「共感と思いやりの時代」の人事部とは?

最近、一部の外資系企業では人事部の名称を「エンプロイーサクセス」や「エンプロイーエクスペリエンス」という名称に変更しています。背景には、社員同士や、会社と社員のコミュニティとしてのつながりを、より強化する考えがあるようです。

2000年代に10代を過ごした世代は、SNSやメッセージアプリが当たり前の時代に育ちました。いまこの世代が社会の中心的な存在になりつつあります。この世代には、人やコミュニティと「つながる」ことがとても重要です。加えて相手への共感や、有用な情報をシェアすることも大切な要素です。こうしたデジタルネイティブ世代に配慮して、外資系企業では会社を経験の場としてデザインする取り組みが増えています。

片や日本では、人事部はよく「ひとごと部」と揶揄されてきました。旧来の日本企業の人事部は、従業員に寄り添うものではなく、評価や左遷、何かあれば首を切るというイメージが強い部署でした。そのため、「ひとごと」のように従業員に接するという意味で嫌味を言われることもありました。

テクノロジー化が進む時代では、より感情に寄り添う仕事が人事部に残っていきます。人事部は、もう「ひとごと部」では会社に貢献できない時代になりつつあるのです。これからは単に制度づくりや教育・研修といった人づくりだけでなく、バーチャルな空間も含めた会社というコミュニティの「場」づくりをする部署に変化していくでしょう。

現在、各企業がテレワークを導入しています。そういった環境では、社員同士のつながりが薄くなり、SNSのように「ゆるいつながり」が重要になってきます。ゆるいつながりは、組織論で「弱い紐帯(ちゅうたい)」と呼ばれます。1970年代にアメリカの社会学者マーク・グラノヴェターが提唱した概念です。強いつながりは時に視野を狭め、外からの情報を排除します。しかし弱い紐帯は、柔軟であるがゆえに幅広い情報を取り込むことができます。みなさんも上司と面と向かっては言えないけど、チャットなら気楽に相談ができるという経験をしたことはないでしょうか。

この「ゆるさ」をデザインするとともに、「ゆるさ」を維持するために互いに共感しあうことや、情報をシェアしあう仕掛けを考えていくのが人事部の中心的な仕事になっていくでしょう。時には活性化していないチームに介入して、エンゲージメントの向上や仕事の進め方のアドバイスを通じてチームの生産性をあげる取り組みも行うかもしれません。

日本企業の「人事部」も名称を変更する日が近いでしょう。


【参考】
リクルートワークス研究所:世界の人事が注目する「HRテクノロジー」2019-2020
https://www.works-i.com/research/works-report/2020/hrtech2019-2020.html
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