3. 他者の意見を活かすためにあなたがすべきこと

「事実情報の補完」、「異なる解釈の発見」、「自信と後押し」。多くのビジネスパーソンは、他者を頼ることでこの3つを得られると感じています。ここで、最も肝心なことに話を移しましょう。果たしてこの3つを得られれば、良い結論にたどり着くのでしょうか。3つの効果それぞれと決定内容の質の関係性を分析しました(注4)。

分析結果は、図表3の矢印が示しています。「事実情報の補完」そして「自信と後押し」は決定内容の質に関係しますが、「異なる解釈の発見」がなされたとしても、決定内容の質につながるとはいえなかったのです。
なぜいつも決断ミスをしてしまうのか
さて、この事実はどう解釈できるでしょうか。“自分とは異なる解釈は役に立たないものばかりだ”と読み取ることもできるかもしれませんが、私はそうは考えませんでした。“自分と異なる解釈や意見を取り入れることは簡単ではない”と考えました。

“類似性の法則”という言葉があります。いくつかの研究でも明らかになっているのですが、人は自分と同じようなタイプの人を好むといわれています。同じような考えを持つ人と一緒にいると心地良いし、そういう人との議論は楽しく感じます。誰もが自分の考えを肯定して欲しいと思っているし、できれば否定はされたくないでしょう。意見の対立が感情の対立になってしまうこともあります。

つまり、自分とは違う考えの人との議論は、それがうまくできればいいのですが、実は簡単ではないということが、この分析結果に表れているのだと思います。

そうした前提に立った場合、私たちはどうすればよいのでしょうか。どうすれば、異なる解釈を意思決定に活かすことができるのでしょうか。ここでは3つのポイントを説明します。

3.1. すべての意思決定に、異なる解釈を持ち込まない

図表3の分析では、「異なる解釈の発見」が「決定内容の質」に関係するとはいえないという結果になりましたが、この分析を難易度の高い意思決定のデータに限定して行いました。すると、僅かながら関係性が見出されました。まだ粗い分析なのでさらなる検討が必要なのですが、よく考えると当たり前のことです。簡単な問題であれば、異なる解釈など必要ありません。異なる解釈は無駄な混乱を招き、意思決定の生産性を下げるだけだからです。

みなさんの職場における未解決の問題を、いくつか挙げてみてください。その中には、ほとんどの人が何をすべきかが分かっていながら、単に手が付けられていないだけものもあるでしょう。そのような場合は、多様な観点から解決策を考えてもらう必要はないのです。すぐに決めてすぐに実行することが肝心です。異なる解釈を求めるのは、難しい問題に限るべきです。

3.2 発散段階と収束段階を分離する

それでは、難しい意思決定に直面したとしましょう。理屈で考えれば、たった一つの解釈に頼るよりも、さまざまな解釈があった方が、より正しい結論に近づくはずです。例えるなら、今登っている山を登り続けても、隣にあるもっと高い山の頂上を超えることはできません。多くの山を把握した上でどの山に登るのかを決めた方が、より高い地点に到達できます。

しかし、多様性(デモグラフィックな多様性ではなく、認知的多様性)の研究の第一人者で、多様性の効果を世に知らしめたスコット・ペイジでさえ、多様性には限界があり、うまく機能しなければアイデアの吹き溜まりで終わってしまうと警鐘をならしています(注5)。そして、意思決定にかかわる少なからずの学者は、意思決定プロセスを発散段階と収束段階に分離し、解釈や意見の多様性を収束段階に持ち込むべきではないと主張しています(注6)。発散段階では「三人寄れば文殊の知恵」になった多様性は、収束段階では「船頭多くして船山に上る」ということになってしまうのです。

3.3 自分自身に謙虚になる

仮に、発散段階と収束段階を分離したとします。そして発散段階では様々な角度からの意見をもらうことができて、最終決断に向けて豊富な選択肢が列挙されたとします。しかし、結局はもともとの自分の考えに近いものを選んでしまいがちだということを、図表3は暗示しています。たとえ、自分よりも良さそうな考えがたくさん挙がっていたとしても、そうなってしまうのです。

これは意思決定バイアスによるものです。バイアスとは「偏り」のことです。人は、合理的に考えようとしても、無意識のうちに偏った考えをしてしまうのです。そのうちの1つに、確証バイアスというものがあります。これは、自分の意見を裏付ける情報のみを探してしまい、自分の意見に合わないものを排除してしまうという思考の偏りのことです。例えば、入社試験で面接時間が30分あったとします。面接官は、だいたい10分ぐらいで合否を判断するそうです。残りの20分はどうするかというと、自分の判断の正しさを確認する質問(仮に採用すべきと判断したら、その人の良さが引き出されるような質問)ばかりをするそうです(注7)。

このバイアスは無意識に発動するので、避けることはかなり難しいといえます。ただし、対処するいくつかの方法はあります。最も基本的な方法は、「自分が常に正しいとは限らない」ということを認識することです。そうした自分の能力に対する謙虚さが、自分とは異なる解釈を受け入れることにつながるのです。


何かを決めなければならないときに、あなたは適切な他者をうまく活用できていますでしょうか。このコラムが、あなたの決断力向上に少しでもお役に立てれば幸いです。
注1:Eric Schmidt and Jonathan Rosenberg (2014) How Google Work, Grand Central Publishing.[エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ著、土方奈美訳(2014)『How Google Works』日本経済新聞社。]

注2:日経MJ(流通新聞)2017年3月13日003ページ。

注3:ダイヤモンド編集部(2012)「インタビュー「はやぶさ」の奇跡に学ぶ:協調型リーダーはいらない」ダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー2012年9月号。

注4:「決定内容の質」は、決定事項に取り組んでから3か月以上経ったときの感想を、以下の5つの質問で測定した。3か月以上経ったときの感想にしたのは、実際に取り組まなければ良し悪しを判断できず、またある程度の時間を置かなければ客観的に振り返られないためである。
・いま振り返っても、正しい決定だったと思う
・その決定をしたことに、後悔していない
・いまでも、その決定内容以外のことは考えられない
・いま同じ状況になっても、同じ決定を下したと思う
・その決定以外の方法では、より良い結果になったとは考えにくい

注5:Scott E. Page (2007)The Difference: How the Power of Diversity Creates Better Groups, Firms, Schools, and Societies, Princeton University Press.[スコット・ペイジ著、水谷淳訳(2009)『「多様な意見」はなぜ正しいのか』日経BP社]

注6:例えば、Michael A. Roberto (2005) Why Great Leaders Don‘t Take Yes for an Answer: Managing for Conflict and Consensus, Wharton School Publishing.[マイケル・A・ロベルト著、スカイライトコンサルティング訳(2006)『決断の本質:プロセス志向の意思決定マネジメント』英治出版。]あるいはCass R. Sunstein and Reid Hastie (2015) Wiser: Getting Beyond Groupthink to Make Groups Smarter, Harvard Business Review Press.[キャス・サンスティーン、リード・ヘイスティ著、田総恵子訳(2016)『賢い組織は「みんな」で決める:リーダーのための行動科学入門』NTT出版。]

注7:長瀬勝彦(2015)「意思決定の罠:確証バイアスと悪魔の代理人」、『人材開発白書2015:ミドルの決断力』所収。
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富士ゼロックス総合教育研究所では、1994年より人材開発問題の時宜を得たテーマを選択して調査・研究を行い、『人材開発白書』として発刊しています。
2011年から4年間にわたり、「なぜ戦略は実行されないのか」という問題意識のもと、ミドルマネジャーの役割に焦点を当て、6種類の定量・定性調査を実施しました。分析結果は、各年の『人材開発白書』で報告され、また『戦略の実行とミドルのマネジメント』(同文舘出版)にまとめられています。
戦略が実行されない理由の1つが、マネジャーの決断不足です。止めることを決断できないがために、本当にやって欲しいことに時間を使ってもらえない状況が浮き彫りになりました。そこで『人材開発白書2015』では、どうすれば決断できるのかという問題意識のもと、「ミドルの決断力」をテーマに分析をしました。
本コラムは、その分析結果にもとづいて書かれています。なお、『人材開発白書』のバックナンバーは、弊社のホームページ(http://www.fxli.co.jp/)よりダウンロードできます。

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