日本人が本来もっている「気遣いの心」

稲垣 兵吾さんのいで立ちについてもお聞きしておきたいのですが、リーゼントスタイルは就職活動の時から貫いているんですね。どんなポリシーがあるのでしょうか。

岡田 最初、就活を始めた時は長髪で、なかなか採用されなかったので友達に相談したら「髪型が悪い」と。でも、もともと反骨精神の強いジャーナリストになりたかったから、普通の髪型にはしたくなかった。そしてリーゼントに変えたんですよ。

稲垣 銀行の採用試験もリーゼント姿で受けたんですか?

岡田 もちろん。それでも都銀から内定をもらいましたよ。おそらく入社したら「髪を切れ!」と言われたでしょうね。

稲垣 最初の見た目のインパクトが強烈で、正直「ちょっと近寄りがたいし怖い」というイメージでしたが、実際にお目にかかったら、とても腰が低くて優しい。第一印象で損をされることはないんですか?

岡田 個々人の中ではいろいろと思われているのかもしれませんが、外国の人はあまり姿形で批判はしません。「ジャパニーズ・エルヴィス」なんて呼ばれて面白がられていましたよ。髪の毛やサングラスは自分の好きなスタイルを貫いて1つ2つは普通と違う個性を出しますが、必ず白シャツを着るとか、時間には遅れないとか、その他のことは自分を厳しく律するようにしています。それが僕のポリシーです。
第10話:日本人が本来もっている精神が、グローバル化の鍵となる
稲垣 そのギャップがまた兵吾さんの魅力ですね。もとからそんなに相手を気遣ったり自分に厳しくしたりしていたんですか?

岡田 もともとこういう性格ではあったと思いますが、海外に出てより強くなったかもしれません。海外で感銘を受けたのは「みな平等」だということ。逆に日本の社会は縦社会で居心地悪く感じました。年齢や役職が上か下か、で動くじゃないですか。外国の人はみんな「横社会」というか、「平等」なんです。インターンもウェイトレスもみんな一緒。日本で社会人になった当初、エスカレーターに乗ると、「“お偉いさん”に背中を見せるな」と怒られました。エレベーターも女性や若い人がボタンを押して待つじゃないですか、僕はそれが嫌なんです。海外だと偉い人こそボタンを押さえますよ。基本的にはレディーファーストだし、「noblesse oblige(ノブレス・オブリージュ/高貴な身分に伴う義務)」の精神が活きています。その精神が浸透していると、すごくオープンだし、腰も低くなります。もちろん怒る時は怒りますが、周りを平等に扱って成果にこだわる。

僕は、仕事をするうえで大切なのは、「より優れた成果」を出すことだと思っています。私が分からなければ部下にお願いする。私に経験が足りなければ恥じることなく人に聞く。「より良いものを作るために努力する」というシンプルな考え方です。そんな環境で仕事をすることで、どんどん今の性格になっていった、ということだと思います。

稲垣 僕も海外に5年半いて、最初は日本が世界の中心のような感覚でいましたが、それでうまくいかずに挫折し、日本のネガティブな印象をたくさん聞いて自信を失ったのが1年目。その後いろいろな経験をして、今は日本の改善すべきことと、日本ならではのすばらしさを再認識した感があります。

岡田 私も同じです。海外に「ノブレス・オブリージュ」の精神があるように、日本には「武士道」があります。「禅(ZEN)」もそうですが、西洋でもてはやされていることは、本当は日本発信であることが多い。日本人の禅の文化や侍の武士道に、実は外国人は期待しています。

とくに、3.11東日本大震災時には「New York Times」とシンガポールの最大の新聞の「The Straits Times」が、日本人について「サイレント・マジェスティ(静かなる尊厳)」と書いていました。要は何かというと、あの極限状態であっても人が列を崩さずに待っていたり暴徒が起こらなかったり、相手を思いやって苦しい時に感情を表に出さない。これは、武士道の「克己」 という考えです。これがあるから日本人は尊敬されているんです。武士道の「克己」とは、他人を心配させぬよう悲しみをこらえ、あえて微笑みを見せる、そんな日本人の美徳です。『武士道』は新渡戸稲造が『The Soul of Japan』として外国人に日本人の精神・道徳観を伝えるために発売し世界でベストセラーになり、今も広く外国人に知られています。欧州の騎士道の「ノブレス・オブリージュ」と同じく、海外では武士道こそ日本人の精神であり、日本人は人間としての民意が高く、克己に代表される抑制心や、優しさ、他人を思う気持ちがあると外国人は感じています。そう思われているのもかかわらず、今の日本人は気遣いもなくなってヒエラルキーをつくりたがる。一番重要なのは、相手を気遣うこと。 日本人が本来もっている精神が、きっとグローバル化の鍵になると思います。
第10話:日本人が本来もっている精神が、グローバル化の鍵となる

インタビューを終えて

インタビューは2時間半にも及んだ。しかし時間を忘れあっという間だった。それだけ兵吾さんの作り出す空気感が居心地よかったのだろう。それも彼の「気遣い」がなせる業であり、自分がそんな人間性を身につけるにはだいぶん時間がかかるようにも思うが、本来日本人はその力を持っているんだと教えてもらった。新渡戸稲造の『武士道』を、改めて読み直そうと思う。

取材協力:岡田兵吾(おかだひょうご)さん
マイクロソフト シンガポール アジア太平洋地区ライセンスコンプライアンス本部長。同志社大学工学部卒業後、アクセンチュア、デロイトコンサルティング、マイクロソフトのグローバル企業3社にて、シンガポール、アメリカ、日本の3カ国を拠点に23年間勤務。世界トップレベルの IEビジネススクール・エグゼクティブMBA取得。米国PMP(プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル)認定資格保持。
著書に『ビジネス現場で即効で使える 非ネイティブエリート最強英語フレーズ550』、『すべての仕事を3分で終わらせる 外資系リーゼントマネジャーの仕事圧縮術』(すべてダイヤモンド社)がある。近著は、Amazonカテゴリー「ビジネス英語一般」部門で「1位」を獲得し、4カ月以上ベストセラー継続中。
  • 1
  • 2

この記事にリアクションをお願いします!