「70歳就業法」を前提とした制度設計の“3つの課題”

次に、制度設計で考えるべき課題を紹介する。なお、60歳定年といった区切りを「切替」と表現する。

1.切替前後の整合性
切替前後で制度を変えるのか、変える場合は切替後の制度に等級やコースのような区分を設けるのかを考える。定年までの賃金に年功要素がある場合、切替時に制度を変えることが多くなる。また、定年後も管理職や専門職としての活躍を期待する場合、区分を設計するのが望ましい。組織や事業運営に影響するポジションの社員に「一律賃金4割減」のような制度を適用するのは本来乱暴と言える。

ちなみにこんな会社もある。事務処理を請け負うA社やアパレル関連のB社では、作業効率や顧客特性、そしてデジタルへの対応力から、シニア社員の雇用は必要ないと判断。再雇用時に一律で賃金を低減させ、再雇用後も逓減させる制度を取り、同時に早期退職優遇制度を積極的に活用している。一方、介護サービスのC社は人手不足と元々の低賃金から、定年制はあるが賃金水準は変えていない。

2.切替時期
切替時期とは、再雇用などの別制度に移る年齢を指す。最も多い60歳、その他65歳や70歳などの年齢で区切る、または定年なしで切替時期のないパターンもある。なお、70歳まで雇用する場合、60歳時点で「一律3割」など賃金を下げ、昇給も賞与もない状態を10年続けるのは、働く側も限界を感じる。60歳で再雇用となった数年間は会社への恩義などから真面目に働くかもしれないが、健康問題や親・配偶者の介護など何が起こるか分からない中、インセンティブのない低賃金で10年間パフォーマンス高く働けると考える方が無理である。

そこで、定年を65歳まで延ばす会社も徐々に増えている。一方、1年更新で毎年処遇を見直せるという再雇用の利点を確保しておきたい会社もある。人材活用や報酬原資が絡む中、切替時期に合わせて切替後の運用も意識した制度を検討する必要がある。

3.切替方法
制度が切り替わるタイミングはセンシティブである。報酬原資の制約があり、人事としては下げざるを得ない中、賃金を「一律低減」させる方法が比較的多い。ただ、前述のとおり一律低減は乱暴な対応であり、また別の意味でも問題は起こる。例えば、部長だった人を定年時に役職から外し、賃金を下げる場合、下位等級の社員と実際の職務がほぼ変わらないにもかかわらず、それより高い賃金が維持されることがある。部長などの管理職に長くいると専門性が高まらないため、現場の仕事についていけずに職場のお荷物的な存在となる場合もあるが、それでも賃金は相対的に高い。悩ましい問題である。

「70歳就業法」のための最も理にかなった報酬制度のカタチ

最後に理想を少し語りたい。ここまでは、人事経験者には聞いたことのある話が多いと思う。一方で人事以外の人に話すと、後付けの対応ばかりだと呆れ顔をされる。

本来、職務の現在価値と報酬とが一致していれば、こんな対応は必要ない。いわゆるジョブ型の制度なら、管理職や高度専門職には高い賃金を払い、外れれば賃金は下がる。一般社員も職務価値以上の賃金にはならない。年齢を重ねても、同じ職務であれば賃金はそれほど変わらない。定年という「年齢差別」の制度が必要なくなる。

一方、ジョブ型が良いと言っても、新卒採用や若手育成を重視する能力型の制度を否定するつもりはない。少し考えてほしい。ジョブ型ど真ん中の外資系コンサルファームが、日本では普通に新卒採用を行い、学生を採用・育成している。優秀な人材を確保するために有効だと認識しているからである。

このように「職務」と「能力」を組み合わせた制度が、日本ではひとつの理想だと考える。この制度が実現すれば、質の高い社員を採用・育成し活かすことができ、定年制にシニア向けの別制度も作る必要がない。「70歳就業」を実現するためにも理に適った制度である。

今回は、報酬制度設計の考え方を整理した。最後に理想も述べたが、現実は模索の連続である。そこで次回は、制度設計が上手くいかなかった事例を取り上げ、施策成功への道のりを考えていく。
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