『製品の品質データを改ざん、社内調査でも報告せず隠ぺいし……』
『○○省の決裁文書が改ざんされ……』
『市の教育委員会がいじめに関するメモの隠ぺいを指示し……』
といったように、「改ざん」や「隠ぺい」といった言葉を耳にしない日はないかもしれない。このコラムをお読みくださっている皆様も、さぞうんざりされておられることだろう。しかし、これらの事件は決して他人事ではない。どの職場にも潜んでいる問題である。そう、あなたがお勤めの職場にも……。今回は、労務管理の現場で起こりがちな、改ざん・隠ぺいにはどのようなものがあり、それらにどのようなリスクがあるのか考えていこう。
あなたの会社は大丈夫?職場に潜む改ざん・隠ぺいと労務リスク

①就業規則の隠ぺい
就業規則は、社内の見やすい場所に掲示するなどして、労働者に周知させなければならない(労働基準法106条)。これに違反すると、30万円以下の罰金である(同120条)。また、この周知がなされていない就業規則は、労働契約の内容とはならない(労働契約法7条)。

つまり、就業規則を周知していないと(≒隠ぺいすると)、法令違反になるリスクと、労働者の方々に会社のルールに従ってもらえなくなるという社内秩序崩壊リスクの、2つのリスクを抱えることになる。「就業規則はどこですか?」と聞いたら社長の机の引き出しから出てきた、というケースは最近では少なくなってきているように思えるが……、あなたの職場では見やすい場所に就業規則があるだろうか。


②年次有給休暇の隠ぺい
「会社は年次有給休暇(以下、年休)を隠している!」といったように、労働者の方から詰め寄られ、会社の担当者の方と対応に奔走したという出来事が実際にあった。前述の就業規則とは異なり、年休について、例えばあと何日あるかといった情報を、労働者に周知する法的義務は無い。その会社としても別段隠していたわけではなかったのだが、積極的に知らせなかったことで、労働者の方から隠ぺいしたと疑われてしまったようである。

結局、そのケースでは、毎月の給与明細書に各人の年休の取得可能日数を記載し、さらに、消滅時効についても事前通知するようにした。以来、同様のトラブルは起こらなくなり、むしろ定着率の改善に繋がった。良好な労使関係を構築するためには、法令上の定めを超えて、積極的に情報をオープンにしていく姿勢が重要かもしれない。


③労災の隠ぺい
仕事中に怪我等をしたら、労災保険で治療する必要があり、さらに4日以上の休業の場合は所轄の労働基準監督署(以下、労基署)に報告書を提出しなければならない。これらに違反すると、労災隠しとして、犯罪になる。このとき、法令順守はもちろんであるが、何より重要なことは労災の発生状況を正しく把握し、再発防止に取り組むことである。労災事故を隠ぺいすることは、同様の事故等を将来に向かって繰り返すというリスクも抱えることになる。それは労働者の方の生命や健康を危険にさらし続けるということであり、会社として決してしてはならないことであろう。


④労基署の調査資料の改ざん
いざ、「○○調査の実施について」などと書かれた通知が労基署から届いたら、何も悪いことをしていなくても、不安な気持ちになってしまうものである。当事務所にも「どうしたらよいか」といったご相談を頂くことがあるが、その際のアドバイスは次の一つだけである。「改ざんや隠ぺいはしないでください」……これに尽きる。

幸か不幸か、今のご時世、「モリカケになりますから……」と言うと大抵の場合は納得してもらえる。臨検監督の目的は指導であり、企業にとっては改善のチャンスでもある。そのチャンスを逃すべきではない。


⑤残業隠し
「残業をしても報告しない」「休みの日に自宅で仕事をする」労働者側のこのようなケースも散見する。一見、努力家タイプで、称賛されるべきことのようにも思えるが、これではいつまでたっても正確な労働時間を会社が把握することができず、業務改善が見込めない。まさに、今推進されている働き方改革に、逆行する行為と言えよう。働き方改革には会社側だけでなく、労働者個人の意識改革も欠かせない。


「悪事千里を走る」という言葉があるように、改ざんや隠ぺいなどの行為は、事態をかえって混乱させる上、多くの人が嫌な思いをし、信頼をも失ってしまうことになる。皆が胸を張って勤めることのできる、嘘や隠し事のない職場づくりを目指したいものである。


出岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士 出岡 健太郎

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