組織と個の関係と、その時に人事が果たすべき役割

寺澤 次に「組織と個の関係はどうなっていくのか、人事はどのような役割を果たすべきか」についてお聞きしたいと思います。

 これまでは、組織があってそこに個が属するという位置関係だったのが、先ほどEmployee Experienceの話があったように、先に個があるとき、組織はどう対峙し貢献できるのでしょうか。
 最近のスポーツ界ではパワハラの問題など、色々大きく取り上げられております。私も以前、スポーツをしており、かつては鉄拳制裁が当たり前に思っていたのが、今は価値観が変わって問題になっています。
 個を活かすために組織がどうサポートできるかという観点に切り替わっていると思いますが、まさに紅楳さんはそのような変化があったのではないでしょうか。

紅楳氏 ハラスメントに関する発言は本当に気をつけなければなりませんが、最近の報道を見て思うのは、そもそも誰に責任がある中で行われていたことなのかが曖昧なために、叩かれる隙があるように思います。
 スピードスケートはこの4年間、何かするときに、誰に、どう責任があるかを明確にしてきたと思います。
 「アスリートファースト」という言葉があります。それは当たり前ですが、定義付けが必要で、何でもかんでも選手のわがままでいいわけではありません。それは選手の将来にどう影響するのか。その辺りまで考えながらの「アスリートファースト」です。我々も4年の間に実は色々ありましたが、先般問題となっているパワハラ問題も誰が責任を負うかを考えながらやっていけば、「この状況だったら、これはここが悪い、これはこっちが悪い」と話ができていたので、そこまで問題になっていないと思います。

寺澤 個のパフォーマンスのほかに、チームのパフォーマンスを上げることがあると思います。チームパシュートは、まさにチームとしてパフォーマンスを上げてきました。そこに日本らしさの強みもあったのではと思うのですが、チームとしてのパフォーマンスを上げる観点から日本らしさについてコメントをいただけますか。

紅楳氏 科学的というより感覚的な言い方になりますが、日本人は相手を思いやることや、何となく空気を読む行動ができることは間違いないと、外国のチームを分析していて思います。
 データについては表に出していない内容がいくつかありますが、ほとんどオープンにしています。するとよく「海外に真似されるのでは」と心配されます。しかし、海外の選手はデータの内容が分かってもなかなかできません。やはり日本人に比べると我が強いのかもしれません。
 だから、日本人の性質を踏まえた上で、「我を殺してもこうした方がいいのでは」というデータの出し方をすることもあります。例えば、選手同士の相性で、この選手が来たらもう少し下がったほうがいいとか、もっとしっかり下がったほうがいいとか、カーブの加速を少し緩めたほうがいいとか、そういった言い方はしていました。そのような状況に慣れながらやってきたと思います。

寺澤 続いて伊藤さん、強いチームである特殊部隊を作るときに、組織と個の関係をどのように考えていたのでしょうか。

伊藤氏 組織と個の関係は、一分の違いもなく一致しているということが当然で、これがずれていたら組織づくりは絶対に無理だと思います。
 特殊部隊創設のきっかけになったのが能登半島不審船事件です。ですから組織の目的は、日本人を拉致して北朝鮮に向かう工作母船に乗り移り、拉致された日本人を無傷で連れて帰ってくることです。これは軍事作戦として成り立つのだろうかと思うくらい困難なものです。だからこそ非常に損耗率(隊員が死ぬ確率)が高い組織です。
 ですから人員を選抜する中で、能力の高さより“死生観”を重要視しました。損耗率が非常に高いとき、行くか行かないか。そのときにアメとムチで動くような人は、最終的に行かず、任務を放棄する可能性があります。人選はそこを重要視して行いました。つまり、組織の要求と個人の要求が一致しているかどうかを最重要視したわけです。
 企業のことはよく分かりませんが、これに当てはめれば、例えば入社試験の最初の面接で、「当社の企業理念は知っていますね。なぜあなたはそれに魅力を感じ、当社に入りたいと思っているのですか?」と聞くでしょう。今、一致していなくても3年後に成長した時にでも良いですが、その部分が一致すると思った人間しか採用しません。
 私の場合、特殊部隊時代に隊員に対して、「君はここに何をしに来たのか」「何のために来ているのか」とよく聞きました。例えば、「何のために朝食を食べたのか」と聞き、「お腹が空いたから」と答えた場合は激しく怒ります。怒るというより、「違うだろう、君は特殊部隊員になり、こういう任務のトレーニングをするために今朝、食事を食べたのだ。カロリー、栄養素、タンパク質すべてが必要だ。だから、食べたのだ。そのためにここに来て、そのために今日生きるのだ、勘違いしてはいけない」という話をします。そうして必ず全隊員の意識を一致させるようにしていました。

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