評価は選択の積み重ね、現実の把握

私達は日頃、紅茶かコーヒーかというささいな選択から、会社を選ぶなど重要な選択まで、さまざまな“選択”を経て、今日の自分に至っている。

一方で“評価”は、“自分ではない他人が強制する選択”と捉えることができる。つまり、人は自分をどう見るか。そこに関しては、自分がコントロールできる領域ではないと、多くの人が思っている。

“ジャム研究”で有名なコロンビア大学・ビジネススクール教授のシーナ・アイエンガーは著書『選択の科学』 (文芸春秋 2010)で、多角的な視点から選択の複雑さを浮き彫りにしている。以下、同著より抜粋する。

「私達は自分が描く自己像と他者が描く自己像を一致させることを重視するため、自分が他人に本当はどう思われているかを知るための手がかりを、たえず他人の行動から読み取ろうとしている。」

アイエンガーは、私達がどのようにして世間に合わせようとするか、その手がかりを知るのにうってつけなものとして“360度評価法”(人事考課を上司や同僚、顧客等から無記名で評価するもの)にふれている。

この評価法を、彼女はビジネススクールの新入生全員に、元の職場の同僚や顧客、現在の同級生から受けるように義務付けた。これにより、毎年9割以上の学生たちが、自他の著しい認識ギャップを知ることとなった。ある人は、自分を人望がある重要なチームの一員だと考えていたのに、実際には凡庸か、もしくは一緒に働き難い相手とみられていたり…、ある人は、頭が切れると思われていたが管理職向きの人材とはみなされていなかったり…。学生たちは皆、他者による認識が、長所についても短所についても人によって大きく違うことを知って驚いた。 

こうした認識ギャップが生じる理由として、彼女は学生たちに次のように言う。「あなた方は自分の行動の背後にある意図がわかっているから、自分を正当と考える。でも、人は自分のみえるものだけに反応するものだ」と。さらに、「他人は相手の行動を自分の経験のレンズを通して解釈するか、または外見の憶測から判断し、その人物像についての一般的な固定観念を通して解釈する」と。

単に「人によって違うのさ」ということではなく、私達の日々の行動は、他人によって解釈され、ひいては誤解されているのである。しかし裏を返せば、他人による評価は、現実を把握する手段として役立つということだ。本当の自分を知るためには、人にどう思われているかがわかれば、よい手がかりとなるだろう。私達は他者の描く自分をのぞき込み、そこに自分の描く自己像を見つけることを何よりも望んでいるのだ、とアイエンガーは述べている。

評価の本質、そして選択が、どれほどの力を持つものかを認識することこそ、悩み解決の扉を開く力となるのではないだろうか。人事評価制度によって、部下が育ち、課長の荷は軽くなり、ますます人も組織も成長する仕組みとなることを願う。
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