HRサミット2015”ものづくり”から”ものこと&ひとづくり”へ

目次

Open Innovation時代の企業のGlobal人材戦略

東京理科大学大学院 イノベーション研究科 教授 田中 芳夫 氏 (提供:サムトータル・システムズ株式会社) 日本は「ものづくり」という素晴らしい技術によって世界で確固たる地位を確立しました。ところが、時代は流れ、この間にICT はすさまじい速度で進歩普及し、旧来のビジネスモデル、すなわち品質・コスト・大量供給という仕組みから抜け出た企業が台頭してきています。これに対して日本の産業は、ICT によるグローバルなビジネス展開の波に乗りれておらず、いまだに他国が切り拓くICT インフラを部分的に享受する「ものづくり」に留まっているのが現状です。世界ではOpen Innovationも従来の形からOpen Innovation2.0へと進化しつつある中で、「ものづくり」から「ものこと&ひとづくり」が急務となっています。Open Innovation時代に、企業がどのようなグローバル人材戦略を取るべきなのか、東京理科大学大学院・イノベーション研究科の田中芳夫教授に講演を行なってもらいました。

揺らぎ始めた世界一の座

まず、日本の「ものづくり」の歴史から説明します。1945年に日本は太平洋戦争で敗れ、復興への道を歩むのですが、1950 年代はコストが安く、大量生産を行なうことができるまでになりました。そして、1960年代には自動車をアメリカに輸出するようになりましたが、サンフランシスコからロサンゼルスまで走ることができないものばかり。いわば、「安かろう、悪かろう」の時代でした。その後、日本人は真面目に品質向上に取り組み、「もの」を追求することで成功を収めたのです。1970年代には鉄鋼、家電製品などの品質でアメリカを上回り、1979年には日本が「”Japan as number one”と言われるようになり、アメリカの産業を潰してしまったのです。この頃、日本の人事部では採用数を集めることが目的で、教育は重視していませんでした。「いいものは売れるはずだ」という信念を持ち、高品質の製品を大量にかつ廉価に提供することが企業の役割だと考えていたからです。そして1980年代に世界一の技術大国になりました。しかし1990年代から世界一の座は揺らぎ始めてしまったのです。そして今世紀に入ってから日本の地位は下がり続け、世界のトップを走っていた製造業は低迷し、苦しんでいます。

他国のICTインフラを享受する日本

その理由は日本のビジネスモデルが通用しなくなったからです。ICTがすさまじい速度で進歩普及したことにより、日本が得意としていた「品質・コスト・大量供給」は強みではなくなったのです。今世紀に存在感を増し台頭しているアップル、グーグル、フェイスブックなどは、新たな仕組みや価値提案をして成長しました。これに対し、わが国は、ICTによるグローバルなビジネス展開の波に乗りきれておらず、新たなニーズ、ビジネスのあり方を提案するというよりは、他国が切り拓くICTインフラを部分的に享受するものづくりに留まっている面が大きいと思います。いまだに日本メーカーの製品は評価されていますが、大きな利益を上げていません。たとえばiPhoneです。初期のiPhoneはほとんどが日本製部品で製造されていました。しかしiPhoneによって膨大な利益を上げたのはアップル社でした。また現在のiPhoneは台湾、韓国、中国の部品と組み立てメーカーによって製造されています。1970年代に日本がアメリカの産業を潰していったように、現在は日本が中国、韓国、台湾などにとって代わられてしまったのです。

ドイツでは新たな「ものづくり」を提起

それでは、なぜ日本の産業が衰退していってしまったのか――。半導体も液晶も、技術の強みは製造ノウハウにあります。しかし、日本における液晶の製造ノウハウは中国、韓国などを中心に他国のメーカーに流出しました。ノウハウを知るエンジニアがスカウトされて、製造パラメーターが流出したからです。このように、日本ではエンジニアの流出がメーカーの競争力低下という致命的な結果をもたらしていますが、欧米企業ではそのような例をあまり聞きません。アップルやグーグルでは1 週間に数百人以上のエンジニアが入社し、その半数以上が辞めていくそうです。 人材の流動性がきわめて高いということが分かります。というのも、日本は企業内開発が主流ですが、欧米では全く異なるイノベーションモデルが展開されているからです。世界最大のコングロマリットであるGEは、「インダストリアル・インターネット」という概念を提起しています。GEは世界最大のジェットエンジンのメーカーですが、センサーが常時エンジンを監視し、故障を予測できれば、エンジン負担を軽減し、燃料費も節約でき、遅延によるコスト負担も軽減できます。また、GEはヘルスケア分野にも進出しており、同様の仕組みが使われています。つまり製造業がサービス業に変貌し、この仕組みはIOTと呼ばれるようになったのです。GEは「世界最大のIT ベンダーになる」と言っています。ドイツ政府は「インダストリー4.0」という言葉を使い、ドイツの主要企業を含む産官学の多くの組織や団体が参加して新たなモノづくりの形を提起しています。

Open InnovationからOpen Innovation2.0へ

欧米では1990年代以降、イノベーションについては多くが語られましたが、2000年代半ばになってOpen Innovationという言葉が登場しました。組織と組織が勝手に動くのではなく、枠組みを越えて、知識と技術の結集を図ってイノベーションを起こすことです。例えば、アップルのiTunesなどが分かりやすいかと思います。 アップルがiTunesを作ると他の企業がアプリケーションを作っていきます。そうすることによって、iTunesはどんどん肥大化していくことになるのです。Open Innovationが叫ばれ始めてもう10年が経ち、その間に世の中はすっかり変わりました。日本では2011年の東日本大震災と福島原発事故、経済界では2008年のリーマンショックがありました。そしてICTはすっかり社会に定着し、IOTが現実化しています。この10年間で仕事のやり方も一変しました。そこでOpen Innovationの進化形としてOpen Innovation2.0という概念が生まれたのです。すでに欧米ではベンチャー企業がWeb上でマネーを集め、アイデアを製品化して成功をおさめるクラウドファンディングが普及しています。

「ものこと」と「ひとづくり」をマネジメントするのが経営者

それでは、「ものことづくり」「ひとづくり」とはどういうことでしょうか。 日本では「ものづくり」ばかりをしてきました。しかし、2011年に「ものことづくりで日本を元気にしよう」というスローガンをつくり、2014年に「ものこと双発学会」や「ものこと双発協議会」を設立。タレントのスキルを伸ばす仕組みを考えようということになりました。従来のものづくりは、製品を起点として製品で収益を上げるものでした。しかし、このモデルは過去のものです。iPhone、iTunesなどのビジネス成功モデルを分析すると、製品起点・サービス収益というモデルもあるし、サービス起点製品収益というモデルも成功しています。つまり、ものはものだけでビジネスモデルにならず、仕組みという「こと」が必要ということです。ただ、「ものこと」だけでは足りません。イノベーションを生み出すのは「ひと」です。「もの」を開発するだけではなく、チャレンジ精神や好奇心が旺盛な「ひと」をつくらなければなりません。常識にとらわれず、挑み、壊す人材がイノベーションを成就させるのです。だから「ものこと」と「ひとづくり」は互いに不可欠な関係として考えなくてはならないでしょう。この両方をマネジメントするのが運営をする経営者ということを忘れてはいけません。

講師紹介

東京理科大学大学院 イノベーション研究科 教授 田中 芳夫 氏 1973 年東京理科大学工学部電気工学科卒業、同年、住友重機械工業( 株) に入 社,Online system設計などのシステム開発に従事、1980 年に日本IBM の研究開発製造部門に入社。世界向けの製品・サービス・ソフトウエアの開発、マネージメント、および 副社長補佐。1998年にIBMCorporation R&D Asia Pacific Technical Operation 担当。2001年研究開発部門 企画・事業開発担当理事。2005年 マイクロソフトCTO就任。2007年 (独)産業技術総合研究所参与、青山学院大学大学院ビジネス法務客員教授。2009年東京理科大学大学院教授 、国際大学GLOCOM上席客員研究員,日本工学アカデミー会員
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