さまざまな場面での相手に対する嫌がらせやいじめを意味する「ハラスメント」。近年、その種類はますます多様化しつつあり、頭を悩ます人事担当者が多い。働きやすい職場環境にするためにも、「ハラスメント」に対する意識を喚起するとともに、問題が生じた際の迅速な対応が求められる。本記事では、「ハラスメント」の意味や原因、有効な対策などを解説していきたい。

「ハラスメント」の定義やリスクとは

ますは、「ハラスメント」とは何か、どんなリスクがあるのかから説明しよう。

●「ハラスメント」とは

「ハラスメント」とは、相手の意に沿わない言葉や行動によって不快な想いをさせてしまう、嫌がらせを指す。行為者自身に意図があったか、なかったかは関係ない。相手が不快に思い傷ついたり、不利益を被ったりしてしまうと、その行為は「ハラスメント」となる。

●「ハラスメント」の現状

近年、企業内における「ハラスメント」は増加している。厚生労働省が発表した「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、総合労働相談件数は118万8,340件(前年度比6.3%増)、12年連続で100万件を超えている。また、民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数の全てで、「いじめ・嫌がらせ」が引き続きトップを占めている。

日本労働組合総連合会が2019年5月に発表した「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2019」でも、職場で「ハラスメント」を受けたことがある人が全体の38%、そのうちの54%が「仕事のモチベーションを失った」と回答している。「ハラスメント」の未然防止と迅速な解決を進めなくては、職場環境の健全さが維持できず、労働生産性にも大きな影響が出てしまう。

●放置によるリスク

「ハラスメント」が横行してしまうと、企業にどんなリスクが生じるのか。二つのリスクが想定される。

(1)法的責任を負う
企業活動において「ハラスメント」が行われた場合、その企業には不法行為責任や債務不履行責任などの法的責任が課される。そのため、「ハラスメント」があったと立証されれば、被害者が受けた精神的な損害を企業が賠償しなければならない。さらには、民事紛争に発展した場合には、風評による企業イメージの低下は間逃れず、会社の信頼・信用に大きなマイナスをもたらしてしまう。

(2)離職率の増加
もう一つは、離職率の増加だ。「ハラスメント」が発生してしまう職場は、人間関係も気まずくなりがちだ。社員のモチベーションも低下してしまうので、有能な人材が離れていく可能性が高い。転職者が続出すれば、企業としては、人材を新たに採用しなければいけない。コストや生産性の面でも影響がある。

特に職場でおきやすい「ハラスメント」の種類

「ハラスメント」も多種多様ある。ここでは、特に職場で発生しやすい「ハラスメント」を紹介していく。

●セクシャルハラスメント(セクハラ)

セクシュアルハラスメントとは、相手に不快感を与える性的な嫌がらせである。これによって、個人としての尊厳を傷つけたり、就業環境を悪化させ能力を十分に発揮できなくなったりしてしまう。

男性が女性に対して行うイメージが強いが、ここ数年の傾向としては、女性から男性や同性同士といったケースも珍しくなくなっている。セクハラは「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」に大別される。前者は、立場や上下関係を利用して、下位にある者に対して言動を強要すること。後者は、性的な言動を繰り返すことで職場環境を悪化させることを指す。いずれにしても、自分としてはセクハラという意識がなかったと言っても、相手はセクハラとして受け取るということもあるだけに留意する必要がある。

●パワーハラスメント(パワハラ)

パワーハラスメントとは、同じ職場で働く人に対して、職務上の地位や権力などの優位性を乱用し、業務の適正な範囲を越えて精神的・身体的な苦痛を与えることだ。上司が部下に、先輩が後輩に行うことが多いが、最近では部下から上司にというケースも増えている。具体的には、目標をクリアできなかった社員を長時間立たせたままにする、特定の社員だけミーティングに呼ばないといった行動が挙げられる。

●マタニティハラスメント(マタハラ)

マタニティハラスメントとは、妊娠中、出産間近、子育て中といった女性に向けた嫌がらせを言う。具体的には、妊娠した旨を伝えてきた女性社員に解雇や雇止め、降格、減給を言い渡すといった不利益な取り扱いを指す。こうした行為は、労働基準法や男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などの法律でも禁止されており、企業は防止措置を取ることが義務付けられている。出産後も女性が職場に復帰しやすい環境・制度づくりに注力していくことが重要だ。

●パタニティハラスメント(パタハラ)

バタニティハラスメントとは、子育てを理由として育児休暇やフレックス勤務、短時間勤務を取得しようとする男性社員の行動を非難したり、人事評価に悪影響を及ぼしたりする行為である。「男が育休だと。どういうつもりだ」「評価がどうなっても知らないぞ」といった言葉が、これにあてはまる。もはや、子育ては女性だけという時代ではない。男性も一緒に育児を行うという価値観を持たなければいけない。

●時短ハラスメント(ジタハラ)

時短ハラスメントは、現場に労働時間の削減を要求しながらも、具体的な施策を何も提案せず、すべてを丸投げするだけに留まらず、「業績や成果はこれまでと同様に」と厳しく求める行為を言う。指示を出すだけでは、何の改善にもつながらない。「こうしたらどうか」という考えを提示し、それが運用していけるようサポートする姿勢が望まれる。

●ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)

ジェンダーハラスメントとは、一般的な意味での「男らしさ」「女らしさ」のイメージに基づいて人をあれこれと非難したり、強要したりする嫌がらせを指す。「男性なのに、○○」「女性なのに、◎◎が苦手なの?」といった発言も該当する。

●ケアハラスメント(ケアハラ)

ケアハラスメントとは、働きながら家族の介護をしている社員に対する嫌がらせを言う。具体的には、介護休業や介護時短制度などを利用しようとする際に、「そんなに休んでばかりでは重要な仕事は任せられないなあ」などと言って、上司や同僚が妨害することを指す。介護だけを理由に降格処分を下すのもこれに該当する。

なぜ「ハラスメント」が起きるのか

「ハラスメント」が起きる原因には、個人と組織風土による要因の二つが挙げられる。それぞれについて説明していこう。

●個人の要因

「行為者の資質に問題がある」「ハラスメント意識が欠如している」「人材不足や忙しさによってストレスが生じやすい」「してはいけないことを正しく認識していない」など個人に根差した理由によって「ハラスメント」が起きてしまうケースが多々ある。

●組織風土による要因

「会社から常に高い目標を与えられる」「ミスの許されない業務を担うものの、社員のスキルがそれに見合っていない」。こうした強いストレスが日常で繰り返されている組織では、「ハラスメント」が起きやすい。また、事業所が本社から離れた地域にあり、「その責任者が実質的にすべての権限を握っている」「それぞれの職場の実情が本社や他の部署になかなか伝わらない」といった閉鎖的な職場環境も「ハラスメント」が起きる確率は高い。

「ハラスメント」に対して企業はどのような対策をすべきか

職場での「ハラスメント」にどう対処すれば良いのか。厚生労働省では、その予防から事後対応に至るまでのサポートガイドを出している。ポイントを幾つか取り上げてみよう。

●法律を周知する

1999年、男女雇用機会均等法では職場でのセクシャルハラスメントの防止措置を事業主に義務付けた。また、2017年には男女雇用機会均等法や育児・介護休業法が改正され、妊娠・出産・育児休業などに関するハラスメントの防止措置も事業主に義務付けられている。このように、さまざまな法律で規定されていることを企業内に周知することが重要となってくる。

●対処の規定や周知を行う

就業規則の規定やパンフレット、社内報などを通じて職場での「ハラスメント」への対処の仕方を周知するのも上策である。「どんな行動がハラスメントになるのか」「ハラスメント行為をした場合、どんな処分が下されるか」などを書き記し、社員に徹底を呼びかけるというものだ。

●研修で周知する

「ハラスメント」に関する専門家を外部から招き、その基本的な知識や実態、対策の必要性、具体的な対処方法などを社内の研修やセミナーなどの場で説明してもらうのも良い施策といえる。厚生労働省も積極的で、委託事業として全国各地でセミナーや講習会を開催している。それらを利用するのも一つの施策だ。

●プライバシーの保護に努める

「ハラスメント」の対応を進めるにあたっては、相談者が何も心配せずに相談できるようプライバシー保護に配慮する必要がある。相談を対面で行う場合には、他の社員に気兼ねなく出入りできる場所に相談スペースを設け、同じ時間帯に相談者が重ならないように事前予約制にするのが望ましい。こうしたプライベート重視の姿勢を社内報や社内のホームページで発信し、社員に周知することも必要となってくる。

●相談窓口を設立する

相談窓口を設けて、従業員が安心して相談できる体制を作りたい。相談方法も対面だけでなく、文書やメール、電話などのやりとりなど方法は色々あった方が良い。他にも、相談窓口の担当者には、「ハラスメント」に関する知見と解決に向けて誠意を持って取り組める従業員を人選することも重要となってくる。
働きがいに不可欠なのは、働きやすさである。それを実感できる職場環境を作り上げて行くためにも、「ハラスメント」が起きないような制度やルールを整える必要がある。また、万が一起きてしまった場合にはうやむやにせず、当事者にしっかりと向き合い解決していくようにしてもらいたい。「ハラスメント」に本気で取り組む覚悟が、今個人だけでなく、組織全体にも問われていると言って良い。
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