セールス・イネーブルメントという組織機能

そうした状況のなか、弊社が行っているのが、セールス・イネーブルメントという部門を設けての人材育成施策です。

弊社もそうでしたが、企業の事業成長に伴って、人材育成が追いつかなくなることが多いかと思います。売上を拡大したいと考えると、会社はどんどん営業人材を採用し、急速に人員が拡大します。そうした人員をどんどん立ち上がらせなければなりませんが、中途採用者はバックグラウンドがバラバラ、つまり売り方もバラバラの状態です。彼らを主に育成するのはマネージャーですが、個々のマネージャーによって育成ノウハウが違うという問題が生じるため、「できるチーム」と「できないチーム」に分かれてしまう場合があります。また通常、人材育成は、突発的な外部研修と製品トレーニング、OJTがメインで、体系性や継続性がありません。きちんとした育成部門ができるまでは、このようなサイクルが続く可能性が高いでしょう。

専門の育成部門がない場合の人材育成体制について詳しく考えていきましょう。一般的には、営業を支援する部門は2つあります。1つは、営業本部のなかの営業開発部です。営業人材に対し、さまざまなツールを提供したり、製品のトレーニングをしたりします。ただし、人材育成については専門外で、必ずしも効果的な育成ができているとは言えません。もう1つは、人事本部のなかの人材開発部です。人材育成を専門とした部門ですから、多くのトレーニングを提供しますが、営業の実務はわからず、現場の実態に合ったトレーニングを提供できていない可能性があります。

セールス・イネーブルメントは、これまでの営業開発部と人材開発部のコンセプトを掛け合わせた部門といえます。すなわち、営業と人材開発両方の専門性を持つプロフェッショナル部隊です。営業の立ち上がりやスキルアップ、最終的な売上強化につながる施策を行うのが部門ミッションです。この機能については、企業の規模に関係なく、売り上げのトップラインを伸ばす必要のある会社にとっては、組織コンセプトとして検討に値すると考えられます。
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ここでそもそも、セールス・イネーブルメント(Sales Enablement)とはどういう意味なのか、簡単にご紹介しましょう。Sales Enablementは、「営業組織・人を会社が期待できる営業の動きができる状態にし続けること」と定義できます。ポイントは「し続ける」という点にあります。会社の戦略や製品は毎年変わりますから、その時々に適した施策を提供して、会社が期待する動きをし続けるというのが、Enableに込められた意味合いです。

セールス・イネーブルメントは、アメリカなどでは比較的一般的な部門です。たとえば、LinkedInでSales Enablementをキーワード検索すると、日本では1,000件程度ですが、アメリカでは約10万件がヒットします。また、営業の役員向けのリサーチデータであるCSO Insightによると、セールス・イネーブルメントという組織を持っている会社の数は、年を追って増加しています。

弊社の場合、営業が売り上げのトップラインを伸ばすというミッションを持っています。グローバル全社で年25~30%の成長をしようという目標がある中、毎月中途社員が入社している状況です。そのため、中途社員の早期立ち上がりと、達成率の向上が必須課題となっています。それを支援するのが、セールス・イネーブルメント部門の役割です。提供するのはツールだけでなく、トレーニングやコーチングも含みます。

部門としての位置ですが、弊社の場合は、Corporate Strategy(経営戦略)の下にあり、営業や人事からは独立しています。グローバル本社や営業現場と連携しつつ、全社視点で人材育成施策を推進しているのです。なお、海外の他の企業では、セールス・イネーブルメントが営業部門の中に置くケースが7割程度です。

支援する対象は、営業にかかわるすべての組織です。また大別して、社内の育成と、社外のパートナー企業の育成に分かれます。社内の対象は、新卒から、インサイドセールス、ダイレクトセールス(直販)、SE、マネージャーなどの営業部門です。社外の対象は、弊社のソリューションを協業して販売するパートナー企業などです。重点パートナー企業には、社内トレーニング・コンテンツをカスタマイズして無償で提供しています。

弊社の場合、新卒営業はやがてインサイドセールス担当になり、その後、直販営業担当になりますが、各キャリアパスに沿ってサポートを行います。同時に、共通で使えるプラットフォームやコンテンツも一緒に提供しています。

なお、弊社では人事部門にも人材開発の担当メンバーがいますが、提供するトレーニングの違いは、コンテンツのレベル感と対象部門にあります。人事部門は、コンプライアンス・トレーニングなど全社員共通の基礎的なプログラムを提供し、一方、セールス・イネーブルメントは、営業の基礎から実践まですべてをサポートするのが特徴です。

弊社のセールス・イネーブルメントチームは、20名弱の体制となっており、担当するセグメント、対象とする部門によってチームを分けています。具体的には、新卒を支援するメンバー、インサイドセールスを支援するメンバー、営業の現場を見るメンバー、グローバルのノウハウを日本に展開するメンバーといった分け方です。

セールス・イネーブルメント部門を組織する際には、メンバー構成が重要です。営業現場からすると、「どうして営業の外の人間から口出しされなければならないのか」という率直な感想があるはずです。そこで、セールス・イネーブルメント部門が行っていかなければならないのは、営業の現場と人材育成両方の知見から、営業現場の人材が持っていない観点で、コンテンツやトレーニングを提供することです。

メンバー構成としては、まず、社内の営業経験者や技術経験者を配置します。すなわち、弊社の営業において、どうやれば売れるかを熟知しているメンバーです。さらに、過去に社外で人材開発や研修、コンサルティングを経験した人(人材コンサルティング会社出身者、エグゼクティブコーチングファーム出身者)などもメンバーとして加えています。彼らは、コンテンツ作成や分析、体系化が得意なメンバーです。この2つを組み合わせることで、現場に最適なトレーニング、コンテンツの提供が可能となります。
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