第8回:海外での危機は「心の交流」で乗り越える

日本流グローバル化への挑戦

究極の危機管理対策、「心の交流」

稲垣 まさに手に汗握るお話でした。実は、私が毎月行き来しているインドネシアも、2014年以降、2度のテロ事や10万人規模のデモ、そして冠水や噴火といった自然災害などの事件が次々に起こっています。我々のような外国人である駐在員や日本本社は、こうした海外での事件に、どう向き合うべきでしょうか。

やはり、まずは現地で日本人の安全を管理している大使館との連絡経路を確認することです。現地の大使館は、海外邦人を管理する安全管理義務があります。また、リアルな情報の集まる現地メディアをしっかりと押さえること。当然、現地情勢を把握するためには語学の知識も欠かせません。

もうひとつ大事なのは、会社のトップの判断力です。テヘラン赴任中のイラン・イラク戦争時、日本のTV番組でニュースキャスターの木村太郎さんがおっしゃっていたのですが、日本人というのはみんな、海外で有事に遭遇すると他の会社がどうしているか、というのをすごく気にします。

私たちは空爆の数日後には脱出せざるを得ない状況に陥りましたが、その時人事部はほかの人事部との間で「おたくはもう避難を先決めましたか? 避難する飛行機は飛びましたか? いつ脱出するのですか?」といった連絡するのです。横並び意識というのでしょうか。しかし、そんなことを気にしているうちに脱出できるタイミングを逃してしまいます。

現地から現場のリアルな情報を本社に届け、本社は有益な情報を現地に届け、判断は現地のトップに委ねる。そして、最後の責任は本社がとる。理想は、こういった信頼関係でしょう。

では最後に、これらの体験から私が「常に身につけておくべき必需品」だと考えた「危機管理のカキクケコ」をご紹介しましょう。はじめの4つ「カキクケ」は、それぞれ「金・キー(鍵)・靴・携帯」です。お金・鍵・携帯は想像がつくと思いますが、実は靴も大事なのです。爆撃はそうそうなくとも、地震などの災害でガラスが散乱した道は靴がないとなかなか歩けません。

そして、最後の「コ」は、やはり「心」です。私が遭遇した3つの事件もそうですが、人間が最後に振り絞れる力の源は、人の温かい心です。国籍も言葉もまったく違う人たちでも、心さえ通じ合えれば、トルコのエルトゥールル号事件や天安門事件下の我々のような友情、震災時のエピソードのように、時代を超えた美談が生まれるのです。

稲垣 なるほど、「心」ですか。私は、CQ(異文化適応力/カルチュラル・インテリジェンス)という観点で研究をしているのですが、CQに大切な性格特性は、「開放性(チャレンジ力や好奇心)」、「外向性(社交性や積極性)」、「利他性(他人の幸福を願う精神)」だといわれています。

まさに同感です。自国を離れた日本人は、海外ではマイナーな外国人に過ぎないので、自らいろいろと新しいことに好奇心を持って、積極的に関わっていくことが大切です。

例えば、中国での宴席。中国の場合、宴席というのは仕事を盛り上げるひとつの手段で、アルコール度数の高い白酒を飲んで仲良くなったりします。そういう場に臆さず飛び込んでいって、「心の交流」を図るのです。中東だと宗教的に飲酒しない国が多いので宴席にはお酒が入らないのですが、イラン駐在中にはよくホームパーティーに呼ばれ、コーラやジュースで乾杯して、いろんな話をして盛り上がったりしました。

利他性についても、自分だけが得をしようと思っていたら、やはり関係は長続きしません。日本人は、相手を思いやる優しい心を国民性としてもっています。まずは、こちらから相手におせっかいを焼くくらい積極的に関わるくらいがちょうどいいんだと思います。これから日本にも外国籍人材が増えてくるなかで、困っている外国人を見かけたら、まず自分自身は何ができるかを考えて行動することが大切だと思います。

今、私がミッションとして取り組んでいるのは、「BJTビジネス日本語能力テスト」という日本漢字能力検定協会が主催しているテストを、国内外に普及させることです。そして、日本語や日本文化を身につけようと必死に頑張っている外国の方を見つけたら、我々日本人のほうから積極的に関わっていけるようにしたいものです。

インタビューを終えて

まさに、手に汗握るインタビューだった。ここまで多くの海外の歴史的事件に遭遇している日本人は、そうはいないだろう。木さんの助言は、いわゆる危機管理マニュアルでは決して伝えられない厚みがあった。そして、育った環境や文化、言語が違う者同士でも、「心の交流」をすることで、深い信頼関係が築けることを改めて確信した。
取材協力:木純夫(たかぎすみお)さん
1949年、兵庫県神戸市生まれ。神戸大学経営学部卒業。1973年、伊藤忠商事株式会社入社。1987年、伊藤忠商事北京事務所機械部長として北京へ駐在。その後、東京本社の中国化工プロジェクト室長、台湾伊藤忠国際会社副総経理、瀋陽事務所所長などを歴任する。2013年より公益財団法人 日本漢字能力検定協会に勤務し、現在執行役員。
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著者プロフィール

株式会社エイムソウル 代表取締役 PT. Bridgeus Kizuna Asia Director 稲垣隆司

1975年大阪生まれ、同志社大学卒業。急成長したベンチャー企業で人事部責任者を務め、年間600名の新卒採用の仕組みを作る。その後人事コンサルティング会社でコンサル部門責任者として年間100社の採用をサポート。2005年株式会社エイムソウルを設立し300社を超える顧客の人事課題解決に取り組む。2014年インドネシアに進出し、現地でPT. Bridgeus Kizuna Asiaを設立。日系企業に特化して人事課題解決に取り組む。毎月日本とASEANを行き来しながら活動中。

●株式会社エイムソウル 概要
「すべての人に、生きがいを」をミッション(理念)として掲げ、採用・教育コンサルティングサービスを行う。
「活躍する外国人を見抜く適性検査」CQI(https://www.aimsoul.com/global/)のβ版を2019年4月にリリースした。また、マインドセット研修「TOP GEAR」やプロジェクト型研修「NEXT GATE」、ASEANローカルスタッフのスキル・マインドセットe-Learning
「Bridgeus」、インターン、選考、研修用グループワークのレンタルサイト「Groupwork.com(https://hr-groupwork.com/)」など課題解決を図るサービスを延べ1万人以上に提供している。
株式会社エイムソウル 公式サイト

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