「働き方改革とHRTech 最前線」講演録 最新のHR テックとその応用

目次

最新のHR テックとその応用~ここまできたAIとビッグデータ~

サムトータル・システムズ株式会社 代表取締役社長 平野 正信 氏

世界的に生産年齢人口が低下していく中、企業は今いる社員をうまく活用しながら生産性を上げていかなければなりません。そこで重要な役割を果たすのがHRテクノロジー。AI+ビッグデータをHRシステムに応用することで、より強い組織を作ることができます。今回はサムトータル・システムズ代表取締役社長の平野正信氏にご登壇いただき、最新のHR テクノロジー事情や、その応用について解説いただきました。

【参考】「働き方改革とHRTech 最前線」講演録 働き方改革とHR Tech の活用
【参考】「働き方改革とHRTech 最前線」講演録 RPAがもたらす生産性向上
【参考】「AI(人工知能)の関心と人事業務への導入に関するアンケート調査」結果報告

日本の現状~人口減少・生産年齢人口・GDP

日本の人口は現在のピークを境に減少し続け、2030年には11,662万人、2060年には8,674万人、そして2100年には5,000万人と、明治末期頃の人口規模になると予想されています。

一方、生産年齢人口の割合も2060年頃まで低下し、50%台となる見込みです。ただしこれは、他の主要国並みの水準でもあり、世界的な傾向と言えます。つまり日本だけでなく世界的に労働力の確保が難しくなり、先進国同士で人の取り合いになるわけです。移民を受け入れるかどうかという議論もありますが、移民自体も取り合いになりますし、移民を受け入れれば解決する、というほど単純な問題でもありません。

続いてGDPの推移を見てみましょう。現在のGDPランキングは、トップがアメリカで、2位は中国、3位は日本、4位はドイツ、5位はイギリスとなっています。アメリカはコンスタントに成長し、世界経済をリード。中国の伸長も著しく、勢いが顕著です。一方で、日本はほぼ横這い。3位だから上々だと思われるかもしれませんが、問題は一人当たりのGDPで、OECD34ヵ国中20位にまで下がっています。ドイツ、イギリス、フランスはGDPでは日本より少ないですが、一人当たりのGDPでは、日本より上にランクされている状況です。

ですからこれからは、社員数を増やして対処するのではなく、今いる社員を大切にして、ひとり一人の生産性を向上させることが重要になってきます。

これからのHR テクノロジーの基本ビッグデータの歴史

ITテクノロジーの新たな潮流の中でも、特に「ビッグデータ」と「AI(人工知能)」は、非常に重要なキーワードです。この2つは、これからの人事システム、教育・人材育成システムで確実に採用されていくものだと思いますが、では実際はどういうものなのでしょうか。
ビッグデータという言葉自体は最近のものですが、それ以前から同じような理論は存在していました。古くは19世紀末に提唱された数学理論「集合論」。また、コンピュータの世界では、整理された情報の集まり、つまり、データを蓄積でき、検索ができる情報の集まりであるデータベース(DB)として定着しました。1970年に論文発表されたRDB(Relational Database:関係データベース)は、現在の基幹系システムにおけるデータベース・テクノロジーの基本となっています。

現在の企業向けITシステムは、ほぼ例外なくRDBを中心にシステムが構築されています。 データの集まりを効果的に管理するため、データ構造と呼ぶ形式をあらかじめ定めておくのがRDBの特徴です。このメリットとしては、データの一貫性を保証できる、複雑な条件での検索が可能、また、この方法で実績を積み上げた結果、多くのノウハウが蓄積された…などが挙げられます。

しかし一方で、欠点もあります。例えば、データ量が多くなると制御が複雑になる、 異なるデータ構造を持つデータを大量に持つと管理が大変になる、関係性のないデータを蓄積しても、DBとしてのメリットが生まれない…などが挙げられ、実際、インターネットには向きませんでした。

これからのHR テクノロジーの基本インターネットの歴史

そもそもビッグデータが出てきたきっかけは、インターネットの登場でした。インターネットとは、1960年のJ.C.R.リックライダーの論文の中で、人間とコンピュータの共生というテーマから誕生しました。その後、アメリカのいくつかの大学と研究機関によるプロジェクトとして生まれ、1本の回線で複数の通信(通話)が可能な仕組みが開発されました。

1970年代に入ると、全米東西で約200台以上のコンピュータが相互に接続されました。その後、国防上の問題もあり分離されたのですが、これが現在のインターネットの原型だと言われています。1991年にはワールドワイドウェブという名称で、世界発のブラウザが開発されました。現在のWWWとの混同をさけるため、後にNexusと改称されています。そして1993年には、現在のほとんどのブラウザにとっての原型となっている革新的なブラウザMosaicが登場。後にMicrosoft がライセンスを取得し、Internet Explorer(1994年~)の開発が始まります。

現在の主要なブラウザとしては、Mozilla Firefox、GoogleChrome、Microsoft Edge、Apple Safariなどがあります。
また、全世界におけるウェブ・サイト=ウェブ・ページの集まりの数は、1991年に世界発のウェブ・サイトが1つ立ち上がって以降、1995年に18,000件、2006年に1億件、2014年に10億件を突破し、現在も増殖中です。

これからのHR テクノロジーの基本 AI (人工知能)の歴史

AIという言葉の歴史は古く、ギリシャ時代に遡ります。
「神を人の手で作り上げたいという古代人の希望」が起源だそうです。そして今のAIは、1950年頃から投資と挫折を繰り返してきました。
1950年にアラン・チューリングが「計算機と知性」という論文を発表(チューリング賞に象徴されるコンピュータ業界の先駆者)。1956年にはダートマス会議 (その後数100万ドル出資を受けたが挫折)が開催。1980年には日本でも500億円以上が政府、企業によって資金提供されましたが、10年後にすべて撤収。 多くの成果もありましたが、コンピュータの性能の限界(速くない、容量が足りない)もあって、問題を打破できない状況が続きました。そしてこの辺りで、機械が機械的に思考すべきか、機械が人間のように思考すべきかで議論が分かれたのです。

要するに、人間は問題を解決する際、論理をほとんど使いません。不正確な概念を説明するのに精密なコンピュータ言語を使っても正確さは向上しないのではないか――そんな意見もありました。当時はコンピュータの性能がまだ低く、人間的な思考に変えることは難しかったのですが、近年はコンピュータの性能が飛躍的に向上し、ようやく実現してきています。

ビッグデータとAI関連の主なマイルストーン

次に、現在に至るまでのAIの歴史を、「知性」と「コンピュータ」の進化とともに振り返ってみましょう。
1950年、アラン・チューリングが知性を持った機械を作り出す可能性を論じ、1968年、 アーサー・C・クラークとスタンリー・キューブリックが2001年には人間並みか、それを超える知性を持つマシンが誕生すると予測。
1997年にIBMのDeepBlueがチェスの世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフに勝利し、2004年 、GoogleがMapReduceに関する論文を発表。その実装の一つがHadoopという名でApacheのオープンソースプロジェクトとして採択されました。
2007年にはAmazonがHadoopを組み込んだDynamoDBをAWSサービスに利用開始。2010年、SAPがRDBの新アーキテクチャを搭載したインメモリーデータ処理プラットフォームHANAを発表。

2011年には IBMのWatson(ワトソン)が米国の有名なクイズ番組「ジオパディ!」で2人のチャンピオンを圧倒的な差で破り優勝。ワトソンのデビューとなりました。翌年、Amazonがペタバイト級データ保管サービスRedShiftを発表。また同年、MicrosoftがSQL Server2012において、Hadoopとの連携を発表。B(I Business Intelligence:企業の情報システムなどで蓄積される膨大な業務データを利用者が自らの必要に応じて分析・加工し、業務や経営の意思決定に活用する手法)フォーカスからビッグデータへ踏み込みました。その後、現在に至るまでビッグデータ関連のテクノロジーの買収が相次いでいます。

2016年にはGoogleの子会社DeepMindが開発したAI囲碁「AlphaGo」が人間のプロ棋士に勝利。DeepMindはその後も、次々に新たな推論アルゴリズムや手法、学習システムなどを開発、発表しています。

2016年にはマイクロソフトの開発する音声認識ソフトの聞き取りエラー率が人間並みになったと発表。

そして2017年現在も、AIの実装は加速中です。

AI の行きつく先~シンギュラリティとその後

現在のAI は、人間がロジックを改良することで、進化しています。しかし進化が一定のレベルを超えると、それまでとは異なる進化が始まります。その時期がシンギュラリティ=特異点と呼ばれるものです。シンギュラリティに到達すると、AI自体が自分自身を改良するようになり、それまでとは異なる飛躍的な進化が始まるとされています。2 ~ 3年前まで、その時期は、今から30年後か、あるいはもっと先の話かと言われてきました。

ところがここにきて、30年以内、いやもっと早い時期にやって来るかもしれないという説が有力になってきています。
シンギュラリティの時期になると、AIは急速に進歩して、いわゆるSF的な世界になってしまうということです。

AI+ビッグデータのHR システムへの応用

ここからはHRシステムへの応用についてお話しします。まずはもう一度ポイントを整理しましょう。AIとビッグデータが一緒になると何が起こるのか。第一に、十分な量と質のデータにより、客観的な結論を導き出します。第二に、多くの仮説を生み出すことができ、それぞれを多角的に検証できます。

従来からさまざまな手法が編み出されてきましたが、集まったデータの分析や判断は、常に最終的には人間が行ってきました。これは、今まではデータが複雑になると機械では処理できなかったからです。そしてこれから、AI+ビッグデータの実装は本格化していきます。 応用分野としては、採用(マッチング、スクリーニング、キャリア予測…)、配置・異動、組織の最適化、人材育成・活用、教育(カリキュラム、内容、進捗管理、ポテンシャル)、評価(アセスメント、リーダーシップ、パフォーマンス、コンピテンシー…)、処遇(昇給、ボーナス、インセンティブ)、モチベーション形成(企業文化、価値観、信頼感、期待度)などが挙げられるでしょう。

具体的な応用事例

採用への応用でまず考えられるのが、ポジション・マッチングです。例えば、候補者に複数のゲームをさせ、その行動特性を収集。採用後の最適なキャリアを予測します。また、 学歴スクリーニングへの応用も可能です。有名校出身ではない優秀な人材を発掘したり、 職種を出来る限り細分化し、それぞれにさらに深いQ&Aやe-Learningを体験させ、行動特性データを収集・分析したりできるようになります。

続いて、教育や人材発掘への応用で考えられるのが、リコメンデーションです。本人の進捗に合わせて、次にどのコースを受講すべきかをガイドします。必須以外のコースを適宜推薦することにより、学習への興味を継続させるのです。また、教材の読み上げ(AI的手法で文章をリアルな音声に変換)や、カリキュラム・学習内容の自動生成などにも使えるでしょう。さらには、独創性、新しいアイデアを作り出す能力、アイデアの豊富さ、アイデアの緻密性などを測るアセスメントツールとその分析手法により、創造力やアイデアを持った人材も発掘することができるようになります。

また、評価、アセスメントへの応用にも力を発揮するでしょう。データ量が増えるほど結果の正確性が増していきます。ファジーな機能が実装されることにより、より客観的な評価を達成できます。これはすでに囲碁ソフトなどで証明されつつあります。

加えて、コンピテンシー、プロセスなどの評価基準、測定方法および実行動との比較・分析、ポテンシャルの把握、360度評価への応用(評判と逆評判の分析・評価)、能力の定期的診断ルーチン(体の定期健診に相当するタレントの定期“健診”)などにも応用できるでしょう。

人事の視点によるクラウド・セキュリティ

最後に、少し違う観点からHRテックを見てみましょう。昨今クラウド・サービスが一般化してきたために、社内コンプライアンスや社員教育の徹底が不可欠になってきています。例えば、Dropbox、Facebook、Gmail、Office365などを含むクラウド・サービスの利用実態の把握(可視化)、クラウド上のデータ保護・暗号化などのデータセキュリティ、私物PCやスマホへのデータの無断持ち出しに対するコンプライアンス、さらには異常検知、不正アクセスによる情報搾取、サイバー攻撃によるサービス停止、ウィルス脅威に対する保護、 情報の漏洩、マルウェアへの感染といった脅威への対策など、さまざまな対応が必要です。

来年はますます身近になるAI

昨今話題になっているAmazon Echo(Alexa)やGoogle Home(OK Google/Hey Google)など、会話形式による指示、問合せ、回答、リコメンデーションが可能となるスマート・スピーカーの急速な普及によって、AI的な体験がより身近なものになっていくでしょう。さらに大手クラウド・サービスにてAIサービスが出そろい、それらを活用するクラウド・アプリケーションが人事の分野にも影響を与えると思います。
私からの話は以上になります。本日はいくつか大事なキーワードをご紹介しましたが、こうした言葉の本質的な意味を理解することによって、メリットや活用法も分かってくると思いますので、ぜひ本日の講演内容をご参考にしていただければと思います。

サムトータル・システムズ株式会社 代表取締役社長 平野 正信 氏

IBMの開発エンジニア、日経マグロウヒル社(現日経BP社)記者、ハイペリオン日本法人代表、レッドハット・アジア担当VPなどを経て現在に至る。記者としての人脈、ソフトウエア全般、会計、人事などのITソリューションなどの豊富な経験を生かし、業界のビジョナリーとして活躍。明快な説明に定評がある。

【参考】あなたの会社の成長を後押しするHRテックとは?AIとRPAがもたらす生産性向上

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