リーダに大切なのは、「よろしく、ありがとう、ごめんね」が言えること

稲垣 今、トータルで1,500人くらいの日本人に研修を行ってきたとうかがっています。日本人のグローバル化に向けて重要なことはなんでしょうか。

豊田 英語の勉強や異文化理解講座といったものは、日本でもできるのですが、我々はわざわざ海外に行って研修をするため、その地域でしかできないことを選んでいます。「グローバルマインドセット」にこだわっているのですが、日本人が弱い点がここです。

稲垣 グローバルマインドセットとはなんでしょうか。

豊田 グローバルな環境に身を置いてもいつも通りの成果を出せるマインドで、我々は7つの要素を設定しています。
第9回:「よろしく、ありがとう、ごめんね」を言えるグローバルリーダー
主体性とか行動力とか非言語コミュニケーション力とか、グローバルな環境ではこれらがより強く必要になってきます。これは日本にいても必要な要素だと、誰もが思うのですが、日本の大きな会社にいたら、自分が主体的に行動しなくても組織が回っていく。「阿吽の呼吸」とか「独特のヒエラルキー」とかがあるので、「言わなくてもそれは分かるだろう」、「あれやっといて」といった考え方や行動がまかりとおる。

しかし、グローバルな環境では絶対に通じない。日本以外の環境にいるほうが想定外の出来事に見舞われやすいから、当然メンタルタフネスだって、状況対応力だって、より強く、高くなる必要がある。「パッション」という言葉を言い換えれば、「想い」とか、自分にはこんなミッションがあるという「信念」とかになると思います。そういったものを内面に持っていなかったら、人はついてこないですよ。日本では、あなたの仕事はこれだと言われて粛々とこなしていればよかったかもしれないけれど、グローバルな環境では、よりパッションを出していかないと人がついてこない。

稲垣 大企業の方でも、日本では部下はいなかったけれど、海外では急に多くの部下をマネジメントしなければいけない立場になるケースがありますからね。

豊田 日本の、上司がいて自分が部下だった環境を「ホーム」とすれば、海外で部下を率いるのはかなりアウェイですよね。リーダーシップというと難しく考えてしまいがちですが、私はリーダーに大切なのは、「よろしく、ありがとう、ごめんね」という3つの言葉だと思っています。

「よろしく」は、権限委譲。まず人に任せる。しかし、リーダーになる人には名プレイヤーが多いから、「なんできないんだ」とか、「俺だったらこうだ」とか、ついつい言ってしまうのですが、それは言ってはいけません。次に、「ありがとう」は、メンバーがやってくれたことに対して感謝すること。素直に自分の気持ちを言葉に表すことが大切です。最後に、間違ったら「ごめんね」と謝る。謝れないリーダーがたくさんいますが、謝罪するというより自分をさらけ出すことと考えてください。内面が見えた時に人はついてくるものなのかな、と思っています。強がらないことが大切です。でも、自分が目一杯やっていないとついていく人は納得しないから、まずはリーダー自身が一生懸命やることが大事。全力でやってみて失敗したら、きちんと謝る。そういった形でリーダーシップを発揮すれば、海外やアウェイな環境でも通用すると思っています。

稲垣 豊田さんは、ご自身の暗黒時代に大変苦労をなさったから、それが今のご自分を形作っている。よく「若いうちの苦労は買ってでもしろ」といいますが、そう思いますか?

豊田 私自身は、苦労は嫌いです(笑)。可能な限り苦労はしたくない。人生、いつも楽しくいきたいと思っていますから。しかし、先ほど言ったように一生懸命やっていこうとすると必ず困難にはぶつかります。それならば、タイミングは若いに越したことはない。若ければ、チャレンジと壁を乗り越えられるだけのエネルギーがありますから。若いうちに苦労をしたことが、結果的に人生の財産になっていた、ということだと思います。そして、うまくいかない、いやだと思ったら逃げることも大切です。私も挑戦しては失敗し、逃げては自分の弱みを知り、また挑戦してやっと成功したことで自分の強みを知って、そして今の自分のスタイルを作っていきました。
第9回:「よろしく、ありがとう、ごめんね」を言えるグローバルリーダー

インタビューを終えて

人並外れた経歴で、グローバル研修の第一人者となっている豊田さん。最初のイメージは、洗練されたグローバルエリートであったが、実際は非常に泥臭く、体温が感じられる言葉をしきりに発する方だった。かのイチローは、「やっていることに言っていることが伴っているから、人の心が動く」と言った。豊田さんの話はシンプルだが誰かの言葉を借りているのではなく、自分の目で見つけた言葉だから温度を感じるのだろう。

取材協力:豊田圭一(とよだけいいち)さん
1969年埼玉県生まれ。幼少期に5年間、アルゼンチン(ブエノスアイレス)で過ごす。1992年、上智大学を卒業。清水建設株式会社にて約3年間の勤務後、海外教育事業で独立。17年間、留学コンサルタントとして留学・海外インターンシップ事業に携わる。その間にSNS開発会社や国際通信会社も起業。 2011年にスパイスアップ・ジャパンを設立し、主にアジア新興国で企業向けのグローバル人材育成(海外研修)に従事するほか、海外7ヵ国でグループ会社がさまざまな事業を展開中。 2018年、スペインの大学院 IEでリーダーシップの修士号を取得。NPO留学協会の副理事長やレインボータウンFMのラジオパーソナリティも務める。著書に、『とにかくすぐやる人の考え方・仕事のやり方』など多数。
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