ANAの先輩は、一人を「チームで」育てる

ANA流の人財育成とは
ANAが独自で行なっている人財育成の方法に、いつでも帰ってこられる“家族”のような「班」をつくることがある。「班」の中には、班を取り仕切る班長や班長をサポートする副班長(両親)、先輩(兄・姉)、後輩(弟・妹)がいる。まさに、家族のような組織だ。

班員は別の便で仕事をすることも少なくない。そこで、業務を終えて班に帰ってきたときに、自分が消化しきれなかった問題や課題、アドバイスされても理解できなかったことを先輩に相談して消化している。年頃の社員も多いので、プライベートな相談を班の中ですることも多いようだ。

班の中で自分の存在が認められている、と感じることで、社員は「自分は班の一員である」という安心感をもつ。それが帰属意識を生み、仲間のためにがんばろうとする意識が芽生える。そのため、班は人を育てることに非常に有効であり、マインドを醸成する上でも重要な役割を果たしていると言える。

ANAビジネスソリューション株式会社 ヒューマンエラー対策講師 宮崎志郎氏は、整備の現場では30~40代の中堅層の人財が不足していることから、ベテラン世代から若手への技術の伝承に頭を悩ませているという。宮崎氏が問題解決の糸口として見出したのが、定年退職した「スーパー整備士」である。彼らを若手整備士の「祖父」役として再雇用し、技術を伝えてほしいと依頼したのだ。「スーパー整備士たちには、基本・基礎を徹底的に教えてほしいとお願いをしました。若手整備士は、最初のうちは『そんなことは知っている』と反発するものの、徐々に仕事で本当に大事なのは基礎であることがわかってきます。そうやって初めて技術が伝承されたと言えるのです」と宮崎氏は語った。

ANAの先輩は、「褒める・叱る」に心を込める

長年、先輩にしごかれて育ってきた今の管理職世代は、だれかに褒められた経験がほとんどない。そのため、その世代の人間にとっては、どうやって人を褒めたらいいのかがわからないのが現状だ。しかし、ANAでは「褒める」文化を育てるべくさまざまな工夫がなされてきたという。

まず、ANAの社員は、「褒めよう」という意識や、良いところを見つけようという意識を持つように心がけている。そして、だれかの良いところに気づいたときには、「○○さん、笑顔がいいですね」などの“ユーメッセージ”ではなく、「○○さんが××してくれて、とってもうれしいですよ」など、相手がしてくれたことで自分がうれしく思ったことを伝える“アイメッセージ”で褒めることが大切なのだという。

また、特別なことではなく、通路に落ちているゴミを拾う、先輩のファイルの整理を手伝うなどの小さなこと、当たり前のことを褒めることも大切である。ANAでは独自の取り組みとして、褒めるためのツールである「グッドジョブカード」が使われており、褒めた人、褒められた人双方にポイント加算をして、年間の中で表彰する取り組みが行なわれている。

現役CAで、ANAビジネスソリューション株式会社 接遇マナー講師 烏田智子氏は、チーフパーサーとして便に搭乗するときは、誰がどんなことをしているかに目を配り、小さなことでもその人の良いところや行いを見つけて褒めることを心がけているという。一方、叱るときは相手との信頼関係が結果を左右する。叱るほうも叱られるほうも気分は良くないものだが、信頼関係ができていれば、相手に自分の気持ちが伝わりやすい。また、叱った後はスパッと気持ちを切り替えて、お互い気持ちよく別れることも大切だという。

「褒めることも叱ることも難しいことです。それでも、それを繰り返していくことによって、自分自身も相手も成長するきっかけになるので、心を込めて褒める・叱るを実践していただきたいと思います」と烏田氏は語った。

ANAの先輩は、自分自身も「教わる」

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