難しい分析でなくてもインパクトは出せる

データ・ドリブンな人事と聞くと、もしかしたら高度な離職予測モデルや、機械学習を用いた最適な給与額の算出…など難しい分析が必要と思うかもしれません。もちろんそれらができるに越したことはないですが、私は然るべきデータを然るべき人に届けることの方が、もっと重要なことだと感じています。経営効果を出すのに高度な分析技術は必ずしも重要ではありません。大事なのは、最も大きな機会やリスクがどこにあるか気づき、実際に意思決定をする人にデータを届けることです。

私が8年前にGoogle アジアパシフィック圏の採用アナリストをしていた時に初めて行ったプロジェクトも、難しい分析ではありませんでしたが大きな経営効果をもたらしました。
当時、Google はリファラル採用(社員による紹介経由での採用制度)にとても力を入れていて、毎月のリードジェネレーション(採用候補者の母集団形成)や、そのうちリファラルが占める割合などをレポーティングしていました。ある時ふと気になって、国別の従業員数とリファラルの数から、従業員1人当たりの年間リファラル数を比較してみました。すると、日本の1人当たりのリファラル数はアジアのなかで最も少なく、インドやシンガポールの5分の1、その他諸国と比較しても3分の1に過ぎないことがわかりました。単純なリファラル数だけを見るとオフィスの規模が大きいぶん健全に見えていましたが、1人当たりの数に換算すると明らかな差がありました。

すると次に気になるのは「なぜ」それほどの差があるのか?ということになります。

リファラル採用制度を知らないから?以前にリファラルに関して嫌な経験をしたからもう紹介したくない?それとも、日本オフィスの従業員は…友達が…少ない?

原因を解明するために採用チーム全体で、社員紹介制度を利用した人、しなかった人それぞれにインタビューを行いました。すると見えてきたのは「紹介しても受からない可能性が高いので、その後の人間関係に響くのではないか不安」「募集要項が不明瞭で、どの職種に紹介すればいいのか分からない」というのが最も大きな懸念だということが分かりました。そこで、採用チーム全体でこの不安を払拭するキャンペーンに乗り出したところ、前年度は達成までに半年かかったリファラル紹介数をわずか1週間で上回り、その結果より多くの採用に繋げることができました。

このように、必ずしも難しい分析手法を用いる必要はなく、実際に業務を行なっている人や意思決定をする人が、チャンスに気づけるようデータが身近にあることが重要だと考えます。

第1回目は人事データを俯瞰的に捉える重要性と、難しい分析でなくてもインパクトは出せるというポイントについて紹介しましたが、次回は「データ・ドリブン人事はただのトレンド?それとも…」というタイトルで、ピープル・アナリティクスに恒常的に取り組むべき理由とその方法論について紹介します。
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