人事施策のPDCA、その発端としてHRテクノロジーを利用する

AIのプロに聞く、HRテクノロジーにAI活用が進まない理由と使う意義
──2019年11月に新たに社内のDXを推進する人材を発掘・育成サポートする『HR君DIA』がリリースされました。AIや人事データの活用に悩む企業のために開発されたものという印象を抱かせます。

前川氏 当社クライアントから、たびたび「AIなどのデジタル技術を使った便利なサービスはたくさん出て来ているが、それらを使いこなしてイノベーションを起こせる人材をどう発掘・育成するかが課題だ」という声が挙がります。いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)人材ですね。社内にDXを経験した人材が一定数いれば、その方々の人事データをAIで分析することにより、同じように活躍できる人を洗い出すことが可能です。しかし、DXは各企業にとって新しいテーマであり、経験豊富な人材が社内にいなければ分析のしようがない。AIの限界でありジレンマです。そこで弊社が独自にDX人材を発掘・育成するためのアセスメントを開発することにしました。これが『HR君DIA』です。名称の「DIA」は、デジタル・イノベーター・アセスメントの略です。

──具体的に何が分かるアセスメントなのでしょうか。

前川氏 求められているのは専門職のエンジニアは勿論なのですが、加えて「デジタル技術を使って仕事のやり方やビジネスモデルを変革できる人」や「アイディアをアクションに移せる人」です。こうしたDX人材には、データサイエンスやソフトウェアエンジニアリング、数学的素養といった「デジタル」領域のスキル・志向性と、観察力やチャレンジ精神など「イノベーティブ」領域のスキル・志向性、双方が必要。この両軸を診断するアセスメントになっています。

幸いにも当社代表の石山洸は、前職のリクルートでDXを推進してきた経験があり、DX領域に関して高い知見を持っています。石山がデジタルイノベーターを育成する際にベースとしている人材要件や、弊社とお付き合いのあるDXに取り組む企業からのヒアリングをもとに作り上げたもので、数千人単位の外部モニターにご協力いただき、またアセスメント開発のプロが手掛けていますので、かなり高精度なものになっています。すでに約100社にご利用いただいています。

──人事の立場からすると、社内のデジタルイノベーター候補を見つけるだけではなく、その先が重要となってくると思うのですが。

前川氏 確かに、今後の人事施策につなげることが大切です。アセスメントで高いスコアを記録した人を『HR君アナリティクス』で分析すれば、採用時の特徴やどういう経験を積んできたかがわかります。それを育成や配置などの人事戦略に生かし、その結果をもとにまた採用や育成を改善していく。つまり「デジタルイノベーターを育てる」という業務のPDCAを回していくことができるようになるわけです。

煩雑な業務の効率化・高度化のためにAIは存在する

AIのプロに聞く、HRテクノロジーにAI活用が進まない理由と使う意義
──人材の配置に関しては“配置案を作り切るために生まれた”という『HR君haichi』も同時期にリリースされています。これもまた「人事の現場における課題をAIで解決する」というプロダクトですね。

名畑氏 『HR君アナリティクス』によって、誰がどの分野で活躍できるかを分析できるわけですが、実際の人事業務では「じゃあどこに配置するか」と配置案を決めるところまで求められます。その際に考慮しなければならないのは、適性や資格、本人の希望だけではありません。この人とこの人は同じ部署に配置してはいけない、2つの部署間の単純な入れ替えはダメ、地方への異動可否、あのマネージャーはAさんがぜひとも欲しいと言っている……。企業や組織ごとに多種多様なルールや条件を満たす必要があるのです。

前川氏 もはや人智を超えたパズルです(笑)。1万人規模の企業なら年間2,000人くらいの異動がありますし、業態によっては毎月のように配置換えが発生します。デジタル化が進んでいない領域なので、いまだに名前を書いたマグネットプレートをホワイトボードに何枚も貼って試行錯誤しながら配置案を決めていることもあるのが現実です。どうしてもルールから逸脱してしまうケースは出てきますし、「人事は分かっていない」などと批判も浴びる。担当者の負担が極めて大きく、AIで業務をサポートすることができるのではと考えました。

名畑氏 作業の途中で各部門から急遽の要望が入ることもあり、本人と現場の意向をすべて満たし、人事としても納得できる配置案を作り出すのは相当困難。この業務だけに何ヵ月もかけている企業もあるほどです。タイムリミットまでひたすら配置を組み替え、途中には妥協もあって「何とかやり抜いた」というのが人事部の方々の実感のようですね。

この高度なオペレーションを支援できるツールが必要だと考えて生み出したのが『HR君haichi』です。異動させる社員や異動の判断基準となる人事データを『HR君haichi』に読み込ませれば、なるべく多くの条件を満たす配置案をAIが作り出してくれる、というものです。多くの企業から異動の際のルールをヒアリングし、単純な制約から複雑な制約まで様々なパターンをユーザー側で自由に設定したりデフォルトから選んだりすることができます。また「ポストから見た候補社員」「社員から見た候補ポスト」の双方の視点から、取り得る選択肢を確認しながら二重アサイン等の齟齬が無いように検討可能な異動配置業務に特化したインターフェースも搭載しています。データのインプットには、やはりExcelファイルを利用できるようにしました。

──いわゆる人材配置の最適化ツールということになるわけですね。

前川氏 はい。最近のAIでは機械学習が脚光を浴びていますが、人材配置のように複雑な条件から最適解を導き出すというアプローチもAIが得意とするところです。

名畑氏 ただ『HR君haichi』は、あくまで「配置案作成をアシストするもの」だと考えています。たとえば特定の社員だけ異動先を固定したうえでAIに仕上げをしてもらうなど、手作業とAIのハイブリッドで作成を進めることが可能です。2人いる候補者のうちどちらがその部署に相応しいかといった最後の判断は、人間がすべきでしょう。状況に応じて柔軟に使っていただけるような仕様を心がけました。

前川氏 人とAIの共同作業、役割分担ですね。複雑な条件を踏まえた最適配置の素案の提示はAIに任せつつ、人間がそれを適宜チェックする。そうすることで、これまでフォローできなかった部分まで細かく見られるようになり、よりよい配置案を作れるはずです。数千人規模から数万人規模まで、さまざまな企業に利用していただいています。

課題解決のためにAIを活用する。それこそが正しい道

AIのプロに聞く、HRテクノロジーにAI活用が進まない理由と使う意義
──貴社のプロダクトやサービスは、人事の現場が困っていることを解決するという、まさに貴社が事業内容としている「AIを利活用したサービス開発による産業革新と社会課題の解決」の具現化だと感じます。

前川氏 『HR君』の役割は、人事部に配属されたデータ解析に強い若手社員というイメージで開発しています。多くの企業の人事部に『HR君』を迎えていただき、課題解決に活用していただきたいですね。人事データの集約・分析を受け持つはずのデータサイエンティストは、まだまだ不足しています。そこで『HR君』が「データ分析は私が担当します。先輩たちはExcelファイルだけご用意ください」とやって来るわけです。

名畑氏 『HR君』の活用によって、どの人事施策にどんなデータが必要なのかイメージできるようになるはずです。『HR君』を通じてデータの活用を進めるうちに、活用という出口から逆算して、企業ごとにどのようなデータを蓄積・整備していくべきかが明確になっていくのではないでしょうか。

前川氏 もちろん我々も、そのサポートをさせていただきます。どういう課題を解決したいのか、そのデータや分析は社員の方々の役に立つのか、クライアントの方向性や目的に合ったデータや分析手法は何なのか……。相互理解を深め、単にプロダクトやサービスを案内するだけでなく、「何ができるか」をクライアントとともに歩みながら考え、AIの活用により実践する。それが我々のような“AIのプロ”が果たす役割だと思います。

【参考リンク】
株式会社エクサウィザーズ
HR君 サービス紹介
HR君DIA サービス紹介
HR君haichi サービス紹介
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