1-3. 若手リーダー育成における2つの課題

このように、若手社員の早期登用に対する職場のコンセンサスは得られていると考えられます。しかし、大きな問題があります。肝心の若手社員が、リーダーになりたいと思っていないのです。
社会人700人に対して、リーダーを志向しているかどうかを調査しました。リーダーを志向している人の割合(注5)を、年齢層別に表したのが、図表2です。
入社時には30%程度だった割合は徐々に増加しますが、それでも40%が最大です。しかも、35歳でピークアウトしてしまっています(注6)。このグラフからは、若手のリーダー育成に関する2つの課題が浮かび上がります。

1つは、リーダーを志向する若手社員を、もっと増やさなければならないということです。もちろん、リーダー志向が低い人を救い上げる必要はないという意見もあるでしょう。しかし、磨けば輝くダイヤモンドの原石を石ころのままで終わらせては、会社にとっての大きな損失です。年配の社員は別として、ポテンシャルのある若手社員であれば、一度はチャンスを与えるべきでしょう。
そしてもう1つの課題は、ようやく抱いたリーダー志向を、35歳を過ぎても維持させることです。リーダーになりたいと思ってもらい、その志を持続させること。この2つが、若手リーダー育成にとっての大きな課題です。
なぜ若手社員は、リーダーになろうと思ってくれないのか

2. 若手社員のリーダー志向を抱かせるために

2-1. リーダー志向の源泉

入社時にはリーダーに興味がなかったけれども今はリーダーシップを発揮している25~34歳の若手社員415人に対して、リーダーを志すようになった要因をいくつかの角度から定量調査しました。その調査データを因子分析という手法で分析しました。その結果、リーダーを志すようになる直前の気持ちの変化が3種類浮かび上がりました。つまり、このような気持ちを抱かせることができれば、リーダーになりたいと思ってもらえるのです。

リーダー志向の3つの源泉
●野心:いまよりも大きな成果を上げ、自分の次のステップにつなげたい
●利他:部下や後輩、一緒に働く人が成果を上げられるように、手助けをしたい
●責任:自分が先頭に立って、部下や後輩を引っ張っていかなければならない

誤解のないように、補足説明をします。「野心」には2つの側面があります。1つは「大きな仕事を成し遂げたい、高い目標を達成したい」というポジティブな要素です。そして、もう1つは「認められたい、出世したい」という、卑近な例で言えば“のし上がってやろう”という感覚です。
そして「責任」ですが、これが仕事全般に関する責任感とは違います。「自分が引っ張っていかなければ」という、限定された責任感です。

2-2. 野心・利他・責任を抱くきっかけ

それでは、どんなときに「野心」「利他」「責任」を抱くようになるのでしょうか。予備調査で具体的な場面を述べていただき、その後に定量調査を実施して、統計的に分析しました。図表3の「●」が、関係があることを示しています。
なぜ若手社員は、リーダーになろうと思ってくれないのか
野心
野心は、⑦「自分の仕事の実力がついてきた」と⑪「以前に比べて周りから頼られるようになった」に●が付いています。ざっくり言えば、仕事に対する自信がついたときに、野心を抱くことが多いようです。部下の野心を高めようとした場合は、仕事の成果を自覚させるようなフィードバックが大切だといえるでしょう。

利他
利他は、①「部下・後輩を持つようになったり、部下・後輩が増えた」と④「いろいろな人と協力して仕事をする経験をした」に●が付いています。つまり、周囲の人たちとの接点の多さが影響するようです。部下に利他の気持ちを抱いてもらうには、さまざまな人と協働する機会を与えるとよいということです。

責任
責任が関係しているのは、①「部下・後輩を持つようになったり、部下・後輩が増えた」だけです。それよりも、関係していないところを見たほうがいいと思います。⑤「昇進・昇格した」には●がついていません。主任とか課長というポジションを与えれば、自分が引っ張っていかなければという責任感が湧くわけではないということです。いくらポジションを与えたところで、実際に引っ張るべき相手がいなければ、リードする責任感がなかなか湧かないのは当然です。ポジションなどよりも、公式でも非公式でも、その人が面倒を見るべき社員をつけることが重要です。

もちろん、実際はそんな単純ではありません。人の意識はそんなに簡単には変わりません。ただ、その確率は高くなるということを、調査結果が示しています。

3. 若手社員のリーダー志向を持続させるために

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