「ジョブローテーション」と聞くと、社員の能力開発として実施する仕組みだと捉えるイメージが強く、もはや古い手法だと感じる方もいるだろう。ジョブローテーションを効果的に実施することは、一人が受け持つ仕事の幅を広げることに繋がる。一人が一つの仕事を担当するOne job onemanからSome job onemanへの転換が可能となる。
これからの時代こそジョブローテーションの活用を!

 だから、もちろん社員の能力開発という側面があることを否定しない。しかし、社員の能力開発だけに留まるものでもない。筆者は、これからの時代こそジョブローテーションの積極的な活用が求められると考えている。
 というのも、先日こんなニュースが飛び込んできたからだ。日本人口が5年連続して減少したという記事である。総務省によれば、15~64歳の生産年齢人口は調査開始以来の最小値記録を更新したとのことだ。人口問題は、今日明日に解決できるほど簡単な問題ではない。改善には長い年月が必要である。このような課題に直面した今日、我々の働き方も変化せざるを得ない。

 しかし、依然として日本は仕事の質(内容)よりも、仕事の量(時間)に重きを置く傾向がある。その最たる例が育児休業明けにみられる女性の就労であろう。一般的に職場復帰後は、短時間勤務制度を利用することが多い。8時間労働と6時間労働、どちらが多く仕事をしたか?という視点で人事評価が下されてしまい女性の労働意欲を削ぐ結果となる。とかく育児に関しては女性だけの問題として無理矢理片づけられるかもしれないが、介護問題についてもそうは言っていられない。労働市場から撤退を続ける団塊世代が後期高齢者となる75歳に突入するまであと10年も残されていない。
 また、この団塊ジュニア世代は一人っ子に未婚者も多く、介護をシェアできる相手がいないことが多い。当然のことながら介護施設に空きがあるはずもない。日中はデイケア施設等へ預けるにしても、夕方には迎えに行かなければならないのである。このように働き手人口が減る一方、環境的側面からは否応なく働き方にも制限が加えられはじめている。これからの時代こそ仕事の量(時間)ではなく、質(内容)を重視し、各々の単位時間当たりの生産性を高めていかなければならないのである。

 ここで話を本題に戻そう。
このような時代背景にあるからこそ、ジョブローテーションを有効利用すべきなのだ。 職務ごとのすみ分けが明確にされていないわが国においては、仕事が属人化しやすい傾向にある。つまり同一部署内でも、ある仕事は特定の者が担当し、他の者は担当していないから詳細が把握できず担うことが困難となる。だから、担当者が育児や介護で時短措置を利用したり、急に休んだりすると、とたんに部署内の業務が滞ってしまうのである。その者にしかわからないから、その者一人が頑張って長時間労働(量)で解決しようとする。この結末は、育児や介護と仕事の両立が困難となって離職へと繋がってしまう。過大な負荷で精神疾患から休職に陥る者もいるだろう。これらは企業側からすれば貴重な人材の流失だと言える。

 したがって、このような課題解決こそ、仕事をローテーションし誰がどの仕事を担当しても担えるようにしておくことが肝要だ。いまある仕事をすべて洗い出し、一連の流れを細かく細分化する必要がある。そのうえで、半年から1年の定期的なサイクルのなかで担当する仕事の入れ替えを実施し、各人別にどこからどこまでの仕事が担えるのか、表などを作成して視覚化しておくと良い。すなわち、育児や介護によって誰かが穴をあけるような突発的事象に対しても職場が混沌を生み出すことはなくなり、誰がどの仕事を担当しても処理することができる組織へと発展することができる。
 また副次的な効果もある。第1に、仕事を分け合うことができるということだ。仕事を細分化することで、一人が丸抱えしていた大きな仕事は、誰が担当しても処理できるようになっていることが前提であるから、複数人でシェアが可能となる。まさに「分業」と「協業」の双方を達成することができる。第2に、細分化によって作業工程や作業組織の見直しを図ることができるから、必然的に仕事のムダやムリ・ムラの改善にも繋がり生産性向上を志向することができる。

 ところで、ジョブローテーションの話に持ち込むと製造業等の話であって、ホワイトカラーの事務職層には馴染まないとする声が多い。しかし、パソコンやタブレット等の技術が著しい現在、使用するフォーマットの統一や社内システムの改善等によって、仕事を細分化しローテーションを組むことは十分に可能である。今まさに我々は働き方を変えていかねばならない。働くことに時間的制約がつきまとう現代において、貴重な人材流出を防止する手法として是非ジョブローテーションを活用されることをおススメしたい。


SRC・総合労務センター 特定社会保険労務士 佐藤 正欣

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