専門家が語る、ピープルアナリティクスの導入に向けたアドバイス

専門家の言葉から読み解く、ピープルアナリティクス導入と実践のヒント
ピープルアナリティクスについては、障壁が多いと感じても「まずは導入してみることが早道」だと岩本氏は言及する。
「実は、データの分析は意外と簡単。データを集めるほうが重要です。多くの企業では、必要なデータが未整備、業務領域ごとに別々のシステムを利用していて情報がバラバラというケースがほとんどです。システムの入れ替え・一元化、データの移行、新たな入力など、まずデータを揃えることに苦労している企業は多いようです。あるいは、それ以前に経営者がシステムを理解しておらず、危機感をもっていないために意思決定が重く、なおさら移行が進まない、という企業も見られます。
ですが、何に役立てるのかを先に決めず、あらゆる人事データを一元的に収集してみることが第一です。集めてみると、自然と次のステップが見えてきます。これまで日本の企業は、人事データの組み合わせ分析などやってこなかったので、導入すればすぐに大きな気づきを得ることができる、何をやっても有用な結果が出るというケースが多いのです」
目的はさておき、まずはデータを収集・整理すべし。そうすれば道は開ける。いわば「習うより慣れろ」というわけである。

岩本氏が“生産性が個人の資質によって左右される”と表現した現代のビジネス環境では「個々の資質や経験値を効率的に高め、能力を最大限に活用することで、生産性を高める」ことが必須といえる。また、働き方改革によって、個々の労働のありようも激的に変化した。さらに今後は、新型コロナウイルス禍への対策も待ち受ける。事業の再編・縮小やサプライチェーンの見直しを迫られ、これまでになかった業務に取り組まざるを得ない企業も増えるだろう。

採用、異動・配置、育成といった人事の業務は、必然的に重要度を増し、経営に対する直接的な貢献が求められるようになる。しかし、これだけ環境が激変する中では、もはや従来の経験則は通用しない。頼るべきは、多彩なデータを客観的に分析し、その効果も判定しやすいピープルアナリティクスの手法である。
とりわけ、データ活用への感度が高く、自身のスキルアップに積極的な近年の若い世代には、ピープルアナリティクスのように、明確な根拠に基づいた育成指導を受けられる施策が安心材料となるようだ。また、岩本氏によると、エンゲージメント面でも、テクノロジーを取り入れられない企業を敬遠する動きが若年層にはあるという。

もちろん、データの集約は一筋縄ではいかないだろう。岩本氏も指摘しているように、形式や範囲が整理されないまま散らばっている人事データ(採用、異動、研修、勤怠、評価、離職など)の一元化や新規データの収集には時間やコストがかかるし、業務フローも変わってくる。ITの先端企業であるヤフーですら、人事部門のデータベース整備は1年がかりだったというから、どれだけ根気のいる作業なのかは想像に難くない。

収集すべきデータの判断、何を組み合わせて分析すべきかという設計、分析結果の解釈など、その重要な任にあたる人材=データサイエンティストを用意できるかも大きなポイントである。また、人に関するデータはプライバシーへの配慮も求められるため、収集するデータの種類と活用方法を従業員に周知して同意を得ることや、人の直接的関与の制限(ツールを用いた自動分析など)が必要となるケースもある。これらのハードルをクリアしながらピープルアナリティクスを迅速に導入し、効率的に運用するためには、ノウハウをもった事業者と連携して、自社内にナレッジとデータを蓄積していくことが適切だろう。

時代を見つめれば、データ活用の重要性は今後ますます高まってくる。どのような形であれ、まずはいち早く取り組むことが求められるのである。

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