HRサミット2014”ものづくり”から”ものこと&ひとづくり”へ

目次

Open Innovation時代の企業のGlobal人材戦略

東京理科大学大学院
イノベーション研究科 教授
田中芳夫氏

 Open Innovationの必要性が叫ばれて10年――。この間にICTはすさまじい速度で進歩普及し、旧来のビジネスモデル、すなわち品質・コスト・大量供給という仕組みから抜け出た、新たな価値提案をする企業が世界で台頭してきています。これに対して日本の産業は、ICTによるグローバルなビジネス展開の波に乗りきれておらず、いまだに他国が切り拓くICTインフラを部分的に享受する“ものづくり”に留まっているのが現状です。世界ではOpen Innovationも従来の形からOpen Innovation2.0へと進化しつつ ある中、日本は果たしてどのような戦略を取るべきなのか。そしてどのような人材を育てる必要があるのでしょうか。東京理科大学大学院・田中芳夫教授に解説いただきました。

なぜ日本ではイノベーションが生まれないのか

近年ようやく日本でもOpen Innovationの必要性が語られるようになりましたが、現状はまだまだ浸透しておらず、日本発のイノベーションはほとんどないに等しいと言っても過言ではありません。ではなぜ日本においてイノベーションは生まれづらいのでしょうか。
理由は、ダイバーシティ(多様性)に乏しく、単一の価値観に基づいたモノカルチャーな社会が占める割合が高いからだと考えられます。学校を卒業後の 22 60 歳の日本人男性によって、社会のさまざまな仕組みが定められ、システムが設計され、製品が作られ、売り方も生み出され、さらに自前で製造され、販売されるというのが、日本社会です。多様な人材や世界の知恵を集めるといった発想がない。言いかえれば、挑戦者・異分子の存在を絶対に許しません。異分子でないと存在価値がない外資系企業とは正反対のことです。Open Innovationを進めていくうえでも、日本は今後、挑戦者・異分子の存在をいかに育てるかが大きな課題となります。

アメリカのイノベーション戦略~パルミザーノ・レポート~

「イノベート・アメリカ(Innovate America)」は、 2004年にアメリカの産業界、学界、政府、労働界を代表する 400名以上のリーダーたちが15ヶ月かけて作成した国家イノベーション戦略の報告書で、 委員長のI B M社長の名前をとって「パルミザーノ・レポート」とも呼ばれています。今後 25 年間のアメリカの競争力強化のために、何に重点を置くべきか。ここで提案されていること――それは「人材」、「投資」、「インフラ」の3点です。
①人材養成・確保
多様な創造力のある高度な技術知識を有し、訓練を積んだ人材を輩出する国家イノベーション教育戦略の策定。次世代イノベーターの養成教育の強化。グローバル経済で競争力のある労働者養成の教育など。
②イノベーションのための投資
研究開発投資の増強、リスクテイキングと起業家活動の強化、長期的な研究開発戦略の支援などのイノベーションの金融的側面について提言。
③インフラ整備
イノベーターを支援する社会基盤インフラと政策インフラについて提言。情報、交通、医療、エネルギーのネットワークと知的財産保護、企業規制、イノベーションのステークホルダー間の協力のあり方など。

“ものづくり”から“もの・ことづくり”へ

 これまで日本には、「良いものを早く安く作れば、お客さんは買ってくれる」という前提がありました。こうした姿勢そのものは正しいと 思います。しかしものづくりは機械化によって、誰でも真似できるようになりました。同じものが、世界のさまざまな場所や企業で実現できる状況に変わってきているのです。よって品質や価格、納期だけを競うようなものづくりの価値観にこれ以上固執しても、成果を得にくいでしょう。これからの時代は、ものだけでなく、そこに新しい仕組みという付加価値をつけた人が勝ちます。単に“もの”だけを作るのでなく、“もの・こと”を作るという発想です。そしてそのためには、やはり多様な人材が必要になります。これを踏まえ、2010年に公益社団法人経済 同友 会が「もの・ことづくり委員会」を発足。世界でビジネスに勝つための“ことづくり”と、そのための人材育成(“ひとづくり”)に関する提言をまとめました。

ことづくりとは?

 “ことづくり”とは、これまでの製造者視点での“ものづくり(ビジネスの入口論とは反対のマーケット側からの視点でものづくり・品質づくり・ビジネス(シナリオ・戦略・企画・デザイン)づくりを見直す、ビジネスの出口論と言うべき概念です。

“もの・ことづくり”に求められる要素

 もの・ことづくり”に求められる要素としては、“ものづくり”人材(ディレクター型)の要素と“ことづくり”人材(プロデューサー型)の要素があり、各人材の素養・タイプを見極め、強みを活かした育成・活用を考えるべきです。“もの・ことづくり”には以下の3つの基本要素があります。
・世の中の当たり前のことにも疑問を持ち、社会をもっと良くしたいという思い
・情熱と粘り強さ
・チャレンジ心や旺盛な好奇心
【“ものづくり”人材の3要素】
・完成度(品質・コスト・性能)を高めることへのこだわり
・設計情報の流し方のうまさ
・解決情報の提供のうまさ
【“ことづくり”人材の3要素】
・市場を理解し、顧客経験とビジネスモデルの双方をデザインできる能力
・俯瞰的な視点で市場の変化に対して臨機応変かつスピード感を持った対応ができる能力
・人を巻き込むリーダーシップ

“ことづくり”のための “ひとづくり”

①“ことづくり”と、そのための人材育成の必要性をトップ自ら示す
経営者は、企業の持続的な発展のために世界でのビジネスに勝って利益を確保すると共に、将来への投資として“ことづくり”人材の育成について強くコミットするべきです。
さらに優秀な人材は業務遂行能力が高く、所属する部署が手放さない傾向があります。
よって「“ことづくり”の資質がある人材については、本来の強みを活かした育成・活用をすることが会社にとっての最大の貢献である」との強いメッセージをトップ自らが発信し、社員の意識を変革しなくてはなりません。また、“ことづくり”の人材育成に関する目標を明確にし、社員一丸となって取り組む姿勢を示すことが重要です。

②経営者自ら“もの・ことづくり”に強く関わり、推進する
経営者としては“ものづくり”人材、“ことづくり”人材の両方の考えを理解したうえで“もの・ことづくり”に強く関わり、動機付けを行うなどして積極的に推進し、三位一体となって顧客価値を共創していきます。
経営者としては、自らが“ものづくり”人材要素、“ことづくり”人材要素を併せ持っているのが最も望ましいですが、各々の要素を持った複数のトップが補い合いながら経営を行うことも考えられます。

③求める人材像と育成方針を明示する
【人材像】
求める人材像と育成方法は、時流に合わせて変わるべきトップの意思と、各社のDNAとしての企業理念を強く反映したものとし、各社固有の人材像を作り上げるべき。
【育成方針】
(1)組織風土の改革を行い、“ことづくり”人材が育ちやすい環境を整える
・“ことづくり“の重要性を認識し、その基本的方針を仕組みにまで落とし込むことが重要
・何かに挑戦することのリスクより、何もしないことによって生じるリスクの方が大きいことを認識させる
・多様化・融合・挑戦の仕組みをつくる
(2)資質のある人材を選出する仕組みをつくる
・資質・特性に関する評価項目についてもできるかぎり定量化の努力を行う
(3)資質のある人材に「型」の徹底的な教育を行い、能力の底上げを行う
・基礎的な知識を幅広く身につけ、「型(フレームワーク)」を徹底的に学ぶ
・学んだ「型(フレームワーク)」は、実践を通じて無意識に活用できるレベルまで高める

Open Innovation時代に求められる人材像

 前段でもお話したように、挑戦者・異分子をいかにして育てられるかが今後の日本企業の課題となります。では具体的にどのような人材が求められるのかというと、まず第1に、グローバルに対応できる人。2番目に、自分で考えられるイノベーティブな人。
3番目に、人種や性別、国籍、年齢、性的志向…などの偏見がない人。これはイノベーションの源となる「ダイバーシティ」の観点からも重要なことです。そして何より必要なのがシステム思考のできる人。従来はIT系の人材にそういったタイプが多かったですが、今後は業種・職種問わず、システム思考のできる人材が求められてくるでしょう。
日本の企業、そして人事の皆さんには、ぜひこういう人材を育てる仕組みを作っていただきたいと思います。

講師紹介

東京理科大学大学院
イノベーション研究科 教授
田中 芳夫氏

1973年東京理科大学工学部電気工学科卒業、同年、住友重機械工業(株)に入社 ,Online system設計などのシステム開発に従事、 1980 年に日本IBMの研究開発製造部門に入社。
世界向けの製品・サービス・ソフトウエアの開発、マネージメント、および 副社長補佐。
1998 年にIBM Corporation R&D Asia Pacific Technical Operation担当。2001年研究開発部門 企画・事業開発担当理事。2005年マイクロソフトCTO 就任。 2007年(独)参与、青山学院大学大学院ビジネス法務客員教授。2009年東京理科大学大学院教授 、国際大学GLOCOM上席客員研究員 日本工学アカデミー会員

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