キャリア採用比率向上は、キャリア採用数増だけではない

次に、キャリア採用比率向上に向けた取り組み意向についても確認してみました。「すでに取り組んでいる」は、大企業25%、中堅企業19%、中小企業13%と企業規模が大きいほど取り組みが進んでいることが分かります[図表6]。また、「2021年度から取り組む予定である」と「取り組む方向で検討中である」を合わせた「これから取り組む」派も同様に、大企業35%、中堅企業25%、中小企業7%と、企業規模による違いが鮮明に出ています。
第121回 「中途採用比率の公表」に向けた各企業の取り組みの状況は
今回の法改正が「常時雇用する労働者が301人以上の企業」を対象としているため、規模による対応の違いは当然の結果かもしれません。ただ、公表義務の対象であるにもかかわらず、中堅企業では「取り組む予定はない」とする企業が43%(大企業15%)もあります。前項で見たように、必ずしも中堅企業では大企業よりもキャリア採用比率が高いとも言い切れない中で、取り組み姿勢には大企業と温度差があります。

続いて、「すでに取り組んでいる」と「これから取り組む」派を対象に、キャリア採用比率向上のための方法を聞いたところ、全体では「キャリア採用数を増加させる」が64%で最多であるものの、「キャリア採用数を増加させ、新卒採用数を減少させる」が20%、「新卒採用数を減少させる」ことで相対的にキャリア採用比率を高めるとする企業が4%と、両者を合わせた「新卒採用数の減少」派が24%にも上ります[図表7]
第121回 「中途採用比率の公表」に向けた各企業の取り組みの状況は
企業規模別に見ると、「新卒採用数の減少」派は大企業で17%、中堅企業で25%、中小企業で27%と企業規模が小さくなるほど多くなっています。政府は、労働施策総合推進法の改正に当たり、単純に中途採用数が増える効果を期待していたのでしょうが、新卒採用数が減少するリスクは想定していなかったのでしょうか。甚だ疑問です。

中小企業の3割以上は22年卒の「採用なし」

ここからは2022年卒採用の状況について見ていきます。まずは、今年4月入社者数と比較した2022年新卒採用計画数の比較です。全体では、「前年並み」が39%と4割を占め、「増やす」が8%なのに対して「減らす」が11%と、「減らす」ほうがやや多くなっています[図表8]。ただ、このほか「採用なし」とする企業が22%もあります。「前年も採用なし」という企業もあると思われますが、中には「減らした」結果として「採用なし」になった企業もあるでしょうから、「減らす」企業の割合はもっと多くなるものと推測されます。
第121回 「中途採用比率の公表」に向けた各企業の取り組みの状況は
企業規模別に見ると、「前年並み」は大企業で55%、中堅企業で49%と多く、中小企業は32%にとどまります。「増やす」は、どの規模でも1割に満たず、「減らす」は大企業で15%、中堅企業で19%と「減らす」ほうが多くなっています。ただ、中小企業だけは、「増やす」の9%に対して「減らす」は7%と、一見すると「増やす」ほうが多く見えますが、前述したように「採用なし」にも着目してみると実に31%もあり、実際には「減らす」割合はもっと高いと思われます。

自動車や電機などの円安メリットを享受している輸出型メーカーなど、コロナ禍以前並みに業績が回復してきた業界や、そもそもコロナ禍でマイナスの影響を受けなかった業界がある一方、旅行関連や外食、アパレルのように業績回復には程遠い業界など、業界による明暗がこれほどはっきり出ている点は、これまでの不況期とはやや様相が異なります。このため、2021年卒採用に続いて、2022年卒採用はさらに新卒求人倍率が下がるものと思われます。

ターゲット層の応募者を集めることが最大の課題

次に、2022年新卒採用における課題を見てみましょう。最も多かったのは、企業規模を問わず「ターゲット層の応募者を集めたい」で、全体では41%と2位の「応募者の数を集めたい」(27%)と14ポイントもの差が見られます[図表9]。特に大企業では、「応募者の数を集めたい」が25%に対して、「ターゲット層の応募者を集めたい」は2倍の50%にも及びます(規模別集計は図表略)。
第121回 「中途採用比率の公表」に向けた各企業の取り組みの状況は
全体では、次いで「大学との関係を強化したい」(23%)、「内定辞退者を減らしたい」(22%)、「採用ホームページをもっとよくしたい」(20%)が続きます。大企業では、このほかに「採用数の根拠を明確にしたい」が35%で、トップの「ターゲット層の応募者を集めたい」に次いで2番目に多くなっています。従来の総合職一括採用から、職種別採用などのジョブ型採用への移行期でもあることも影響しているのかもしれません。

一方、中堅企業では、「ターゲット層の応募者を集めたい」(44%)に次いで「大学との関係を強化したい」(34%)、「内定辞退者を減らしたい」(31%)が多く、「応募者の数を集めたい」(25%)を上回る結果となっています。昨年は、新型コロナウイルス感染症を警戒して学内セミナーの中止が相次いだほか、キャリアセンター担当者が在宅勤務となり、そもそも大学キャンパス内への立ち入りができない状況が長期間続きました。そのためにキャリアセンターや理系研究室との関係が疎遠になってしまったことが、「大学との関係を強化したい」の裏側にあるものと思われます。「学内企業セミナーの参加大学を増やしたい」についても全体では10%にもかかわらず、中堅企業だけに限れば19%と高くなっています。ただ、今年も学内セミナーはオンライン化されたり、小規模化されたりしていますので、参加大学を増やすことはなかなか難しいといえそうです。

 フリーテキストで回答のあった具体的な課題についても幾つか紹介します。

・採用スタッフのマンパワー不足(1001名以上、サービス)
・選考工数を効率化したい(1001名以上、サービス)
・経営者から求められているのは、キャリア採用の強化なので、厳選した少数のみ採用する(1001名以上、商社・流通)
・ターゲット層にミートした募集活動(1001名以上、メーカー)
・オンラインでの採用活動が当たり前になって初めての年なので、競争はまた激化しそう。応募者、内定者に対する引き付け施策を増やす必要がある(301~1000名、商社・流通)
・OBとつながりのない大学からの採用(301~1000名、メーカー)
・オンラインを活かした遠方学生の掘り起こし。理系学生へのアプローチ方法などの検討。理系学生中心での学校との関係強化(301~1000名、メーカー)
・ホテル、飲食店業界の希望者が減ることが予想され、競争力の弱い当社にどうやって応募してもらうのか(301~1000名、サービス)
・オンライン面接での学生の見極め(301~1000名、サービス)
・語学力のあるエンジニアの採用(300名以下、メーカー)
・上位校優秀層の獲得(内定を出しても大手に取られてしまうリスク、歩留まりの管理)(300名以下、商社・流通)
・コロナ禍で学校訪問等の代替え策を検討する必要がある(300名以下、メーカー)
・Web等非接触でのアプローチ手法(300名以下、メーカー)
・採用活動の早期終了と内定者フォローの強化(300名以下、情報・通信)

採用活動は「マス型採用」から「個別採用」へ

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