時代は「平成」から「令和」へ

ここからは就活生による「就活川柳・短歌」です。まずは、【最優秀作品】からです。

内定数 0は(令和)平静(平成) 装えず (東京都 ゆうさん)

2020年卒の学生は、まさに「平成」と「令和」をまたいで就活をする唯一の世代です。今年5月1日、皇太子殿下(当時)が新天皇として即位されるのに伴い、「平成」から「令和」へ改元となりました。折しも、改元日である5月1日は、特別法案によって今年1回限りの祝日となり、ゴールデンウィークは10連休(4月27日~5月6日)という超大型連休となりました。

改元が理由というよりも、10連休で選考活動が中断する、あるいは間延びするのを嫌い、選考中の学生には連休前に内定を出すべく、選考を前倒しで進める企業が多くなりました。それは、大手就職ナビが発表する毎月1日現在の内定率調査の結果推移を見ても明らかです。一方、学生のほうは、「平成の内定」と「令和の内定」にこだわりを持っていたようです。連休前、つまり「平成」のうちに内定が出ないまま、「令和」を迎えてしまったことに対して、大きな焦りを感じたという歌です。内定時期の早い、遅いに意味はないと、学生には伝えてあげたいものです。本当に自分の納得できる、自分に合った企業から内定が出たかどうかのほうがずっと大事なのだと。「平成の内定」もいいかもしれませんが、「令和(元年)の内定」もきっといいはずです。

それにしても、「平成(平静)」と「令和(0は)」をうまく組み合わせた見事な歌だと思います。

時代は変わっても、都市伝説は生きている?

続いて、【優秀作品】を2作紹介します。

御行の 内定辞退 温厚に (神奈川県 めうっちさん)

こちらも「御行(おんこう)」と「温厚(おんこう)」を掛けた見事な構成だと思います。大手人気企業といえども、内定を出すまでは企業側が優位であっても、内定を出した後は学生優位に立場が逆転します。企業からの内定取り消しはよほどの理由がない限り認められませんが、学生からの内定辞退は自由だからです。学生が誓約書や内定承諾書を提出していようが効力はありません。企業は過去の実績を考慮し、ある程度の内定辞退を見越して、採用計画人数に対してやや多めの内定を出すことが多いです。ただし、だからといって内定辞退の申し出を笑って認められるものでもありません。

採用人数の多い大手企業では、入社後の活躍期待値の高さや内定辞退の可能性によって、内定者をグループ分けしていることがあります。どのグループに振り分けられているかによっても、内定辞退を申し出たときの対応は異なってきます。もちろん、内定辞退の伝え方や辞退理由、辞退を申し出た時期によっても変わってくることは言うまでもありません。入社後の活躍期待値が高いグループや、内定辞退されることはないだろうと安心していた安牌(あんぱい)グループの学生からの内定辞退には、人事担当としてはショックが倍増します。ハラスメントに近い言動に出ることもあり得るでしょう。もちろん許されることではありませんが。

金融系企業に内定辞退を伝えた際の対応が、都市伝説にもなっています。内定辞退を伝えに人事部を訪問した学生が頭からコーヒー(かつ丼という説もある)をかけられ、クリーニング代だと称して2000円を渡されたというものです。まだインターネットが普及する前の、伝言ゲームのように広まった逸話であり、事実かどうかは不明のままです。これも金融業界のイメージを落としている一因かもしれませんね。

お母さん 今は時代が 違うんだ (愛知県 チャンサンさん)

今の就活生の親世代は、1980年代半ばから90年代前半あたりに自身の就職活動を経験した世代が大半です。バブル期だった人もいれば、バブル崩壊後に就職活動を経験した人もいるでしょう。ただし、どちらであろうと今の就職活動とまったく異なる点がいくつもあります。

一番大きいのはインターネットです。当時、就職ナビなどまだありませんでした。就職ナビが初めて登場したのは1995年でしたが、当時は通信環境がよくなかったため、普及するにはそれからさらに何年もかかっています。インターネットがないということは、当然企業のホームページもないということです。企業情報は、電話帳のように分厚い就職情報誌か、はがきで請求して企業から送られてくるパンフレットで調べるしかない時代です。上場企業であれば、東洋経済『会社四季報』の情報もありましたが、残念ながらほとんどの学生は見方が分かりませんでした。

エントリーシートやインターンシップもほとんどありませんでした。携帯電話やメールも普及していませんから、企業と学生の連絡手段はもっぱら自宅の固定電話か郵便しかありません。そして、今や誰もが知って利用している企業、例えばヤフーも楽天もまだ誕生していません。こうして考えてみると、就職活動だけでなく、日常生活自体がとてつもなく変化した時代だったと言えます。親のアドバイスがずれていたとしても許してあげてください。まさに「時代が違う」んですから。

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