特別対談:HRデータ活用の潮流と、『ISO 30414』がもたらす人事改革
戦略的人事が求められる昨今、世界ではHRテクノロジーの進化に伴い、多くの企業がHRデータを活用し、ビジネスへの貢献を果たしている。2018年にHRデータの収集、蓄積が対応に不可欠な人事・組織に関する情報開示のガイドライン『ISO 30414』が出版され、話題となった。一方、日本では諸々の要因からHRテクノロジーの活用が停滞しており、世界から大きな遅れを取っているのが実状だ。そこで今回は、日本で初めて「ISO 30414導入リードコンサルタント認証」を取得された、慶應義塾大学大学院特任教授の岩本隆氏とHRテクノロジーコンソーシアム代表理事の香川憲昭氏の両名をお招きし、HRテクノロジーに関する日本の現状や世界のトレンドと活用事例や取り組みのヒント、ISO 30414が人事にもたらすこと、などを語っていただいた。

講師


  • 岩本 隆氏

    岩本 隆氏

    慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授

    東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ(株)、日本ルーセント・テクノロジー(株)、ノキア・ジャパン(株)、(株)ドリームインキュベータを経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。 HRテクノロジー大賞審査委員長、HR総研アドバイザー、(一社)ICT CONNECT 21理事、(一社)日本CHRO協会理事、(一社)日本パブリックアフェアーズ協会理事、(一社)SDGs Innovation HUB理事などを兼任。2020年10月、日本初のISO 30414導入リードコンサルタント認証取得。

  • 香川 憲昭氏

    香川 憲昭氏

    一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム 代表理事

    1994年 京都大学法学部卒業後、KDDIにて新規事業開発に従事
    2001年 株式会社ドリームインキュベータ入社、マネージャーを経て
    2007年 株式会社JINS執行役員(経営企画、店舗運営、総務・人事責任者を歴任)
    2014年 株式会社Gunosy(人事責任者)
    2015年 HRテクノロジーコンソーシアム創設
    2017年 株式会社ペイロール取締役(営業・マーケティング統括)
    2020年 一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム 代表理事(現任)
    2020年 日本初のISO 30414導入リードコンサルタント認証取得

100社100様の人事制度がHRテクノロジー活用の障壁に

慶應義塾大学大学院特任教授 岩本隆 氏
――まずはお二人がHRテクノロジーやデータ活用の領域に関わるようになられた経緯、きっかけについてお聞かせください。

岩本 私が最初に人事領域に足を踏み入れたのは、2012年6月に慶應義塾大学ビジネス・スクールに移り、産学連携で人材マネジメントの研究を始めるようになったのがきっかけです。その中でテクノロジーや統計手法を活用して人事データを分析したところ、企業の経営課題に役立つようなさまざまな知見がもたらされ、多くの企業の人事の方々から相談や問い合わせをいただくようになりました。その後、2015年には経営・人事分野におけるテクノロジー活用やデータ分析結果を経営に活かすことの有用性を啓発及び推進する団体、HRテクノロジーコンソーシアムを香川さんとともに立ち上げ、現在に至っています。

香川 私も岩本先生と同様、もともとは人事の専門ではなく、2012年に株式会社JINSの人事担当役員に就任したのを機に、本格的に人事領域に関わるようになりました。一方で、当時からJINS社内ではスマートフォンを活用した研修やコミュニケーションの取り組みが進んでおり、ある意味これが私とテクノロジーとの最初の接点です。なかでもリーダー開発の一環として行った360度評価では、アメリカのクラウドソリューションを導入し、HRデータを活用することでビジネスの急成長に結びつけることができ、私にとって非常に手ごたえを感じる経験となりました。その後も、岩本先生と議論を重ねながら、経営や実務に役立てられるかという視点で世界のHRテクノロジー市場を追い続けております。
HRテクノロジーコンソーシアム代表理事 香川憲昭 氏
――お二人とも多くの企業の実例をご覧になられていると思いますが、その中で日本のHRデータ活用の現状をどのように捉えていらっしゃいますか?

香川 HRテクノロジーを活用する上で最も大きな壁になっているのは、実はITシステムなんです。まだ多くの企業が10年以上前のレガシー化したITテクノロジーで構築されたオンプレミス型システム(以下、レガシーシステム)を使っており、切替えが進んでいません。ではなぜ切替えられないのか。その大きな要因の一つは、経営視点で見たときに、人事部門がコストセンターとして長年の間、単年度の予算統制(コストコントロール)を中心に業務を行ってきていることに主因があるように感じます。5年先を見据えたITシステム刷新のメリット、つまり定量的な投資対効果(ROI)を経営陣に対して明快に示し、経営陣の納得感を醸成するところで苦労されているのではないでしょうか。レガシーシステムは初期投資こそ多額の費用がかかりますが、ランニングコストは安く済むため、一回作ってしまったら、あとは何年も使い続け、新たな投資への機会を先延ばしする傾向にあります。こうした実状が、HRテクノロジーが日本でなかなか広がっていかない大きな障壁になっているわけです。人事部門自体がコストセンター的発想からプロフィットセンター的発想に切り替えられないと、定量的意思決定が当たり前の経営に貢献できる人事へと進化するのは難しいと思います。

岩本 日本が欧米と比べHRテクノロジーの活用で大きな遅れをとっている要因としては、スキルシフトの問題も挙げられるでしょう。日本ではまだまだ多くの企業が総務、人事、経理など間接部門の仕事を人手に頼っています。これらをテクノロジーに置き換えられることは理屈ではわかっていても、特に間接部門に多くの雇用を抱えている大企業などでは、リストラをするわけにもいかず、かといってスキルシフトのやり方もわからないといった悩みが多いようです。そしてもう一つ、日本企業の雇用形態にもHRテクノロジーが加速しない大きな要因が隠れていると思います。欧米の場合、ジョブ型雇用のため、仕組みを汎用化できるのですが、日本の場合、人に仕事が紐づいているため、一人ひとりのやり方をそのままシステムに当てはめようとすると、いちいちカスタマイズしないといけません。しかも企業ごとに給与計算などのやり方も異なるため、一つのシステムをさまざまな企業が活用するというのも難しいと思います。

香川 日本には100社100様の人事制度があるため、それぞれに合わせてカスタマイズするとなれば、それだけシステム投資・運営コストも増えます。また給与計算などがシステムに乗らないということになれば、いちいち手で計算してインプットするという二度手間、三度手間にもつながりかねません。本来人事部門はもっと戦略的な業務、昨今ではテレワークを前提とした人事評価・報酬制度作り等に取り組まなければならないのに、100社100様の独自ルールとレガシーシステムを前提とした単純労働の繰り返しから抜け出せない。これが今の日本の多くの企業の現状でしょう。こうした苦しみから脱却するための一つのソリューションとして、人事制度改革と、標準化された業務プロセスを搭載し高い生産性を実現するITシステムを同時に行うことができるHRテクノロジーを活用していただきたいと思います。

この後は、次のような内容が続きます。続きはダウンロードしてご覧ください。

■世界のHRデータ活用のトレンド
■「ISO 30414」の生まれた意義とその概要
■『ISO 30414』の具体的な中身や認証プロセス
■HRデータを効果的に活用するポイントと最適なソリューション など

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