重要なのは、同じ時間を共有し、同じ意識を持つこと

稲垣 上田さんは現場によく足を運ばれているな、という印象です。昔から現場主義だったのですか?

上田 実は、昔は、社員からのレポートで判断し、会社で対策を打って指示をしていたんですが、それだとうまくいかないことが多かったんです。例えば、スマトラのある都市の話なんですが、小売店をたくさん持つ卸のオーナーと話をして、当社の商品が売れるよう小売店を回って営業する人を本社から派遣してサポートする、という話になりました。ところが、2カ月後にオーナーから連絡が来て「やっぱり引き上げてくれ、あんなやつはいらない!」とクレームが入りました。担当支店のレポートでは、「派遣した社員はまじめにやっていて問題ない」と報告がきていたので安心していたんです。

慌てて現地に行ってみると、派遣した営業は、オーナーとうまくコミュニケーションがとれていませんでした。卸の店舗にくるお客さんだけに営業をしていて、オーナーが期待していた小売店の営業には行ってなかったんです。そのことを、支店長へもきちんと報告はしていなかった。そしてどうやら支店長も、実際に現場を見に行っておらず、この状況を把握していませんでした。オーナーとの信頼関係は崩れてしまい、この時は、危うく取引がなくなりそうになりました。慌てて様々な施策を打ち、オーナーの信頼を回復することができたのですが、下手をすると、この地域で当社の商品を売れなくなってしまうような一大事でした。

この事例では、営業スタッフの問題よりも、エリアを統括している支店長が現場の状況を把握していないということが、大きな問題なんです。それからは、各支店長には、私の行くところに同行してもらい、同じ時間を共有し、同じ課題を感じ、相談した上で施策を打つようにしています。地道なことですが、こういうことの積み重ねが、強い組織を作っていくんだと思っています。
第4話:緊張感あふれる海外で磨かれる組織マネジメント力

山本五十六の言葉を心に留めて

稲垣 組織マネジメントの観点で、これから駐在される日本人の方へメッセージがあれば、お願いします。

上田 赴任当初の自分に言い聞かせたいことですが、「自分はリーダーだから教えてあげる」というスタンスではなく、「日本人は外様なんだ」と意識するのが大切だと思います。まずは相手のことを理解し、その上で自分がどう貢献できるか、というスタンスで来た方がいいと思います。

こちらに赴任した当初は、日本では経験のない大きな経営目標を持たされたり、大きな組織を任されたりするプレッシャーでかなり気を張っていたと思うのですが、それゆえ、思い通りに動かない部下を叱りつけることが多かったんです。でも、私が怒ることで彼らは委縮するものの、行動や結果があまり変わらなかった。

今考えると、私のコミュニケーションは「命令」になっていて、彼らの「納得感」や「共感」を生んでいなかったのだと思います。当時はうまくいかず、非常に悩みました。その時に、山本五十六の有名な言葉「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」を思い出したんです。

まず私自身がやって見せて、さらに細かく説明をし、納得感を持たせて、実際にやらせてみる。そして、できたことに対しては、称えたり、インセンティブで評価したりする。すると、彼らの意識や行動が変わってきたんです。山本五十六のこの言葉は昔から知っていましたが、この国にきて初めて、自分ごととして実感できました。

インドネシアは元来、多様性のある国なので、文化の違いも地域ごとにあります。常にフラットな姿勢でいろんな人と接することで、日本では得難い経験が数多くできます。
第4話:緊張感あふれる海外で磨かれる組織マネジメント力

インタビューを終えて

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