調査レポート

研究員座談会

2012年1月20日に設立されたHR総研は、2月24日に客員研究員3名を招いて、HR総研が目指す方向性について話し合いました。その要旨をご紹介します。

人事が問題を共有できる開かれた研究所

寺澤今日はみなさまにお集まりいただいたのは、客員研究員の方々から、今の日本のHRの課題や、HR総研が目指すべき方向性について、忌憚のないご意見をいただければと思います。

藤岡HR総研のスタートにあたり、ひとつの問題を提起したいと思います。1980年代の子どもは、100年前の大人に対して「ありがとう」という気持ちを持っていたはずです。100年前の大人たちが、懸命に努力して欧米に追いついてくれたからです。ではこれから100年後の子どもたちは、今の大人に「ありがとう」と言ってくれるでしょうか。いまの日本をそのままにしておくと、とても「ありがとう」と言ってなどもらえそうにない。だから日本に変革が必要です。

寺澤藤岡さんが指摘されている通り、日本企業の将来が危ぶまれます。だから日本のHR全体が組織改革、人材育成のうねりを起こし、行動に移していかねばなりません。さまざまな人事課題について調査し、Webで発信していくことで、そういううねりを作り出す開かれた研究所をHR総研は目指していきたいと思います。

藤岡「開かれた研究所」を目指すとのことですが、いいお手本があります。18世紀にフランスの啓蒙文化を育てたポンパドゥール夫人のサロン。夫人のサロンには芸術家や思想家が集い、新しい文化を創っていきましたが、サロン参加の強制力はなくて、深追いせず閉じ込めない、自由に語る場でした。HR総研も、人事が安心して問題を共有できるサロンのような場になってもらいたいですね。

経営の観点で人事が組織風土を変える

松本グローバル化が人事戦力の大きな課題になっていますが、わたしは人材を鍛える先にグローバル化があるのだと思います。この課題に関しては日本企業と外資企業で評価基準が異なっており、日本企業の基準には具体性と明確性が欠けています。なぜなら、いまの人事部が制度の番人になっていることだと思います。人事制度のイノベーション。これが日本企業に必要です。人事は人事と交流するのではなく、経営や現場ともっと交流していくべきです。

須東ビジネスを基点として人を活用することは経営として当然のことですが、日本は事務的作業、現業的仕事が世界一多い半面、専門性と管理レベルが世界最低水準です。形式ばかりで「本質」を忘れていると感じます。

藤岡成果主義の弊害で、評価制度を設計すればするほどだめになっています。評価制度の判断基準が「整合性」になっており、人事制度を守ることが目的になっています。そして社員のモチベーションが下がり、働くことが詰まらないものになっていることが問題ですね。経営がわかる人事が求められており、経営の観点で組織風土を変えることにコミットしていく必要があると思います。

松本ガバナンスに関しては外資の方が上ですが、日本的DNAのすべてが悪いわけではありません。日本的DNAの良さを活かすとしても、経営トップが日本人である必要はないと思います。

藤岡6月に開催される「HRサミット2012」で外国人のセッションを設け、人事を驚かせるのもいいかもしれませんね。

寺澤それは前向きに検討しましょう。

日本の人事に思いっきり波風を立てる

須東HR総研にはいろんなバックボーンを包括する、求心性のあるメッセージを発信してもらいたいですね。たとえば「強い会社といい会社」というコラムを連載して単行本にまとめ、「HRプロ」のバリューを上げるということも考えられます。

松本アンケート調査で「何を」やるか、やらないかも大事ですけれど、調査報告ではHR総研としてのメッセージと仮説が大事だと思います。

藤岡アンケート調査はありきたりの項目ではなく、人事かドキッとするような質問を投げかけると面白いでしょう。「こんなエグイことを聞くの?」と驚くような質問。例えば、「人事が幸せにしたいのは誰なのか。人事? 働く人? それとも組織風土?」 こういう思いっきりユニークなアンケートをやって、日本の人事に思いっきり波風を立ててもらいたいですね。物議を醸せば考える人が増えてきます。

須東「どこの層を元気にするのか。若い人? 中高年? 女性?」というのも聞きたいですね。

藤岡人事以外の社員にアンケートできると面白い調査ができるんですけれどね。

須東ええ、社員の6割〜7割はHRに不満を持っています。

松本HR総研のメッセージが人事に届いて変革されれば、そんな不満は少なくなりますよ。人事が変わることで他部署の社員がやってみたい仕事になるといいですね。

寺澤いろいろと積極的な発言を頂戴しました。6月の「HRサミット2012」での外国人によるセッション開催というアイデアをいただきました。また人事が幸せに、元気にするのは誰かという本質的な問題も提起していただきました。みなさんの発言をこれからの調査と分析に活かしていきます。このような客員研究員の会合を年に数回開きたいと考えております。
本日はありがとうございました。

藤岡 長道
株式会社ワークハピネス取締役
(株)野村総合研究所(NRI)に入社、大阪、ニューヨークで勤務の後、企業調査部で証券アナリストとして通信産業リサーチ、欧州株リサーチを創業。会社合併直後に秘書室長。クライアントサーバ・システムの普及時期に人材開発部長として研修体系の再構築を推進。野村證券(株)投資情報部長、企業調査部長、野村バブコックアンドブラウン(株)取締役、野村信託銀行取締役、野村證券人材開発部を経て現職。
グローバル化の下で異なる背景を持つ役職員の融合や合意形成、能力開発に参画。ロジカルアプローチに加えて、パーソナリティや情動知能の自己認識に基づくコミュニケーション力向上を重視している。日本証券アナリスト協会検定会員、CIA公認内部監査人、システム監査技術者、日本生産性本部認定キャリアコンサルタント、組織人事監査協会パーソネルアナリスト。
須東 朋広
株式会社インテリジェンスHITO総合研究所 主席研究員
中央大学商学部経営学科、産能大学院経営情報学研究科MBAコース(組織人事コース)卒業。法政大学院政策創造研究科博士課程在学中。専門領域は、グローバル人材マネジメント、人事論、雇用政策、キャリア政策。2003年日本CHO協会の立ち上げに従事し、事務局長を経て、2011年7月1日より現職。著書に『CHO〜最高人事責任者が会社を変える』(東洋経済新報社、2004年共著)、『人事部の新しい時代に向けて』『人事部門の進化;価値の送り手としての人事部門への転換』(産業能率大学紀要、共著)などがある。学会発表や人材関連雑誌など寄稿多数。
松本 利明
HRストラテジー代表 株式会社マネジメントサービスセンター エクゼ クティブアドバイザー
PwC、マーサー・ジャパン、アクセンチュア経営コンサルティング本部プリンシパル等を経て現職。外資系・日系の大手から中堅企業までの人材マネジメント改革に従事。19年間のコンサルティング経験を通しクライアント数は300社以上、860以上のプロジェクトに関わる。日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員。
代表的な著作は『M&Aを成功させる組織・人事マネジメント』(日本経済新聞社2007年)、寄稿・取材は日経メディカル、プレジデント、労政時報をはじめ多数。その他講演多数。現在東洋経済オンラインにて『グローバル人事の「目」』を連載中。