SaaSビジネスにおける企業KPI〜重要指標について解説

SaaSビジネスを手掛けるのであれば、設定し定点で測定をしておいたほうがいいのが「KPI(Key Performance Indicator/重要業績評価指標)」です。

しかし、SaaSビジネスにおいてKPIを設定・測定することにどのような意味があるのか、SaaSビジネスではどのようなKPIを設定・測定すればよいのか、よく知らないという方は多いのではないでしょうか。

そこで今回は、SaaSビジネスにおけるKPIの重要性を解説したうえで、SaaSビジネスを成功させるために設定・測定すべきKPIを紹介します。

目次

SaaSビジネスにおけるKPIの重要性

SaaSビジネスを成功させたいと考えるのであれば、現状をしっかりと把握し、先の先を見通したうえで的確な施策を打っていく必要があります。
これらのステップを踏んでいくうえで、大きな役割を果たすのが、KPIです。

KPIを測定すれば、現時点でSaaSビジネスはどの程度成長しているか、今後どのように成長を遂げていくかなどが見えてきます。
これらを可視化することで、経営環境を内外に指し示すことでさまざまな恩恵が期待できます。

また、KPIを測定すると、顧客の声などからは気づきにくいSaaSビジネスが抱えている課題も見えてきます。
つまり、KPIの測定・分析をしっかりと行えば、SaaSビジネスを成長させるための重要な手がかりが得られ、正しい方向に舵を取ることができるようになるのです。

SaaSビジネスを成功させるために設定・測定すべきKPI

SaaSビジネスを分析する際には、「成長性(Growth)」「効率性(Efficiency)」「継続性(Retention)」といった3つの観点を持つことが大切です。

以下の章で、この3つの観点ごとにSaaSビジネスを成功させるために設定・測定すべきKPIをいくつか紹介します。
実際にKPIを設定する際には、自社の現状や事業内容に照らし、真に必要なものを選び取ることが重要です。

SaaSビジネスの「成長性(Growth)」を見極めるためのKPI

SaaSビジネスがどれほど成長しているかといったSaaSビジネスの成長性を見極めるために設定・測定すべきKPIとしては、以下の6項目が挙げられます。

MRR(Monthly Recurring Revenue/月間経常収益)
MRRとは、毎月繰り返し得られる収益を表す指標です。各顧客から得られる1か月間の収益の総和と言い換えることもできるでしょう。

MRRを測定すれば、その時点におけるSaaSビジネスの規模が見えます。
しかし、SaaSビジネスの成長性まで把握するためには、一定期間内にMRRがどれほど成長したか、いわゆるMRR成長率まで測定することが必要不可欠です。
MRR成長率は、以下の数式を用いることで算出できます。

MRR成長率=期末MRR÷期首MRR-1

ARR(Annual Recurring Revenue/年間経常収益)
ARRとは、毎年繰り返し得られる収益を表す指標です。

ARRは、一般的にはMRRを12倍することで算出されます。
その反対に、ARRを12で割ってMRRを算出している企業もあります。
ARRの一般的なベンチマークは、評価額の5分の1から10分の1です。
一定期間内にARRがどれほど成長したか、いわゆるARR成長率は、以下の数式を用いることで算出できます。

ARR成長率=期末ARR÷期首ARR-1

ARR成長率は、スタートアップから2年目までは3倍、その後5年目までは2倍、いわゆるT2D3になることが理想と考えられています。

CMRR(Committed MRR/確約されたMRR)
CMRRとは、1年契約などの長期契約を結んでいるために確約されているMRRを表す指標です。
一定期間内にCMRRがどれほど伸びたか、いわゆるCMRRの成長率を算出すれば、より高い精度で将来の売上を把握できます。
CMRR成長率は、以下の数式を用いることで算出できます。

CMRR成長率=期末CMRR÷期首CMRR-1

CMRR成長率は、T2D3になることが理想と考えられています。

Quick Ratio(当座比率)
Quick Ratioとは、一定期間内に失われたMRRと獲得できたMRRの比率を表す指標です。
Quick Ratioを測定すれば、ビジネスの質的な成長性を見極めることができます。
Quick Ratioを測定するためには、以下に挙げる4つの要素を抽出しておく必要があります。

そして、以下の数式に各数値を当てはめることにより、Quick Ratioを算出できます。

Quick Ratio=(New MRR+Expansion MRR)÷(Churn MRR+Contraction MRR)

Quick Ratioの一般的な目標値は、4%以上と考えられています。

ARPA(Average Revenue Per Account/1アカウントあたりの平均収益)
ARPAとは、1つのアカウントが企業にもたらす収益の平均値を表す指標です。
ARPAを測定すれば、1アカウントから得られる収益の質を知ることができます。
一般的には、MRRを総アカウント数で割ることによって算出されます。

なお、ARPU(Average Revenue Per User/1ユーザーあたりの平均収益)は、ARPAとほぼ同義の言葉です。
ただし、ARPAとARPUの定義や使い分けは、企業によって異なります。

ASP(Average Sales Price/新規顧客1人あたりの平均収益)
ASPとは、1人の新規顧客が企業にもたらす収益の平均値を表す指標です。
ASPは一定期間内のNew MRRをその期間内に獲得した新規顧客数で割ることによって算出されます。
ASPを測定すれば、1人の新規顧客から得られる収益の質を知ることができます。
また、ASPをモニタリングすれば、後述するLTV(顧客生涯価値)の増減を早期に見極められます。

SaaSビジネスの「効率性(Efficiency)」を見極めるためのKPI

かけたコストに対し、どれほどの収益を上げられているかというSaaSビジネスの効率性を見極めるために設定・測定すべきKPIとしては、以下の7項目が挙げられます。

CVR(Conversion Rate/コンバージョン率)
SaaSビジネスにおけるCVRとは、リードやトライアルユーザーなどの見込み顧客から有料サービスの新規顧客になった人の割合を表す指標です。
CVRを測定することにより、顧客獲得の効率性を見極めることができます。

LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)
LTVとは、1人の顧客が契約期間中に企業にもたらす収益の平均値を表す指標です。
LTVの算出方法にはさまざまなものがありますが、ARPAに後述する平均継続期間を掛けることで簡単に算出できます。
LTVを測定することは、1人の顧客にかけられるコストを見極めるうえで役に立ちます。
なお、LTVはCLV(Customer Lifetime Value)と呼ばれることもあります。

CAC(Customer Acquisition Cost/顧客獲得単価)
CACとは、1人の顧客を獲得するためにかかったコストの平均値を表す指標です。
CACは顧客を獲得するためにかかったトータルコストを新規顧客数で割ることによって算出されます。
なお、CACはCPA(Cost Per Acquisition)やCCA(Cost of Customer Acquisition)と呼ばれることもあります。

Unit Economics(顧客1人あたりの採算性)
Unit Economicsとは、LTVとCACの比率を表す指標です。
Unit EconomicsはLTVをCACで割ることによって算出されます。
Unit Economicsは、顧客を獲得するためにかけたコストが適切であるかどうかを判断する際に役立ちます。
Unit Economicsは3以上になることが望ましいと言われています。

CAC Payback Periods(顧客獲得コスト回収期間)
CAC Payback Periodsとは、顧客を獲得するためにかけたコストを何か月で回収できるかを表す指標です。
CAC Payback Periodsは、以下の数式を用いることで算出できます。

CAC Payback Periods=CAC÷(ARPA×粗利率)

CAC Payback Periodsのベンチマークは12か月以内と言われています。

Burn Rate(資金燃焼率)
Burn Rateとは、1か月にどのくらいのコストがかかっているかを表す指標です。
Burn Rateには総コストを測るGross Burn Rate、総コストから収入を差し引いたコストを測るNet Burn Rateの2種類があります。
多くの場合、Net Burn Rateの方が重視されます。

Runway(猶予期間)
Runwayとは、何か月で資金が無くなるのかを表す指標です。
手元資金をBurn Rateで割ることによって算出されます。
Runwayを測定することは、資金調達をはじめとする資金繰りを把握するうえで役立ちます。

SaaSビジネスの「継続性(Retention)」を見極めるためのKPI

SaaSビジネスを末永く続けていけるか、先細ってはいないかといったSaaSビジネスの継続性を見極めるために設定・測定すべきKPIとしては、以下の8項目が挙げられます。

Churn Rate(解約率)
Churn Rateとは、解約した顧客の割合を表す指標です。
Churn Rateには、顧客数の減少を測るCustomer Churn Rateと収益の減少を測るRevenue Churn Rateの2種類があります。

Customer Churn Rateは、一定期間内の解約者数を前期末時点の総顧客数で割ることによって算出できます。

一方、Revenue Churn Rateはさらに、解約や低額プランへの移行などによる損失金額から算出するGross Revenue Churn Rateと、解約や低額プランへの移行などによる損失金額から高額プランへの移行などによる増益分を差し引いたうえで算出するNet Revenue Churn Rateに分けられます。

Gross Revenue Churn Rateは、以下の数式を用いることで算出できます。

Gross Revenue Churn Rate=(Contraction MRR+Churn MRR)÷前期末時点のMRR

Net Revenue Churn Rateは、以下の数式を用いることで算出できます。

Net Revenue Churn Rate=(Contraction MRR+Churn MRR-Expansion MRR)÷前期末時点のMRR

なお、Net Revenue Churn Rateがマイナスの状態であることを、Negative Churnと言います。新規顧客を獲得しなくても収益が得られていることから、ビジネスが健全な状態にあると言えます。

CRR(Customer Retention Rate/顧客維持率)
CRRとは、一定期間内に顧客をどの程度維持できているかを表す指標です。
前期からの継続顧客数を前月末時点の総顧客数で割ることによって算出されます。

NRR(Net Revenue Retention/売上継続率)
NRRとは、既存顧客からの収益が一定期間内にどれほど増減したかを表す指標です。
既存顧客がどれほどファン化しているかを見極めたり、翌期にどれほどの売上を期待できるかを測ったりするうえで役立ちます。
NRRは、以下の数式を用いることで算出できます。

NRR=(期首の合計MRR+Expansion MRR-Churn MRR-Contraction MRR)÷期首の合計MRR

NRRの目標値は、100~115%と言われています。

平均継続期間
平均継続期間とは、顧客1人あたりの契約の継続期間の平均値を表す指標です。平均継続期間は、以下の数式を用いることで算出できます。

平均継続期間=1÷Net Revenue Churn Rate

AU(Active User/活動顧客)
AUとは、契約に止まらず、実際にサービスを利用している顧客が何人いるかを表す指標です。
1日のAUであるDAU(Daily Active User)をMAU(Monthly Active User)で割ると、顧客のサービス利用頻度を測定できます。

NPS(Net Promoter Score/顧客推奨度)
NPSとは、顧客が利用しているサービスを他者に薦めたいと感じているか否かを表す指標です。
NPSは、顧客がサービスに対して抱く愛着や信頼、いわゆる顧客ロイヤリティを見極めたり、口コミによる収益の増大を期待できるかを測ったりするうえで役立ちます。

NPSを測る際には、まず、顧客にサービスを他者に薦める可能性がどれほどあるかを0~10の11段階で評価してもらいます。
そして、評価に従って以下のように顧客を分類します。

その後、推奨者と批判者の割合を算出し、推奨者の割合から批判者の割合を引けば、NPSを算出できます。NPSは、正の値であることが望ましいです。

NRS(Net Repeater Score/顧客継続度)
NRSとは、顧客が利用しているサービスの利用を継続したいと感じているか否かを表す指標です。
NPSよりも正確に顧客ロイヤリティを測ることができると言われています。

NRSを測る際には、まず、顧客に1年後もサービスを継続利用したいと思うかを1~5の5段階で評価してもらいます。
そして、評価に従って以下のように顧客を分類します。

その後、リピーターと離反リスク者の割合を算出し、リピーターの割合から離反リスク者の割合を引けば、NRSを算出できます。
NRSは、正の値であることが望ましいです。

RFV
RFVとは、Recency(直近の利用状況)・Frequency(利用頻度)・Volume(利用量)といった3つの指標の総称です。
RFVをもとに顧客を分類するRFV分析を行えば、SaaSビジネスのエンゲージメントを立体的に測ることができます。

各エンゲージメントのスコアは、以下の数式を用いることで算出できます。

Recencyスコア=現時点の日付-最終利用日(ymd関数を利用)
Frequencyスコア=利用日数÷サービスの利用期間
Volumeスコア=利用時間÷サービスの利用期間

まとめ

◆SaaSビジネスを成功させるためには、KPIの設定・測定が必要不可欠となる。
ただし、漫然とKPIを設定・測定しても、SaaSビジネスを成功に導くことはできない。

◆KPIを設定する際には、自社の現状や事業内容に照らし、「成長性(Growth)」「効率性(Efficiency)」「継続性(Retention)」の3つを見極めるうえで真に必要なものを選び取ることが大切となる。
また、測定して得られたデータは丁寧に分析し、課題を漏らさず抽出するように心がけよう。

【著者プロフィール】
「ラーニング・イノベーションLABO」編集部
人事領域において人材開発やDX・ITにおけるクリティカルな情報をお届けします。
また、人事担当者の方々が日々抱える人材育成、人材開発における課題を整理し解決していくメディアを目指しています。
人材開発の先にある、社員の方一人一人の自己開発型人材の実現を目指し気づきと学びを提供するべく情報をお届けしていきます。
Recommend おすすめ記事
サムトータルのソリューション
人材の可能性を引き出したい!
今いる社員を大事に育て、組織を強くしたい。
サムトータルのラーニングと人材開発ソリューションで
「教育と育成によって進化する組織」を実現します。
サムトータルのソリューション詳細はこちら
ラーニングを中心とする人材育成ソフトウェア 変化する社会と仕事のためのソリューション
PAGE TOP