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労働人口の減少に伴い、人材の定着を促す「リテンションマネジメント」が重要視される傾向が強まっている。将来を担う若手人材の早期退職や過度の人材獲得競争による優秀な人材の離職を防止・抑止する目的でも注目度は高い。また、人材採用の過程で、採用予定者や内定候補者の人物像や前職での働きぶりなどに関する情報を、元上司・同僚・部下などの第三者から取得する「リファレンスチェック」も近年、関心を集めている。リファレンスチェックは書類や面接だけでは伝わりにくい候補者の長所・短所の両面を客観的に把握することが可能となることから、選考はもちろんのこと、入社後の活躍やエンゲージメントの向上にもつながるとされ、国内企業でも実施の広がりを見せている。

これを受け今回、働く人のキャリアや組織マネジメントの問題を専門とし、リテンションマネジメントに関する書籍も複数、執筆されている青山学院大学 経営学部 山本寛教授と、業界に先駆けてリファレンスチェックサービス『back check』を展開している株式会社ROXX 代表取締役 中嶋汰朗氏の対談を企画。リテンションマネジメントが重視される背景や、リファレンスチェックとの親和性、その有効性などをお話いただいた。

プロフィール


  • 山本 寛 氏

    山本 寛 氏
    青山学院大学 経営学部 教授

    人的資源管理論・キャリアデザイン論担当。博士(経営学)。メルボルン大学客員研究員歴任。働く人のキャリアとそれに関わる組織のマネジメントが専門。著書(単著)として、『連鎖退職』、『なぜ、御社は若手が辞めるのか』、『「中だるみ社員」の罠』(以上日経BP社)、『人材定着のマネジメント』(中央経済社)、『自分のキャリアを磨く方法』、『転職とキャリアの研究〔改訂版〕』、『働く人のためのエンプロイアビリティ』、『昇進の研究〔増補改訂版〕』(以上創成社)がある。著書(編著)として『働く人のキャリアの停滞』(創成社)がある。

  • 中嶋 汰朗 氏

    中嶋 汰朗 氏
    株式会社ROXX 代表取締役

    青山学院大学在学中に株式会社ROXXを設立し、代表取締役に就任。2018年5月、人材紹介会社の収益化に特化した経営支援プラットフォーム『agent bank』をリリース。2019年10月、月額定額制のリファレンスチェックサービス『back check』をリリース。両事業の拡大を通じて、包括的な人材採用支援サービスの実現を目指している。

転職が当たり前の時代だからこそ、リテンションマネジメントがますます求められる

――まずはお二人の自己紹介をお願いします。簡単なご経歴、現在の研究や事業の取り組みなどをご紹介いただければと思います。

山本氏:青山学院大学 経営学部で人的資源管理論やキャリアデザイン論を担当しています。研究分野はリテンションマネジメントを中心に組織間でのキャリア形成、エンプロイアビリティ(組織に雇用される能力)、ジョブ型雇用、専門性の形成などがあります。

中嶋氏:青山学院大学在学中に起業し、8年目になります。設立当初から一貫して人材サービス領域で事業を展開し、現在は2つのサービスを手がけています。1つは人材紹介プラットフォーム『agent bank』です。求人企業はROXXとの契約だけで国内の人材紹介会社とつながることが可能となり、求職者はその人材紹介会社から圧倒的な件数の求人情報を取得できる仕組みとなっています。

もう1つは本日のテーマとなっているリファレンスチェックをオンラインで完結できる『back check』です。2019年10月から本格的に提供開始したサービスで、昨今の中途採用やいわゆるDX/デジタル人材の募集などによる雇用の流動性の活発化に伴い、さまざまな業界において導入企業が急速に伸びています。

――山本先生にお聞きします。なぜ今、雇用の流動性が活発化しているのでしょうか。若手人材を中心に離職者が増える理由をご教示ください。

山本氏:企業の制度や風土などの内部、時代背景や置かれた状況などの外部、それぞれの要因があり重なっている部分もありますが、2つに分けて提示したいと思います。まず内部要因は4つあります。

1つめは長時間労働やワークライフバランスに対する要求水準が全国的に高まっていること。今やブラック企業という言葉は高校生でも知っているほど、残業に対する極端な忌避傾向があります。同業他社と比較し就業環境が少しでも悪いとブラック企業のレッテルを貼られ、退職意向につながります。

2つめはミスマッチです。具体的には想像していた仕事ができないなどです。ミスマッチは完璧には抑えられませんが、あらゆる機会を利用して軽減する努力が必要です。

3つめはコミュニケーション不足です。コミュニケーションがうまくいっていると退職の引き留めが可能となるケースもありますが、うまく機能していないのが実情です。数多くの企業で1on1ミーティングの実施も見られますが、単なる業務進捗の確認になっていることも少なくありません。

4つめは古い制度の残存です。特に若手から見ると、なぜこんな古臭いことが残っているのか、アプリを使えば簡単にできるのではないのかと疑問が募ります。

続いて、外部要因を3つ指摘します。1つめは働き方改革における問題です。内部要因の1つめを補強するような内容ですが、働きがいの向上に関する取り組みの甘さがあります。勤務時間が短くなったからといって、働きがいの向上にはつながりません。働いて何を得られるか。成長できる、褒められる、評価される。この点が見過ごされているように感じます。

2つめはSDGsの8番目「働きがいも経済成長も」の部分と関係します。働くことを通じて成長実感あるいは成長を予感してもらえるか。若手を中心に世間は働きがいを求めているのに、企業側の支援は十分とは言えません。

3つめはジョブ型雇用です。特に優秀な人材は所属する企業のみならず、労働市場全体で評価されることを求めます。企業側は人材の専門性を高め、市場価値を高めることにも注力しなければならないでしょう。

――中嶋さんはスタートアップの経営を通して、若手人材の採用や定着、離職について実感していることはありますでしょうか。

中嶋氏:ここ5年ほどでの変化が大きいと感じています。個人的な感覚ですが、5年前は転職そのものがまだそれほど身近なものではありませんでした。

山本氏:そうですね。今は大学生でも転職を考えているほどです。根底にあるのがSNSの存在で、「転職してよかった」「キャリアアップできた」というような実体験エピソードを目にする機会がめずらしくありませんから、身近な選択肢として転職が加わっているようです。

中嶋氏:今は「転職したい」と言えば企業から声のかかる状況です。IT業界のなかでも特にスタートアップを中心に売り手市場が続いており、求職者にとって選択肢の多い状況と言えます。ただ、スキルが身につかないままに転職を繰り返すことに疑問も感じます。また、最近では、大手企業と並行して当社のようなスタートアップへの転職を考える人も増えている印象があります。

山本氏:新卒でスタートアップの選考を受ける場合は、長期インターンシップがきっかけとなっていることが多いようです。インターンシップを通じ、成長機会を持てそうだ、この企業あるいは業界は伸びそうだと手応えを得て、スタートアップに飛び込んでいます。

――転職が身近になり、離職者が一定数出るのは避けられない状況と考えられます。こうした中で、リテンションマネジメントの重要性や効果を教えていただければと思います。

山本氏:人材の定着を意味する「リテンション」には指標が2つあります。平均勤続年数と退職率です。また、単に長くいるだけにとどまらず、自分の能力を発揮して活躍することを含めると、「ポジティブリテンション」という言い方をすることもあります。その上で、その重要性を7つ挙げたいと思います。具体的には「採用・教育訓練コストの回収」「採用とのwin-winの関係」「リピュテーションリスクの回避」「育成の連鎖の実現」「組織独自の知識・暗黙知の保持」「組織文化や風土の保持」「業績悪化の回避」です。

このうち、「採用とのwin-winの関係」とは、人材が定着することで評判が高まり、採用につながることを指します。その結果、先に入社した先輩社員が次年度の社員を指導する育成の連鎖にもつながります。また、業績悪化の回避は、私が以前に業種横断的に調査した結果で、明確な結論は出せないものの、リテンションが成功している企業は売上高と経常利益にプラスの影響を及ぼしていた結果を示しています。

――リテンションを成功させるために、どのような施策が有効と考えられますか。

山本氏:人材が辞めない会社とは、やはり社風や雰囲気の良い会社です。社風や雰囲気が良いとは具体的にどんな状況かというと、風通しが良い、透明性が高いことを指します。風通しが良く透明性の高い企業は、得てしてコミュニケーションが活発で、心理的安全性も担保されています。特に、上司・同僚・他部署という縦横斜めの関係でコミュニケーションができるよう支援している企業は、リテンションが成功しているケースが多いです。

また、先ほどもお伝えした通り、特に若手社員にはワークライフバランスは整っていて当たり前。それ以上に、働きがい、成長実感・成長予感を考慮することが求められます。実際、成長実感が高くなるに従い、継続就業意向が高まる(パーソル総合研究所:働く10,000人の就業・成長定点調査、2020)との調査結果もあります。あわせて、「入社した会社で働くことの最近感じるメリット」の第1位は自身の成長(日本労働調査組合、2021)ということもご記憶いただきたいと思います。また、リテンションマネジメントを効果的に実現するには入社前から退職までトータルで考えることが必要になります。
山本教授

リファレンスチェックは、ミスマッチを減らすのみならず配置やマネジメントにも有効

――採用段階から定着を見据えることの必要性が指摘されましたが、その場合、リファレンスチェックは有効な手段の一つと考えられます。中嶋さんからリファレンスチェックの概要、また、貴社のサービスについてご紹介いただければと思います。

中嶋氏:「リファレンスチェック」とは、採用候補者の人物像や前職の実績を第三者に照会することです。日本の場合、本人の許可なしで第三者に情報を取得することは法律上できません。このため、候補者の許可を得て、候補者を推薦する人物にヒアリングします。「リファレンスチェック」というといわゆる素行調査のようなネガティブチェックを想像するかもしれませんが、候補者のプラス・マイナス両面の特徴をバランスよくヒアリングします。
中嶋様

この後、下記のトピックが続きます。
続きは、記事をダウンロードしてご覧ください。
●若手人材が離職する内部/外部要因
●リテンションマネジメントの重要性〜人材定着をはかる2つの指標とは
●リファレンスチェックは、面接時の情報の非対称性を軽減する
●「リファラル採用」よりも実用性が高い「リファレンスチェック」の強み
●日本の採用文化のひとつになる「リファレンスチェックサービス」の展望

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