今回は2013年度新卒採用についてリポートしたい。ご存じのように、2013年採用より大手就職ナビのオープンが10月1日から12月1日に後ろ倒しになった。これは大きな変化である。時間軸が変われば、質が変わることもあるが、採用活動・就職活動の質や方法は変わるのか?

早期化、長期化とともに「就職難学生」が社会問題化

少しさかのぼって、採活・就活の変化を考えてみよう。00年代に入って、就活・採活は根本から変わった。便利な就職ナビが採活・就活の主要ツールになり、採用スケジュールは早期化し、かつ長期化した。早期化も長期化も一気にそうなったわけではない。少しずつ早期化と長期化が起こった。12年卒までの就職戦線は、10月の就職ナビオープンからスタートと言われるが、この数年は6月のサマーインターンシップ案内イベントや就職ナビのプレオープン(インターンシップ情報中心)から実質的な就活が始まっている。
 インターンシップは夏季休暇を利用して開催されるものが多いが、学生の参加する多くは1Dayインターンシップで説明会の色彩が強い。
 そのような採活・就活に対する批判が高まったのは、08年9月のリーマンショック以降のことだ。雇用環境が悪化してメディアの関心が高まり、09年卒学生の内定切りが報道され、新卒採用がクローズアップされるようになった。
 そして10年卒、11年卒と内定率は下がり続け、「就職難学生」が社会問題化したのだ。
 社会問題化した「就職難民学生」問題に関する視点はいろいろある。「ゆとり教育による学力低下」という見方もあれば、「大学全入時代」というユニバーサル化を指摘することもできる。無試験入学と勉強しなくても卒業できる大学の慣行が問題と指摘することもできる。
 一方で中小中堅企業の求人倍率は、つねに1倍以上あるのだから、企業と学生のミスマッチが問題であると主張することもできる。
 しかし問題を指摘しても、早期化と長期化は放置されたままだ。そこで、就活のスタートが実質的に大手企業のプレエントリー開始なら、これを遅らせようという動きが具体化した。

経済団体の新卒採用是正案

新卒採用の早期化に異議を唱え、是正案を提示したのは日本貿易会(商社団体)だった(10年11月17日)。広報活動の開始を2~3月期、選考は8月ごろ、内定は10月1日以降とするもの。この是正は13年卒に限らず「できるだけ早期に実施」とした。
 この是正案に対し、日本経団連は11年1月12日に自社の採用サイトや就職ナビからのプレエントリー受付を12月1日以降と2カ月遅らせ、選考は現行どおり4月1日以降とした。インターンシップについても12月1日より前に実施する採用型(短期間のセミナー型)インターンシップを認めない方針。実施は13年卒からとした。
 しかし経済同友会は、11年1月21日に意見を発表し、広報活動の開始を3年の3月以降、選考活動の開始を4年の8月以降とした。ただし経済同友会は見直し時期について14年卒としている。

日本経団連「倫理憲章」の改訂ポイント

これらの動きを受けて、日本経団連は「倫理憲章」を11年3月15日に改訂した。ポイントを挙げてみよう。
○学校教育への配慮
○早期化自粛
・インターネットなど不特定多数向けの情報配信以外の広報活動は、卒業・修了学年前年の12月1日以降に。学内セミナーも自粛。
・選考活動は卒業・修了学年の4月1日以降。
・正式内定は10月1日以降。誓約書要求などは一切しない。
○インターンシップ
・採用とは一切関係ないことを明確にする。1~2年生にも実施が望ましい。
・企業広報としてのプログラムはインターンシップと呼ばない。
・5日以上の期間、学生の職場への受け入れがインターンシップと呼べる条件。
 これらの動きを受けて、大手就職情報会社で組織される業界団体は、就職ナビのプレエントリー受付、合同企業就職イベントの開催を12月1日以降にすることを決定した。
 またこの数年に採活・就活の定番メニューになっていたインターンシップの合同説明会も、ほとんどの就職情報会社が行わないことになった。
 これは大きな変化であり、例年なら春から動き出す採用ツールの制作などの動きはやや鈍くなっている。

「倫理憲章」改訂に対するさまざまな意見

日本経団連の「倫理憲章」改訂によって、新卒採用は正常化に向けて踏み出したように見えるが、それほど単純ではなく、賛否は分かれる。以下にHRプロが行った企業と大学調査からこの問題に対するコメントを紹介しよう。
<企業コメント>
・長期化早期化是正の観点から妥当と考える。
・より大手志向が強まる。
・学生側が準備不足になる。時期が集中するので大変になると思う。
・学生に接触する機会が少なくなり、大手に集中して内定率が悪くなる。
・広報活動を4月開始にして、選考を秋以降にするなどの大幅な変更でないと意味がないと思う。
・規則・規制を作ることで現在の就活問題に対応しようとする姿勢は、はっきり言ってナンセンスだと思う。
・採用が長期化することに対する対応の第一歩である。効果を産学双方で継続討議するべきである。
<大学コメント>
・学業の圧迫の観点からは歓迎であるが、短縮される分学生の就職意識を早めに喚起する必要がある。
・学内のセミナー時期が短くなり、大手企業は参加しなくなる不安がある。
・期間が短縮したことにより、スケジュールが過密となるためよけいに学業への圧迫となるのではないか。
・強制力を持たない倫理憲章の内容が変わっても、表面上の採用活動が自粛されるだけで、特に変わらないと思われる。
・採用広報の開始が12月以降であることは問題ないが、選考時期も同様に2カ月繰り下げてもらいたい。
・中堅大学及び、中小企業にとっては、選考の時期の短縮は不利になると思う。
・年々早期化・長期化している就職活動を見直すいい機会だと思う。
・良い傾向だと思うが、リクルーター制度を取る企業がおそらく増え、就職活動がより複雑化することが懸念される。

1Dayインターンシップが激減、 5日以上のインターンシップも減る可能性

12年卒採用までは、6月のインターンシップの案内ナビと夏季1Dayインターンシップが早期化の象徴であり、日本経団連も厳しく規制している。
 倫理憲章が厳格化したので、採用広報的な夏季1Dayインターンシップは激減すると考えられる。早期化是正の観点からはよいことのようだが、参加学生は「働く意味に触れた」「社会人と話す良い機会だった」と感想を述べており、一定のキャリア教育の効果はあった。その気づきの機会がなくなるので、学生の就業意識の形成が遅れることも考えられる。
 採用と関係ない5日以上のインターンシップに関しては微増の可能性もある。しかし、12年卒採用の選考が遅れているので、13年卒夏季インターンシップの準備が間に合わない企業が多くなるのではないかと思われる。

一極集中の広報開始と選考開始

第71回 2013年度新卒採用予測リポート 企業と大学の問題意識
図表1:2013年卒採用の「広報開始時期」

 12年卒採用は東日本大震災によって分散化したが、13年卒採用では広報開始時期も選考開始時期も集中する。たぶんこれまでの採用で最も集中の度合いが激しいのではないかと思われる。日本経団連の倫理憲章改訂の主張どおりに13年採用は進むだろう。
 広報開始時期は、就職ナビがオープンする12月に後ろ倒しになった。6割近い企業が12月に広報を開始する。就職ナビが10月オープンだった12年卒採用の開始時期は、当然ながら10月が最も多いが、10月より前にスタートした企業も2割以上あった。13年卒採用でも11月以前にスタートする企業があるが、1割台にとどまっている。
第71回 2013年度新卒採用予測リポート 企業と大学の問題意識
図表2:2013年卒採用の「選考開始時期」

 選考の開始は、4月からが最多。例年ならもう少しバラツキがあり、3月に内定を出す企業も多かったが、今年は4月が主戦場になりそうだ。また5月以降とする企業がかなり少ないことも特徴といえる。
 ただし実際のスケジュールは少し違った展開を見せるだろう。大手企業は、12月スタート、4月初からの選考というスケジュールで進むだろう。しかし12月から4月まではかなり短い。大手企業の動きを見ながら、4月後半から選考を開始する企業が多いのではないかと思われる。
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