RPA(Robotic Process Automation)が、大きな注目を浴びている。これは今までホワイトカラー社員が行っていた事務業務等を、「デジタルレイバー」とも呼ばれるロボットにより、自動化するものである。大手企業を中心に次々と導入が進められているが、今回は人事労務分野での活用方法について少し考えてみたい。
RPAが人事労務業務に及ぼすインパクト ~「デジタルレイバー」が人事部で活躍するとき~

ホワイトカラーのロボット=「デジタルレイバー」を生み出すRPAとは。

2016年春、大手生命保険会社「日本生命」の銀行窓販事業部門のとある部署で、少し変わった「入社式」が開かれた。入社したのは、「日生ロボ美ちゃん」。担当業務は、請求書データのシステム入力作業だ。

これまで、契約者から郵送されてくる保険請求書の業務システムへの入力は、担当社員(人間)が手入力で行っていた。その仕事が「ロボ美ちゃん」の入社によって、劇的に変わった。

まず、担当社員(人間)が証券記号番号のバーコードをスキャンする。するとロボ美ちゃんは証券記号番号を認識し、それを基に社内の他のシステムから、必要なデータを収集し、業務システムに次々と入力していく。そのスピードは、同じ作業を人間が行うよりも5~10倍速いと言われている。

この「ロボ美ちゃん」のような「デジタルレイバー」に、定型的な事務業務を行わせることができるのが、いわゆる「RPA」(Robotic Process Automation)だ。

RPAは、人間がパソコン上で行う事務業務の処理手順を覚えさせておけば、様々なソフトウェアや業務システム、ブラウザやクラウドを、横断的かつ自動的に処理を行ってくれる。

工場など、ブルーカラーの業務においては、これまでもロボットによる自動化が進んでいた。ホワイトカラーの業務においても、ITによる効率化は進んではいたものの、業務のIT化が進めば進むほど、使うソフト、システム、アプリケーションの類は増えていき、それに伴い横断的に行う手入力作業まで増えてしまい、結局、作業に忙殺されている職場も少なくない。

そんななか、現在関心が高まっているのが「働き方改革」である。RPAは、この「働き方改革」に大きなインパクトを与えるであろう。

実際に、昨年から今年にかけて、大手企業でのRPAの導入、試験導入が増えてきている。先日は、ソフトバンクのRPA事業参入がニュースとなった。

RPAは、比較的低コストで導入できるのもメリットである。2018年は、様々な企業のRPAへ参入、各分野への導入が、大きなムーブメントを起こすであろうと予想される。

人事労務分野におけるRPA~2018年は人事労務革命の年に?!~

では、人事労務分野においてRPAはどのようなインパクトを与えるであろうか。

考えられる例としては、採用業務である。応募者の情報をPC上でデータ化し、採用試験についての連絡を行い、採用試験の結果(採用、不採用)を応募者に連絡する。以前から採用管理ソフト等もあるが、それらを活用しても、採用業務には、定型的かつ煩雑な手作業が多いのが実情だ。

もう一つ例を挙げるとすれば、従業員の勤怠管理と給与計算である。勤怠管理も給与計算も、すでにそれぞれ様々なシステムが存在し、多くの企業でそれらを活用しているであろう。しかし、社員のマスターデータを作成し、それを勤怠管理や給与計算のシステムに入れ、更に勤怠管理データと給与システムに連携させれば、給与システムが計算した計算結果を、給与明細書としてプリントアウトし、従業員に配布することが可能だ。(あるいは、クラウド上のWEB明細としてアップしてもよいだろう。)同様にここへ社会保険料の改定通知や、昇給通知なども加えることも可能だ。

さらには、過重労働の有無の確認や、勤怠状況によるモチベーションの把握も可能となり、従業員毎にその能力や評価に応じた給与の決定と見直しなどが、より正確に、よりスムーズになるうえ、人間の手間はぐっと省力化される。

本来、人事労務業務においては、もっと重要な目的がある。それは採用業務における、自社に適切な人材の選別と登用だ。

これまで、特に人事労務担当者を数多く配置できない中小企業では、定型的かつ煩雑な事務作業に忙殺され、本来の重要な目的を遂行できていないことも多かったが、RPAはこれらの問題を一気に解決する可能性を持っているのだ。

ここまで読まれた方のなかには、RPAは比較的低コストであるとはいえ、大企業でしか導入する効果は少ないであろう、と考える人もいるかもしれない。しかしながら、人事労務作業は、企業毎に部分的な特色があったとしても、基本的には規模の大小や業種にかかわらず、同じ内容の業務が多い。

定型的な自動業務を、パート社員1人分の人件費ほどで行ってくれるサービスがあるとすれば、どうであろう。

2018年以降、そのようなサービスの提供も次々と出てくることが予想される。そうなると、中小企業での導入も、現実味を帯びてくる。

私は社会保険労務士として、中小企業の給与計算などの定型業務を請け負ってもいる。巷ではこのようなRPAの導入が進めば、私達、社会保険労務士の業務も無くなるのではないか?との声も聞かれる。だが逆に、RPAの導入支援により、定型的で煩雑な作業が少なくなれば、人事労務業務担当者を本来の人事労務業務において活かしていくための、タレントマネジメントのサポートができる環境が整うのではないか、とも考えられる。

2018年は、人事労務業務の大きな転換点になるかもしれない。


オフィス・ライフワークコンサルティング
社会保険労務士・CDA 飯塚篤司

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