日立製作所の新たな取り組み。そして、サービスイノベーションに必要な人材とは

AIを活用したサービスイノベーションで生み出せる価値とは
赤津氏 日立製作所は元々「レンズ1」のような製品起点の会社でしたが、現在それだけでは価値を生み出せないと思っています。世の中ではAIなどを使って無意識の中からデータを読みとり、新しい仕掛けを生みだそうとしています。ここからは当社の取り組みである「Lumada」の事例を簡単にご紹介します。「Lumada」 とは、協創フレームワーク「NEXPERIENCE」とAIを搭載した、課題解決からソリューション提案までをお客様と一緒に共創する価値創出基盤です。昭和電工では若手社員への技術継承、設備劣化による故障や事故の多発といった問題を抱えていました。そこで、まず最初に当社の適用共鳴理論ARTの応用技術を使った予兆診断サービス「ARTiMO」を取り入れました。次に導入した予兆診断サービスでは、東京海上日動火災保険が持つ事故データやリスクコンサルティングのノウハウと「Lumada」を連携して、財的負担を軽減する新たなビジネスモデルを創出しました。またマルチ・サイド・プラットフォームによる価値協創事例として、3年前に当社と東京大学が立ち上げた日立東大ラボでは、豊洲地区の国交省スマートシティプロジェクトに採択されたデータプラットフォームを活用。江東区や地元組織、大学研究機関、企業といった複数のステークホルダーと連携してQOLの高い街づくりの実現を進めています。

石山氏 最先端のテクノロジーを活用し、社会価値と費用対効果を十分考慮したうえで、課題解決を実践する面白い取り組みですね。

藤川氏 社会価値に加え、経済価値も創出する取り組みだと思います。特に昭和電工と東京海上日動火災、日立製作所など、さまざまな企業の組み合わせで創出する価値が高まるし、ビジネスの可能性も多いに広がる事例ですね。

赤津氏 新しい価値を集結し、新たなビジネスを生むサービスイノベーション。人材育成はどうするべきだと思いますか。

藤川氏 人材育成の前に組織のトップマネジメントの「レンズ」をかけ替えなければ、サービスイノベーションのノウハウを持つ若手社員をうまく活用できません。それに伴い、組織全体の業績評価の基準も変えるべきでしょう。現在の教育現場では、デジタルネイティブと呼ばれる今の学生たちに新しい手法の経済学やサービスマネジメントを教えています。このようなデジタルネイティブの学生たちを組織でどう活かすかが重要となります。

石山氏 マズローの経済としての価値、環境として価値、経済としての価値すべてを三方よしにしなければなりません。三方よしにしたときに選べるスコープの数が急増することで、サービスイノベーションの要件定義自体の難易度がとても上がります。これをチームの中でどう具体的に実現していくか、がポイントになるのではないでしょうか。当社はAIの会社ですが、AIエンジニアが約150人で、残りの半分が例えば介護業界ですと介護士、看護師、医学療法士、薬学博士など、ドメインエキスパートと呼ばれる現場に精通した人たちです。社会課題やそれを解くテクノロジーが容易にわかる時代ではありません。AIエンジニアとドメインエキスパートが協業して、個々の専門性と価値観のレンズのかけ替えを行いながら、OJTをしていくしかないでしょう。

赤津氏 社会課題解決を利益の出る事業として、持続的に継続させるためにはどうすればよいでしょうか。

石山氏 介護の話でいえば、4種類ほどの課金パターンがあります。一つ目は、介護現場で研究開発とマーケティングを活用することです。まだ現場ではAIを使って何をやるべきかわからないことも多く、そこで研究開発マーケットという市場が肝になるかと思います。2つ目は、成功したサービスをどう展開していくか。
3つ目は展開したサービスの成果連動、そして4つ目は、超高齢社会を日本以外の国でグローバルにビジネスとしてとして展開するにはどうすればよいか、ではないでしょうか。

藤川氏 「レンズ」かけ替えていくと、創造する価値の主流が増えていきます。顧客とつながりながら価値を作り続け、そこから生まれる交換価値や使用価値をかけ合わせ、企業や自治体などさまざまなステークホルダーもかかわることでビジネスのパターンが広がり、さらに価値が立体的なものとなります。このように、複数の価値を結びつけることで新たなビジネスチャンスが生まれるのではないでしょうか。

赤津氏 変化の激しい時代を楽しいと思う人がいる一方で、変化を嫌う人もいます。変化を嫌う人たちに対して、どうマインドセットすべきかお二人のご意見を教えていただけますでしょうか。

石山氏 実際に社会課題に直面すると辛いことがたくさんあります。未知のことに対しては恐怖心を抱くものですが、それ自体をどう楽しんでいけるか、といったアントレプレナーシップみたいなものをベースにマインドセットを作ることが、弊社の経験から一番効果的なように思えました。社会課題の解決には、透明性がとても大切です。会場の皆様と一緒に、次世代に負債を積み残すことのないよう当社も解決に取り組みたいと思っています。

藤川氏 難しい社会課題にチャンレンジするにはプロセスが重要です。どう成果を上げるのか、経済価値と社会価値の二つを組み合わせることでどれだけ社会課題の解決につながるのか可視化し、注力し、フィードバックももらうことが次へのモチベーションにつながるのではないでしょうか。今かけている「レンズ」自体を深く意識してからそれを一度外してみて、違う「レンズ」を通して楽しんでみてください。

赤津氏 ご来場の皆様いかがでしたでしょうか。サービスマネジメントという聞きなれない言葉から発想が広がり、新たなビジネスの機会を得ることができれば幸いです。ご清聴ありがとうございました。

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