Ⅱ メリハリのある働き方の実現を

視点7:「安易な残業依存体質」の解消を

ダイバーシティ経営・働き方改革で重要なのに見落とされがちな10の視点
 働き方改革は、多様な人材が活躍できるということですけれども、これは残業削減ではないのです。それでは何を変えるのか。安易な残業依存体質を解消することです。必要な残業もありますので、本当に必要な残業かどうかを考えてもらうことが大事なのです。
 例えば、朝、営業担当者が取引先に企画提案を持っていったとします。午後1時頃に「あの提案はいい」と電話がかかってきます。その際、「追加のデータを用意してくれませんか。できれば明日、朝一番で持ってきてほしい」と言われたとします。その要望にそのまま対応するために残業するのでなく、取引先に「もう1日いただければ、バージョンアップした企画書を持って行きます」と提案してみることが大事です。すぐに取引先の要望に対応するために残業しようとするのではなく、その前に取引先と対話することが大事です。しかし、対話した結果、「どうしても明日持ってきて」と言われ、その要望に対応するために1時間残業しなければいけないとします。そのときは、1時間の残業をするのだけでなく、もう1時間残業して明日の仕事を先に処理し、明日は、定時で退社できるようにすることなどが大事なのです。
 つまり、仕事が終わらなければ残業で対応すれば良いと考える安易な残業依存体質を解消することで、そのためには一歩立ち止まって仕事の仕方を考えることが大事なのです。

視点8:時間意識の高いメリハリのある働き方で「平日のゆとり」確保を

 もう一つ大事なことは平日の過ごし方です。なぜ「定時退社日」を設けることが大事だと言っているのかというと、「社員一人ひとりが、働き方改革でどのような生活を実現するのか」、その点を考えてのことです。
 働き方改革を進めて残業が大きく削減できた企業で、社員意識調査を行うと、仕事満足度が下がったという事例があります。1つは「残業代が減った。働き方改革で得をしたのは会社だけじゃないか」というような意見です。もう1つは、「自分は仕事が好きなのに、早く帰れと言われる」という意見です。つまり、働き方改革で残業が減り、生み出された時間を自分の生活を豊にすることに使えると考えることができないのです。この点が課題です。「自分がどういう生活をしたいか」という観点から、社員一人ひとりが働き方を考えることがこれからは大事だと思います。
 例えば、所定労働時間が8時間で休憩1時間として、1時間の残業でも、首都圏で通勤時間が片道1時間であれば帰宅は夜8時です。独身の人なら8時に帰って、食事の用意をする。ちょっと休んだらもう9時で、9時から夕食を食べると太りますよね。その後はもう疲れてテレビを見て終わりです。1時間の残業でもこういう生活になってしまいます。そして、土曜日は昼まで寝ていますよね。昼頃に起きてきて、ご飯を食べて、部屋を片付けて、洗濯をして、買い物したらもう夕方です。そうすると日曜もゴロゴロする。つまり、平日に1時間でも毎日残業すると、平日のゆとりがなくなり、週末も生活にゆとりがなくなるのです。
 では、小学校入学前の子どもがいる共働きのカップルの場合を考えると、夫が8時に帰ってきて、すぐに夕食を食べることができるのは、妻が早く先に帰ってきて、夕食を用意しているからです。短時間勤務等で早めに退社し、遅くとも7時までに子どもに夕食を食べさせ、食事の片付けを終えた頃に夫が帰ってくる。これでは、夫は帰って来ない方がいいですね。夫が7時までに帰宅するか、9時以降に外で食事を済ませてから帰って来てもらったほうがいい。結婚して子どもがいるカップルが、平日に子どもと一緒にご飯を食べられる生活は特別なことでなく、普通のことだと思うのですが、平日1時間の残業でもそれが実現できないのです。
 ですから、例えば、月45時間残業が20時間くらいに減っても、毎日1時間の残業ではダメなのです。毎日1時間でなくて、「残業0(定時退社)の日」と「2時間以上まとめて残業する日」の組み合わせの方がいいのです。もちろん残業がなくなればいいのですが、月20時間程度の残業が必要であるとすれば、残業0と残業2時間以上の組み合わせが、平日のゆとりにつながります。メリハリのある働き方です。

Ⅲ 働き方改革は生活改革と表裏一体

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