吉」、「家康」に当てはめてみると、それぞれリーダーシップスタイルは異なるものの、全て「人や仕事の内容を評価する力」に秀でています。「信長」は農民出身の秀吉や一浪人の光秀などを見出して、彼らを酷使はしましたが、天下を争えるまでに成長させました。これは並々ならぬ「人を見抜く力」=「人や仕事の内容を評価する力」だと思います。
当社では人事戦略コンサルティングの豊富な実績をもとに、新任管理職研修においても「公正な評価者の視点をいかに身につけるか」というところを重視してプログラムを構築しています。

研修後の消化不良を防ぎ、理解度を深めるためにどうするか

企業が研修を企画する上での留意点は?

企業側のアプローチとして、受講者がコスト意識を持つように促すということも、ひとつ、大事なことだと思います。研修規模が小さい時にはさほど気にしないことではありますが、研修の規模・回数が大きくなるにつれて、言ってみれば「研修にタダ乗りする社員」が増える場合がありますので注意する必要があるんです。企業としては、研修の目的を明確にするだけではなく、目的を達成するための最適な受講者層、時期、研修時間を設定することが最も重要ではないでしょうか。

「目的」について、もう少し詳しく教えてください。

研修に限らず、会社での仕事においても同じですが、指示・命令を与える場合には、必ず「なぜやるのか」という背景や意義、理由、そして、その指示・命令を達成した場合にどのようになるのかをイメージさせることが重要です。これは、その人の仕事に対するモチベーションを高めるだけでなく、背景や理由を説明することで理解を促すためにも欠かせないことです。
仕事においてこれを怠ると、後になってから「なぜやるのか」を説明しなければならない、あるいは、納期になっても完了していないといったことが起こりがちなんですね。研修においても同じです。研修後の消化不良が起きないようにするためにも、また、内容の理解度を深めるためにも、研修の冒頭に「なぜやるのか」を時間をかけてでも充分に説明する必要があるんです。

研修の効果を高める2つのポイント

研修の効果を高めるための工夫などがあれば教えてください。

仕事にせよ、スポーツにせよ、素直な人は頑固な人に比べて上達が早いように思います。たとえば、新入社員をみると、素直な人は先輩や上司から教わったことをどんどん吸収していきますが、頑固な人はなかなか吸収できませんよね。自分の狭い価値観ややり方に固執し、新しいものを拒絶する。そして、仮に自分の考えややり方が間違っていても、なかなかそれを認めず、時間ばかりを費やしてしまう。
研修についても同様です。自身の成功体験や価値観に執着せず、素直な気持ちで取り組んでいる人ほど効果は高まるようです。こういう人は、実際のビジネスの中でも、たとえば、競合他社がやっていることで、いいところはどん欲に吸収し、さらにブラッシュアップしているケースが多いんです。ですから、まず素直な気持ちで参加していただくこと、それが研修の効果を高める一番の近道になります。
また、もうひとつ、研修の効果を高めるためには、1日の研修の最後に全体を「俯瞰(ふかん)」することが重要です。俯瞰とは「鳥が空の上から全体を見渡す」、「ヘリコプターの上から全体を見渡す」といったことですが、こうすることで、研修の目的を含む全体像を見失い、部分的なことだけに目が行ってしまうことを防ぐだけでなく、各人が研修後にどのような自己啓発が必要かを考えることができます。そこで、当社の研修では、時間の許す限り、研修の振り返り時間を取るようにしています。

今後のベクトルの活動についてお聞かせください。

研修をご提供する上でのことに限らず、何事においても感謝の気持ちを忘れないということだと思います。私自身も、最近あった出来事がきっかけで、確かに「感謝の気持ちがなければ大きな人間にはなれないように思えてきました。感謝の気持ちで研修を含むいろいろなことに取り組めば、自然と人の役に立ち、自然に人が集まり、結果として全てが上手く回るようになると思っています。

代表プロフィール
株式会社ベクトル 代表取締役社長卜部 憲(うらべ けん)

1956年、大阪府生まれ。
大阪市立大学卒業後、株式会社ダイエーに入社、本社人事畑を歩む。2001年人事本部副本部長就任後、2003年に同社を退社。この間、日経連一般職賃金制度部会委員、同・社会保障制度部会委員を歴任。2003年組織人事コンサルティング・ファーム ベクトルを設立し代表取締役に就任、現在に至る。
著書に『稼ぎすぎて困る・熱血リーダー量産化計画』、共著に『これからの一般職賃金』がある。

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