「うつ病」に必要な処方箋

「うつ病」に対する薬物療法は、重いうつや精神病性うつには有効であっても、グレーゾーンの「軽症うつ病」「適応障害」「気分変調症」にはほとんど効かないと言われている。かえって薬物の副作用によって、患者が拡大再生産されているのが現状だという。現に、日本うつ病学会は2012年に「軽症うつ病」については、「プラセボに対し確実に有効性を示しうる治療薬は存在しない」と宣言している。プラセボとは、本物の薬のように見える外見をしているが、薬として効く成分は入っていない、偽物の薬のことである。それでは「うつ病」、とくにグレーゾーンの人たちへの治療法として、本来どのようなものが必要なのだろうか?

まずもって必要なのは適切な「療養指導」である。具体的には、生活習慣の乱れや対人交流の改善である。特に、睡眠指導を受けることは必須だ。睡眠時間や睡眠相を安定させることで、多くの人たちはうつ状態が改善すると言われている。

次に必要なのは、精神療法アプローチである。精神療法には、支持的精神療法・認知行動療法・森田療法・対人関係療法など、様々なものが開発されている。例えば、認知行動療法は、「人間の感情は出来事によって生じるのではなく、その出来事をどう捉えるかによって決まる」という考え方に基づいて、歪んだものの見方を修正して悲観的な思考パターンに陥らないように働きかけることで症状の改善を図るというものである。

最後は、問題解決アプローチである。うつ病の診断にあたって、「その原因が全く考慮されていない」ことは前述のとおりであるが、現実にうつ病の診断を受けた人は幾ばくかの問題を抱えている。例えば、労働問題(長時間労働やハラスメントなど)、経済問題(多重債務や投資詐欺など)、対人問題(相続や離婚など)などである。根源的には、これらの問題を抱えていることがうつ病からの回復を妨げている訳であり、この課題解決アプローチは極めて重要な治療法の一つである。

薬物治療を抑制し、以上のような治療法が選択されていれば良いが、そうでなければ従業員はもとより、企業にも由々しき事態を招いてしまう。このことを当事者は念頭に置いておくべきであろう。
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