ワーク・ライフ・バランスの向上が「健康経営」を、ヘルスリテラシーへの理解が「女性活躍」を促進させる

HRプレミアムフォーラム講演録

経済産業省の提唱する「健康経営優良法人」や「健康経営銘柄」の選定などを背景に、企業における「健康経営」が注目されるようになっている。本講演では人事管理論を専門とし、ダイバーシティ・マネジメント、ワーク・ライフ・バランス支援、女性活躍支援といった分野にも取り組まれている中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール) 教授の佐藤博樹氏を講師にお招きし、企業の人材活用と健康経営の関係を整理しつつ、女性活躍とヘルスリテラシーの関係、さらにワーク・ライフ・バランス管理職の育成の重要性についてお話しいただいた

目指すべき「健康」とは?

今日は「健康経営、女性活躍そしてヘルスリテラシー」というテーマでお話をさせていただきます。まず皆さんにお聞きしたいのが、「健康とは何か?」ということです。「この数年間、カゼをひいていないから健康です」「大きな病気をしたことがないから健康です」と答える方がいらっしゃるかもしれませんが、これは違います。「毎日エネルギッシュに仕事ができているから健康です」と答える方もいらっしゃるでしょう。しかし、病気でなくても、毎日2〜3時間残業をこなし、夜の9時や10時に帰宅して、夜遅くに食事を摂り、休日は昼まで寝ている、といった生活スタイルは、おおよそ健康的とは言えません。

「健康とは何か?」という問いに対して用いられる説明の一つが、世界保健機構の憲章(1946年)です。ここには「健康とは、単に疾病がないとか虚弱でないだけでなく、身体的にも精神的にも、さらに社会的にも完全に良好な状態という」と書かれています。「良好な状態」とは、生きがいを感じて意欲的、前向きに生きている状態を指します。さらに「社会的にも良好な状態」とは、社会との関係において孤立や過度の矛盾や対立がなく、居場所と役割とサポートが得られ、役割を満足に果たせている状態」のことを言います。

会社や組織では「健康を維持するのは個人の責任」という考えになりがちですが、「個人が健康な状態であるために会社がサポートする」という考えが、現代社会においてはとても重要です。最近の研究では、医師や検査によって診断される「客観的健康」よりも、自分が健康かどうかを自分自身で判断する「主観的健康」の方が、将来の生存・死亡の予測力が高いとされています。つまり、客観的な診断や数値の上では問題がなかったとしても、それは「病気でない」ことを示すだけであって、「健康かどうか」を示すものではないということです。そういったことも踏まえ、会社として従業員の健康への取り組みを考えなければなりません。

健康を維持するのは個人の責任、病気になるのも個人の責任、という「疾病自己責任論」は、日本の社会に強く根づいています。しかし、健康であること、逆に病気であることには、実は会社や組織といった社会的環境が影響していることが多いのです。職場の雰囲気が悪いから、自宅でもお酒を飲みすぎるなど、私生活が荒れてしまうなどの例です。個人がそのようなストレス発散を必要としない、過度の努力や責任を負わないで済むのが「健康な社会」であり、「健康な会社、健康な職場」です。健康維持や増進へ向けて、会社や組織は、社員を支援するための環境づくりを目指していく必要があります。

著者プロフィール

中央大学大学院 戦略経営研究科 教授 佐藤博樹

1981年雇用職業総合研究所(現労働政策研究・研修機構)研究員。1983年法政大学大原社会問題研究所助教授。1991年法政大学社会科学研究所教授。1996年東京大学 社会科学研究所 教授。2014年より現職。2015年東京大学名誉教授。専門は人事管理論。 兼職、内閣府・男女共同参画会議議員、ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員、経済産業省・新ダイバーシティ企業100選運営委員会委員長、民間企業との共同研究であるワーク・ライフ・バランス&多様性推進研究プロジェクト共同代表など。

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