「マインドフルネス」とは、“今ここにあることに心を向けた状態”のことを指す。働く中でのメンタルヘルスの問題が取り沙汰される現在、マインドフルネスを実践することで、雑念を消し集中力を高める効果が期待される。また、身体や心の状態を良好に保つ「ウェルビーイング」という観点からもマインドフルネスは注目を集めている。グーグルでも導入されている「マインドフルネス」には、どのようなメリット・デメリットがあるのだろうか。実践する際の注意点とあわせて解説する。
グーグルも導入する「マインドフルネス」の意味やデメリットとは? 集中力やストレス軽減などの効果や企業事例なども解説

「マインドフルネス」の意味や注目されている背景とは

「マインドフルネス」とは、“今ここに集中すること”を意味です。例えば、目の前の仕事をこなしながら、「あの件はどうなっている?」といったように他の案件のことを考えてしまうことがあるかもしれない。これはマインドフルネスとは言えない状態だ。

マインドフルネスが注目されるようになった背景とは何か、そして必要性についても確認する。

●「マインドフルネス」が注目されるようになった背景

・労働人口の減少
労働人口の減少は大きな社会問題となっている。そのなかで、生産性の向上や業務の効率化が今後ますます重要になるとみられている。今在籍する従業員で業務を効率よく行う必要がある。そこで、各従業員のパフォーマンスを上げる手段として、「マインドフルネス」が注目されるようになってきている。

・従業員のメンタルヘルス問題
企業の人材不足もあり、従業員個人への負担が増大している。そのなかでメンタルに不調をきたす人が増えていることも問題となっている。「今ここ」に集中するマインドフルネスを活用することで、従業員の心の健康を保つことが期待されている。

●「マインドフルネス」の必要性

ある程度長く一つの企業に在籍していると、「何のために働くのか」、「これからどう働けばいいのか」など、業務や会社に疑問を持つ従業員も出てくる。「マインドフルネス」を活用すると今に集中することができる。そのため、従業員のモチベーションの維持や向上などが期待されているのだ。

集中力やストレス軽減など「マインドフルネス」がもたらす効果

「マインドフルネス」は主に以下のような効果をもたらすと言われている。

●集中力

「マインドフルネス」では主に瞑想を行う。瞑想には、今関係ないことを考えるのを止める効果があるため、結果として目の前の出来事に集中できるようになる。

●セルフウェアネスやセルフマネジメント

セルフウェアネスやセルフマネジメントの向上、つまり「自己認識能力」や「自己管理力」の向上も「マインドフルネス」によって得られる効果の一つだ。瞑想を行うことで自己を振り返ることができるため、自分のやるべきこともはっきり見えてくる。具体的な目標が定まっていない人が、今後何を目指すかという道筋をつける効果もある。

●ビジネスパフォーマンス

「マインドフルネス」を取り入れることで、各従業員のパフォーマンスが向上することも期待できる。瞑想で頭の中を整理できるため、余計なことを考えずに目の前の業務に集中できるようになるためだ。

●ストレス

「マインドフルネス」の大きな効果として“ストレスの軽減”が挙げられる。自分の内面を見つめ直すことで、心を穏やかにすることができるためだ。海外でも瞑想がストレス軽減に役立つという調査結果が出ている。

●内発的動機付け

瞑想を極めていくと、自分の深層心理や価値観まで知ることができるようにもなる。「本当に大事にしたいこと、やりたいこと」と仕事が繋がることは、内発的動機付けとなる。

●免疫機能

「マインドフルネス」を活用することは、ストレスの減少に繋がるが、ストレスが減少すると免疫機能の向上も期待できる。

デメリットや注意点の観点から「マインドフルネス」実践のポイントを整理

「マインドフルネス」を行うことで集中力の向上、ビジネスパフォーマンスの向上、ストレス解消などが期待できる。しかし以下のようなデメリットや注意点もあるため、実践に向けたポイントとして把握しておこう。

●デメリット

・不安の増大
「マインドフルネス」では自分の心と向き合うことになる。心の中に大きな不安、ネガティブな感情を抱えたままマインドフルネスを行った場合、ネガティブな感情がポジティブな感情を上回り、ますます不安感が増大する可能性がある。

・社員の離職
「マインドフルネス」で自分の価値観を深掘りすることで、今の業務や会社が自分の価値観とは異なると感じる従業員も出てくるかもしれない。気づいた時点で企業と従業員の価値観や意見のすり合わせができないと離職される可能性もある。

●注意点

・目的の明確化
「マインドフルネス」は、「どのような従業員が行うか」、「目的は何か」を明確にしてから行うようにする。例えば以下のような対象者や目的が考えられる。

・業務の時間配分に悩んでいる従業員が、効率よく仕事をこなせるようになるため
・新しい部署に転勤したての従業員が、早く馴染んで良いパフォーマンスを発揮できるようになるため
・最近管理職になりたての人が、部下と上手にコミュニケーションを取りながら業務を配分できるようになるため

対象者と目的がはっきりしていれば、それぞれに合ったマインドフルネスを実施することができる。

・雑念を払う
周りの雑音や自分の雑念に心が向いてしまったままだと、「マインドフルネス」は上手くいかない。もし雑念が出てきてしまうのであれば、それを一度受け止め、その雑念を払ってしまう想像をすることが必要だ。雑念を払った後に、改めて瞑想を行おう。

・眠らないようにする
「マインドフルネス」ではリラックスして瞑想を行うため、中には眠ってしまう人が出てくるかもしれない。ただ、瞑想の途中で眠ってしまうと、不安や悩み事がそのまま夢の中に出てくる恐れもあるため注意が必要だ。「自分の心と向き合う」という目的意識を持ちながら行うことが重要になる。

・継続できる環境の構築
「マインドフルネス」は一度だけ行えばいいものではない。継続して行うことで効果が徐々に上がっていく。この原則を踏まえると、企業内でマインドフルネスの瞑想や研修を行う際は、複数回実施することが重要とる。短時間の研修を繰り返し行うようにすると、従業員の負担にもなりにくいだろう。

また、状況が許せばだが、社内に「マインドフルネス専用ルーム」を設けて、瞑想に集中できる空間を確保するという方法もある。

「マインドフルネス」を導入する企業の事例紹介

「マインドフルネス」を導入している企業はどのように実践しているのか、「グーグル」と「ヤフー」の例をご紹介する。

●グーグル

グーグルは、「マインドフルネス」に力を入れていることでも知られている。「ウェルビーイング」に着目し、身体、心、社会的にも全てが満たされている状態をマインドフルネスの活用で実現しようとしているのだ。

2007年からは「Search Inside Yourself(サーチ・インサイド・ユアセルフ)」というマインドフルネスをもとにした能力開発プログラムをスタートさせ、心と思考力の強化を目指している。具体的には7週間の間、1日数分の瞑想を行うというものだ。目安としては30分~1時間程度を勧めており、瞑想の方法については特に定めていない。

瞑想の効果としては「生産性の向上」、「ストレス軽減」、「自己制御力の向上」などが報告されている。

●ヤフー

ヤフーでは、2016年からマインドフルネスプログラムの実施が始まっている。1回60分のマインドフルネスプログラムを7週間実施するというものだ。今までに延べ1,500名以上が参加している。

本来はリーダーシップの向上を目的として導入されたマインドフルネスプログラム。実施者のパフォーマンスが未実施者に比べ大きく向上しているという結果が出たため、対象をその他の従業員にも広げたという経緯がある。
働く人の減少、ストレスの増大など、昨今は企業、従業員双方にとって厳しい時代に突入している。そのようななかでメンタルヘルスを保ち、より良いパフォーマンスを出せる手法として、「マインドフルネス」に注目が集まっている。マインドフルネスを活用することで、従業員は「今ここ」に集中することができ、パフォーマンスの向上のみならず、やる気の向上、心の健康の維持などの効果が見込める。企業側にとっても、マインドフルネスを活用し、従業員に心身ともに健康で働いてもらうことで、業務の効率化、生産性の向上が実現でき、将来的には組織強化や業績の向上というメリットも期待できる。対象者や目的をはっきりと定めて行わないとならない、という注意点もあるが、マインドフルネスを行うことは企業・従業員どちらにも大きな利点があるといえる。
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