ストレスチェックを実施していて痛感するのが、同じような仕事をしている職場でも、働いている人のストレス反応が全く違うということだ。また、明らかに忙しいのに休職者がいない職場と、明らかにそれほど忙しくないのに休職者が続出する職場がある。このことは人事であれば、大部分の方がご理解いただけると思う。こうしたことはなぜ起きるのかと考え続けてきたが、休職者が少ない職場には、ある一つの共通点があることに気が付いた。
休職者が少ない職場の共通点とは?

「割れ窓理論」という考え方

休職者が少ない職場の共通点とは、オフィス内の整理整頓や掃除がきちんと行き届いているということである。書類や資料が棚にきちんと並び、備品も必要なものがいつでも取り出せるように然るべき場所に収まっている。加えて、床にゴミ一つ落ちておらず、全体的に清潔感のある雰囲気が漂っている。そんな職場では不思議と休職者が少ないようなのである。

ここから想起されるのは、心理学における「割れ窓理論」(ブロークンウインドウ理論)という考え方だ。これはアメリカの犯罪学者ジェームズ・ウィルソンとジョージ・ケリングが発案した理論で、建物の窓が壊れたまま放置すると、割れた窓がその建物に対し誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓も壊されてしまう、という考えである。つまり、乱れた状態が放置されていると、そこにいる人や訪れた人は、「この場所は防犯に配慮していない」と感じ、「犯罪を起こしても大丈夫ではないか」と考える。結果、犯罪の発生件数が増えてしまうということだ。

これを逆手に取り、ディズニーランドやディズニーシーでは、パーク内のささいな傷をおろそかにせず、ペンキの塗り直しや破損箇所の修繕を頻繁に行うことで、従業員だけでなく、来客のマナーも向上させることに成功している。きれいな環境が保たれていると、人は自然と、「ここはきれいに保たなくてはいけないのだな」と考えるものなのだ。

かつて業績の悪化していたアップル社にスティーブ・ジョブズが復帰した時にも、この「割れ窓理論」を掲げて、会社改革が行われたそうだ。ジョブス氏に「まるで学級崩壊のような会社崩壊だった」と言わしめた悲惨な状況を救うには、「職場の環境を徹底的に変える」ことが必要だった。当時のアップルの会社改革の第一歩は、清潔感のないオフィスの改善だったと言われている。

雑然としたオフィスでは人間関係まで悪くなる

整理整頓や掃除ができていないオフィスを放置しておくと、「何がどこにあるのかわからず、仕事を進めにくい」「大事な情報が見つからない」「担当者が変わると、何がどこにあるかわからなくなる」「埃がたまって空気が悪い」といった環境に陥る。これでは仕事がスムーズに進まず、従業員のイライラが募り、人間関係までぎくしゃくすることがある。

また、清潔感がなく、乱雑な環境下では、仕事の完成度に甘さが表れ、何かにつけて「これでいいや」と許容してしまう空気が出てきやすく、果ては、不正がはびこりやすくなるとも言われている。

乱れたデスク、必要な資料をすぐに見つけられない棚、汚れた床、溜まった埃、それらは職場環境が「割れ窓」となっているメッセージである。あなたの職場はこのような割れ窓状態になっていないだろうか? 社員の士気、ひいては業績まで悪化させてしまう大事なサインを、見過ごしてはいないだろうか?

オフィス内の整理整頓や掃除は、比較的簡単に取り掛かれるはず。しかしこれこそ、従業員のメンタルヘルス対策として大きな効果が期待できる第一歩である。まずは一歩、できるところから取り組んでいってほしい。

koCoro健康経営株式会社 代表取締役
Office CPSR 臨床心理士・社会保険労務士事務所 代 表
一般社団法人 ウエルフルジャパン 理 事
産業能率大学兼任講師
植田 健太

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