スウェーデンの経済学者が行った、献血に関する興味深い調査があります。153人の女性を3つのグループに分けて献血を実施する割合を調査しました。その3つのグループとは、無償のグループ、謝礼がもらえるグループ、謝礼が慈善団体に寄付されるグループです。結果は、1番目と3番目のグループが50%を超える人が献血したのに対し、2番目は30%に過ぎませんでした (注1)。
文化人類学者の小田亮先生は、互いに助け合うのが人間本来の姿ではないかといいます。例えば、東日本大震災では被災者同士が助け合い、また多くのボランティアが何の見返りも期待せずに被災地に駆け付けました。
ところが、人間の利己的な行動、つまり自分や自部門のことだけを考え、他者や他部門への協力をおろそかにするという行動は、よく見られることです。これに対して、小田先生は1つの可能性に過ぎないと前置きしたうえで、次のような説明をしています。

「職業や社会的地位、さまざまな社会制度といったものが邪魔をして、それ(互いに助け合う行動)を十分に発揮できていないのだ、とも考えられる (注2)。」

私たちが働く会社の中にも、組織の壁がたくさんあります。お互いに協力したいという気持ちはあっても、知らず知らずのうちに壁が出来てしまうのです。このような壁は、なぜ生じてしまうのでしょうか。また、その壁を乗り越えて協力し合うためには、何をすべきでしょうか。部門を率いるミドルマネジャーに焦点を当てて考えます。

組織の壁を形成する5つの要因

「組織の壁を形成する要因は、○○○○だ。」

この○○○○には、どのような言葉が入るでしょうか。
各社が置かれている状況は様々です。また、各人はそれぞれ違った経験をしています。それゆえ、多様な要因が挙がったことと思われます。とはいうものの、それらはいくつかに集約されます。企業のミドルマネジャーを対象に、他部門との連携が上手くいかなかった理由を調査しました(『人材開発白書2013』)。1,023人の回答データを統計的に分析したところ、以下の5つに集約されました。

●相互の方針のずれ
●相手部門の能力・人手不足
●自己の連携構築力不足
●部門重視の制度
●心理的なわだかまり

「相互の方針のずれ」は、相手部門と方針や関心ごとがずれていることです。「相手部門の能力・人手不足」は、期待する能力が相手部門になかったり、あったとしても忙しくて余裕がないことです。「自己の連携構築力不足」だけは自分自身のことで、連携をマネジメントする能力が足りないことです。「部門重視の制度」とは、評価制度等の各種制度が部分最適を助長するものになってしまっていることです。そして、最後の「心理的なわだかまり」は、感情面のことです。

組織の壁を形成する5つの要因

この5つの影響の大きさは同じではありません。連携構築にとって大きな障害になるものもあれば、それほどならないものもあります。それを表したのが図表1の棒グラフです。
なおこの値は、それぞれ3~6つの具体的な質問の5段階評価を平均したものです。5に近いほど障害に感じており、1に近いほど障害に感じていません。3は「障害になっているともなっていないともいえない」という中立的な回答です。
なぜ部門間の協力が進まないのか
最も障害に感じているのが「相互の方針のずれ」です。お互いの部門の利害や関心ごとが一致していなければ、当然のことながら協力を取り付けることは難しくなります。
しかし、それ以外にも理由がありました。「同じ会社・事業部だから方向性は同じだろう。だから、言えば分かってくれるだろう」という安易な気持ちで、連携を進めようとしていたのです。会社や事業部が同じでも、機能が異なれば必ず利害や優先順位が異なります。ケースでいえば、技術部門と営業部門あるいは生産部門とは、大きな方向性では一致していましたが、細部になると対立点が顕在化しました。こうした現実から目を背け、自分の都合だけで連携を進めようとする姿勢が問題なのです。

2番目の問題は「相手部門の能力・人手不足」です。これは「相互の方針のずれ」に通じるところがあります。相手部門は、相手部門の方針や計画の下で人員・工数計画をたて、また人材育成をしています。そこに割り込んで入っていこうとするのですから、人や時間を融通しかねるのは当然のことです。

部門化がなされ、各部門に役割と目標が与えられた瞬間に、必ずどこかに利害の不一致が生じてしまいます。これは仕方のないことです。他の部門と連携しようとしたら、この利害の不一致から目を背けてはいけません。そして、利害が一致しない中でも、ミドルマネジャーは何とかして協力を取り付けなければなりません。どうすればそのようなことができるのでしょうか。その具体的な方法を3つ紹介します。

周りを巻き込むために(1)_臆せずに一歩踏み出す

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