「介護保険」とは?
「介護保険」とは、介護や支援が必要な方を社会全体で支えていくことを目的として創設された公的な社会保険である。具体的には、65歳以上の要介護状態、あるいは要支援状態になった方が介護サービスを利用した際に、要した費用の一部を保障してもらえるという制度だ。「介護保険」を運営しているのは、全国の市区町村または広域連合となる。いずれも、保険料と税金で賄われている。この制度が開始されたのは2000年。その背景には、高齢化や核家族化が進展する日本の社会事情があった。事実、令和2年10月時点での65歳以上の人口は3619万人。総人口の28.8%をも占めるに至っている。しかも、総人口の減少も加速しており、このままでは家族だけで介護を担うのは厳しくなると言わざるを得ない。そうした社会課題を解決するためにも「介護保険」が創設されることになったと言える。
●「介護保険」の対象者と受給要件
「介護保険」の対象者は、65歳以上の第1号被保険者と40歳から64歳までの第2号被保険者に分けられる。(1)第1号被保険者
要介護、あるいは要支援状態になったときに「介護保険」を利用できる。
(2)第2号被保険者
老化による特定の疾病により要介護・要支援状態となった場合に、「介護保険」が利用可能となる。ちなみに、ここで言う疾病については、次項で詳しく説明するようにしたい。
●「介護保険」の対象となる特定疾病
第2号被保険者は、老化に起因する指定の16疾病により要介護認定を受けた場合に「介護保険」の対象者となる。16疾病は、以下の通りだ。・関節リウマチ
・筋萎縮性側索硬化症
・後縦靱帯骨化症
・骨折を伴う骨粗鬆症
・初老期における認知症
・進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
・脊髄小脳変性症
・脊柱管狭窄症
・早老症
・多系統萎縮症
・糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
・脳血管疾患
・閉塞性動脈硬化症
・慢性閉塞性肺疾患
・両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
●要介護認定とは
要介護認定とは、介護保険制度の下で、介護や支援が必要な人がどの程度の介護サービスを受ける必要があるかを判断するための認定手続きを言う。要介護度が「要支援1・2」または「要介護1〜5」と区分され、必要な介護サービスの量や内容が決まる。「介護保険」の仕組み
次に、「介護保険」の仕組みについて取り上げたい。「介護保険」制度は、被保険者と保険者、介護サービス事業者の三者で構成されている。その仕組みの特徴は以下の三点に集約される。
(1)利用者の自立をサポートする
(2)利用者本位のサービスを利用者が選択して受けられる
(3)社会保険方式の採用により給付と負担の関係を明確化する
「介護保険料」の金額と計算方法
「介護保険料」の金額と計算方法はどうなっているのであろうか。それらについても触れておきたい。●第1号被保険者の介護保険料
第1号被保険者の介護保険料額は、各自治体が設定した保険料基準額に所得区分に合わせて設けられた倍率を掛けて計算する。ちなみに、第8期期間(令和3年度~令和5年度)における「介護保険」の第1号保険料は、6,014円である。所得区分の段階や適用倍率は保険者によって異なってくるが、一般的には9段階、倍率が0.3倍~1.7倍が適用される。保険料基準額6014円、0.5倍が適用される第2段階の方のケース
介護保険料は、6,014円×0.5倍=3,007円となる。
●第2号被保険者の介護保険料
一方、第2号被保険者の介護保険料額は、加入している健康保険の種類によって計算方法が変わってくる。ただし、いずれであっても40歳からの支払いが義務付けられている。ちなみに、通常の健康保険料に上乗せして支払うことになる。(1)健康保険の加入者
健康保険ごとに設定されている介護保険料率、給与・賞与の額に基づいて決定される。
協会けんぽの場合では、標準報酬月額が25万円だとするとそこに介護保険料率1.60%(令和6年3月分、4月30日納付期限分)を掛け合わせる。すなわち、25万円×1.60%=4,000円。保険料は事業主との折半になるので、実際に負担するのは4,000円÷2=2,000円となる。
(2)国民健康保険の加入者
世帯ごとの所得に基づいて計算される。その際には、被保険者の全額負担となる。
「介護保険」で受けられるサービス
「介護保険」サービスには、主に以下の5種類がある。それぞれを取り上げていく。(1)居宅介護サービス
施設には入所せず、できる限り自宅で介護を受けられるサービスを言う。以下の通り、さまざまなサービスがある。・訪問サービス
訪問介護や訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリ、居宅療養管理指導など
・通所サービス
通所介護(デイサービス)、通所リハビリ(デイケア)など。
・短期入所サービス
短期入所生活介護(ショートステイ)、短期入所療養介護(ショートステイ)など。
・福祉用具・住宅に関するサービス
介護ベッド、車イスなどのレンタルなど。
(2)地域密着型サービス
住み慣れた地域での生活を支援するサービスを指す。具体的には以下のサービスがある。・定期巡回・随時対応型訪問介護看護
・夜間対応型訪問介護
・地域密着型通所介護
デイサービスセンターなどで提供される。
・療養通所介護
・認知症対応型通所介護
・小規模多機能型居宅介護
・認知症対応型共同生活介護
入所型のサービス。グループホームとも呼称される。
(3)居宅介護支援
居宅サービスや地域密着型サービスなどを円滑に利用できるよう、利用者本人や家族の要望を汲んだ上でケアマネージャー(介護支援専門員)が介護サービスの利用計画(ケアプラン)を作成する他、計画が適切に実施されるよう介護サービス提供事業者との連絡・調整役、家族の相談対応などをしてくれるサービスだ。(4)施設介護サービス
介護度や症状に応じた介護保険施設に入所し、生活を送ることを言う。対象となる施設は4種類ある。・特別養護老人ホーム(特養)
公的機関が運営しているので費用が安い。人気が高いので入居待ちの施設が多い。
・介護老人保健施設(老健)
・介護療養型医療施設
・介護医療院
(5)介護予防サービス(予防給付)
要支援1、または要支援2と認定された方が対象。生活支援やリハビリなどを行い、心身機能の維持・改善を図ることを目的としている。具体的には、訪問看護や訪問リハビリ、デイサービス、一部の介護用品(福祉用具)のレンタル、住宅改修などが可能となる。自己負担も1割~3割と変わらないが、支給限度額が要介護よりも低く設定されている。自己負担の割合や支給限度額は?
続いて、自己負担の割合や支給限度額についても解説しておきたい。●「介護保険」の自己負担の割合
「介護保険」の自己負担額は、第1号被保険者本人と世帯での合計所得金額などに応じて1割~3割と設定されている。ただし、現役時と変わらないレベルの所得がある高齢者は、介護保険利用時の自己負担割合は3割。また、第2号被保険者や住民税非課税者、生活保護受給者はいずれも1割負担となっている。●「介護保険」の支給限度額
要支援・介護度に応じて支給限度額が決められている。当然ながら、介護度が上がるに連れて支給限度額が高額となる。ただし、その金額を超えた場合には全額を自己負担しなければいけない。「介護保険」の手続き
最後に、「介護保険」を利用するまでの流れを説明したい。(1)要介護・要支援の認定申請
まず、市区町村の介護保険担当窓口あるいは地域包括支援センターで本人、または家族が要介護(要支援)認定の申請を行わないといけない。いずれも困難な場合は代理人でも可。手続きの際には、第1号被保険者は介護保険の被保険者証、第2号被保険者は医療保険の被保険者証を提示する必要がある。(2)認定調査
申請手続きを終えると、追って介護認定調査員が申請者の自宅を訪問。被保険者の心身に関する聞き取りや身体機能、認知機能の調査が行われる。並行して、市区町村は被保険者のかかりつけ医に対して心身の状況に関する意見書の作成を依頼することになる。(3)要介護・要支援の認定
上記(2)の結果を踏まえ、介護認定審査会において要介護・要支援の有無、要介護度・要支援度の決定を行う。必要度に関しては7つの段階が設けられている。認定があった場合には、申請から30日以内に結果が通知される。ただし、認定結果には有効期限がある。期限が切れると認定の効力がなくなるので注意を要したい。(4)ケアプランの作成・サービスの利用開始
要介護・要支援の認定を受けた後に、介護サービス事業者にケアプランの作成を依頼する。そのプランに則って介護サービスを利用した際には、「介護保険」が適用されることとなる。まとめ
少子高齢化や核家族化が進行する日本では、「介護保険」はとても有効なサービスと言える。もはや家族だけでは守り切れない状況になっているからだ。いざというケースに備えて、早めに制度の仕組みや利用方法などを理解しておく必要がある。留意したいのは、「介護保険」制度を実情にマッチさせるために、ほぼ3年ペースで見直されていることだ。実は、2000年に施行されて以来、5回も大きな改正が行われている。なので、常に最新情報を抑えておく必要がある。昨今、力点が置かれているのは介護予防だ。要介護・要支援状態になる前に、いかに手を打つかがポイントとなっている。元気なうちにできることはないか、人事担当者やマネジメント職の方にもぜひ検討してもらいたい。
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