「属人化」とは、業務の仕方や進め方、そして現在の進捗状況について、特定の従業員のみが把握している状況を指す言葉だ。特定の従業員しかその業務の仕方やかかる時間を把握していないため、その人物が休職した時や退職した時に業務がストップするという問題が起きる。属人化は、業務効率化や生産性向上を目指す企業の大きな障壁となるだろう。本記事では、属人化はなぜ発生するのか、防ぐためにはどうすればいいのか解説していく。
「属人化」の意味やリスク、デメリットとは? 解消のメリット、急な退職にも慌てないポイントなどを解説

「属人化」の意味や原因とは何か

「属人化」とは、企業内で業務の仕方が共有されていない状況のことである。特定の業務に詳しい従業員が生まれるきっかけにもなるが、業務を把握している人が不在になった際、残された従業員は進め方が分からず、業務が停滞してしまうという恐れもある。では、属人化はどうして起こるのか、その原因について見ていこう。

●多忙な業務

業務を複数の従業員で共有するためには、マニュアルの策定や教育が必要だ。ただ、多忙な業務をこなす中で、マニュアルを作る時間や教育の機会を設けるのは難しい。また、教える従業員自身も業務をこなさないとならないため、それを教える時間や体力が必要となる。属人化によって、さらに属人化が進むという悪循環にも陥る可能性があるのだ。

●業務における専門性の高さ

「その人にしかできない」という専門性の高い業務は、属人化しやすい業務ともいえる。その中でも、マニュアルに頼れない高度な判断が求められるような業務は、誰にでもできるものではない。よって属人化に至ってしまう。

●人手不足

そもそも、業務を共有化する人がいないという「人手不足」も属人化の原因となり得る。

●個人成果主義

成果主義を採用している企業でも属人化が発生しやすい。個別の社員が持っている情報や仕事の仕方が成果につながる場合、それを他の仲間に共有しようしない社員もいる。

●地位の維持

自分の代わりを作らないことで自分の地位を守ろうとする従業員がいることも、属人化が広がる一因だ。自分以外に特定の業務についての知識を持つ従業員がいないことで、ミスが周囲に判明しないのは大きなリスクである。

「属人化」を対策することによるメリット、放置によるリスクとデメリット

「属人化」を放っておくと、その業務を担当する人がいなくなった際、業務自体がストップするという事態に陥る恐れがある。ここでは、属人化対策を行うメリット、そして放置したままにすることのリスクやデメリットを解説する。

【対策することによるメリット】

●クオリティを維持、向上できる
属人化の対策を行うと、ベテラン・中堅・新入社員など、どのようなレベルの従業員でも同じクオリティの仕事ができるようになる。また、同じ業務を担当できる従業員が多い場合、改善策や質の向上についての意見も出やすくなり、クオリティの向上につなげることもできる。

●業務効率の向上
属人化を解消することで、仕事のやり方が社内に蓄積されやすくなる。今まで蓄積された仕事のやり方を、新入社員や異動してきた従業員にも伝えることができると、試行錯誤する時間の削減も可能だ。よって業務効率化も叶う。

●空いたリソースを有効活用できる
マニュアルを策定し、誰でも同じレベルで仕事ができるようにしておくと、仕事のやり方について迷う時間を削減することができる。空いた時間を別の業務に充てることが可能になるのだ。また、上司・ベテラン従業員側にとっても、教える時間を取る必要がなくなるだろう。

●急な退職、休職にも対応できる
属人化した業務がある企業の場合、担当者が急に退職すれば業務がストップするかもしれない。また、引継ぎを行うにしても、普段の業務もあるため、さらに忙しくなることも予想される。普段から業務を共有化しておけば、引継ぎに時間を取られることもない。

●業務の専門性が高まりスキルアップできる
一人で業務を担当していても、どの点が足りないのか分かりにくいため、スキルアップしにくいという面がある。同じ業務を何人かで担当すれば、不足している点や改善点が見えやすくなり、全体で業務の専門性を高めることも可能になる。

【属人化によるリスク、デメリット】

●業務のブラックボックス化
属人化を放置することで、どのような流れでその業務を行っているかが誰にも分からなくなる。特に成長しつつあり分業化を進めている企業では、属人化が発生しやすくなるため注意が必要だ。

●ボトルネックが生まれる
属人化では慣れた従業員のみがその業務を担当することもあり、業務効率が向上したように見えるが、長期的に見れば業務効率は低下するといえる。なぜなら、担当者が不在になった際、属人化された業務を行う人がいないからだ。特に担当者の退職の場合は、業務が完全にストップするという懸念もある。

●品質の低下
属人化した業務は、担当者しか把握していない状態といってもよい。担当者の仕事の仕方が正しいかどうかを誰も判断できない状況となる。結果的に間違いに気づけず、仕事の品質低下をもたらすことにもなりかねない。

●引継ぎがうまくできない
限られた従業員のみが担当する業務では、マニュアルがきちんと策定されていない場合がある。いざ引継ぎをするとなった時に、何から教えればいいのか、どこまで仕事の仕方を習得してもらえばいいのかがはっきり分からず、引継ぎが失敗する可能性もある。

●適正な評価が下せない
属人化された業務は、特定の従業員にしか詳細が分からないため、上手く仕事を行えているか上司が判断しにくい。よって、正しい人事評価を下せなくなるという懸念が生じる。

●ミスに気づけない、隠蔽されやすい
その業務ができる担当者が1人しかいない場合、ミスに気づきにくいリスクがある。結果的にミスの隠蔽につながる恐れもある。また、どのような仕事をしているかが分からないため、周りの従業員も注意しにくいといった状況も生まれる。

●ナレッジや技術の消失
属人化された業務を担当する従業員がいなくなると、知識や技術が継承されず、そのまま企業から消失する場合もある。

●社内の風通しの悪化
属人化している業務は他の従業員から分かりにくい。意見交換や指導ができない状態となり、コミュニケーションが取れにくくなるため、社内の雰囲気悪化につながる可能性もある。

「属人化」を防がなければならない業務とは

「属人化」を防がねばならない4つの業務について確認していく。

●バックオフィスの業務

総務・人事労務関連、経理、その他事務関連の業務については、担当者ごとに仕事の仕方が違う、仕事の仕方が分からない、といった状況を絶対に発生させてはならない。誰でも同じクオリティを提供する必要があるからだ。

●トラブルやセキュリティの対応

トラブルやセキュリティの対応は、社内で統一させておく必要がある。担当者によって言うことが違うという状況は、大きな問題の原因につながりかねない。

●自社製品・サービスの説明

自社製品やサービスの説明についても、誰か1人だけが把握するのではなく、社内で共有する必要がある。顧客の混乱を避けるため、そして営業力強化の観点からも望ましい。

●業務やプロジェクトのフロー

「問い合わせの回答」、「プロジェクトの進め方」なども、従業員によって違うという事態を避けねばならない。従業員それぞれで言うことや進め方が異なると、仕事の進捗管理にも悪影響を及ぼす。

「属人化」を解消していくための3つのポイント

最後に、「属人化」を解消していくための3つのポイントについて解説する。

●業務フローの可視化

業務が複雑になることは属人化にもつながる。出来る限り業務フローを可視化できるようにし、従業員同士で共有することが重要だ。業務フローがきちんと出来ていれば、各従業員の仕事の進捗具合も適宜確認することができる。

●マニュアルの作成

ルーティン作業、問い合わせの対応などについては、業務ごとのマニュアルを作成するとよい。その際、どのレベルの従業員が見ても分かるようにすることが重要だ。文章だけでなく、図や画像を盛り込んだマニュアルを作っておけば、誰にでも理解されやすい。

●PDCAを回す

業務フローやマニュアルが完成してもそれで終わりではない。運用して、不足点・改善点があれば都度修正していきたい。業務フローやマニュアルを見直すことで、今以上に業務の効率化を進めることができるからだ。
「属人化」には、その業務の専門家が生まれやすい、従業員個人のスキルアップができるといったメリットがある。反面、担当者が休んだ時に誰もその仕事の仕方が分からない、他の人には仕事の仕方が正しいのか判断ができないというデメリットがあるのも事実だ。長い目で見ると、特定の従業員のみが仕事の仕方を把握している属人化は、企業の成長の妨げとなるため、解消していかねばならない。特に、バックオフィス業務、トラブル対応は社内で業務の仕方を共有しておきたい部分だ。業務フローの可視化やマニュアルの作成など、属人化を解消するための方法はいくつもある。自社に合った方法で属人化を解消し、誰が業務を行っても同じレベルでこなせるようにしていきたい。
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