第3回 ハイパフォーマー分析が「健康経営」に繋がる?!その理由とは?【前編】

2018.10.26 
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みなさん、こんにちは。
このコラムでは「健康経営」というキーワードを中心に、人事関連の様々なトピックについて考えていきます。

少し間が空いてしまいましたが、第3回ではハイパフォーマー(ローパフォーマー)分析と健康経営、特にプレゼンティーズムと休職・退職リスクとのかかわりについて、例のごとく軽いタッチでお話していきたいと思います。
以降、特に注記がない場合はハイパフォーマーを「HP」、ローパフォーマーを「LP」と表記させていただきますね。

この前編ではウォーミングアップとして、HP(LP)分析の基本的な考え方を簡単に整理してみたいと思います。(注1)

さて、HP(LP)分析については、何年か前から日本でもいろいろなところで紹介されるようになりました。
一言でいえば「人事関連データを活用して、従業員が持つ特性とそのパフォーマンスの因果関係を探索的に分析し、組織におけるHP(LP)が持つ傾向を明らかにすることによって、様々な人事施策に役立てること」というのが私の理解です。

仮に私がやるとしたら、具体的には次のような感じになります。
読者の皆さんはもうご承知のことかもしれませんが、この後の議論にもつながってきますので、しばしの間お付き合いいただければと思います。

①基準となるパフォーマンス(結果)の設定
まず、組織におけるHP(LP)のモデルを特定します。
一般的に、組織のセグメント(営業チームやバックオフィスなど)ごとにHP(LP)の傾向が異なりますので、セグメント別の基準でHP(LP)の特定を行います(もちろん組織全体で行う場合もあります)。
後述しますが、実務上は人事評価の結果をこのパフォーマンスの指標とすることが少なからずあります。

②HP(LP)の構成要因となる特性(原因)の設定
次に、各従業員に関連する様々な個人データを集めます。
私がパッと思いつくのはだいたい次の3つのカテゴリーです。

◇既存の仕組みで測定可能なデータ(人事情報・勤怠情報など)
◇アンケート等のサーベイデータ(意識調査や満足度など)
◇行動データ(会議参加数やメールの長さ、メールの返信時間など)

数字で表せるものは、ほぼHP(LP)特性候補として分析に投入できます。特に当初の段階では、「収集できるデータを全て分析してみる」という方法を採られるかもしれません。
これによって、全く想定していないような個人データがHP(LP)の特性として出る可能性もあります。(注2)

③ ①と②のデータを用いた因果関係の分析
①を目的変数(=分析によって予測したいもの)、②を説明変数(=目的変数を説明するもの)として回帰分析を行い、スタッフの特性とパフォーマンス(HP/LP)の関係性についての全体としての傾向を導出します。
これは実はエクセルで簡単にできます。
最も簡便かつ有名な方法は、「HP(LP)=1、それ以外=0」と数字を割り振って、1を最大値とする回帰分析を行うことです。(注3)

HP(LP)分析のアウトプットをイメージ図で表すと、以下のような感じになります。
HP(LP)分析のアウトプットイメージ図

当該組織においては、HPは全体として特性Aと特性Dが高い傾向が、またLPは全体として特性Bと特性Eが低い傾向があると判断されます。
この傾向を踏まえて各従業員の特性を個別に見ていったときに、特性Aと特性Eが他と比べて高いスタッフがHP候補です。
同様に、特性Bと特性Eが他と比べて低いスタッフはLP候補ということになります。

これらは原則として、定量的な予測にも応用でき、例えば、特性Aが1増加するとHP度が0.05増加する、といったことが分かります(もちろん因果ではなく単純な相関関係の可能性もあります)。

ここで重要なのは、HP(LP)の傾向としての特性ではなく、むしろHP(LP)の定義とその測定結果の妥当性だと私は考えています。そして、この妥当性の難しさが、多くの方々を悩ませているのではないでしょうか。

そもそも、HP(LP)の特性は完全に定量的に測定できるのでしょうか。
みなさんご承知のとおり、営業スタッフは個人の業績が数字ではっきりと表現できるかもしれませんが、バックオフィススタッフに対してはそれが困難です。

結果として、HP(LP)の特定方法には、人事評価の高い人=HP、低い人=LP、という形に落ち着くことが多いように思います。

その場合に問題になるのは、人事評価の妥当性です。
みなさんの組織では、全社的に公平な基準で人事評価が行われていますか。
評価をつける管理職のバイアスが一切かかっていないと言い切れますか。
現場から上がってきた評価に対して政治的配慮からの調整を加えることはありませんか。

これらのバイアスを含んで設定された人事評価、すなわちHP(LP)の定義は、みなさんの組織のHP(LP)像を正確に表現できているでしょうか。

ここまで書いておいて・・・という感じですが、この点について私は「ある程度は仕方がない」「それでも分析を進めるべき」と考えています。

まず、社会科学においてバイアスを完全に排除することはほぼ不可能に近いです。
また、そういったバイアスが組織風土や理念から出てくるものであるとするならば、そのバイアスも組織の構成要素の一部であると考えることもできます。すなわち、「当該組織においては真実」であるとみなすことができるのではないか、ということです。

たとえバイアスがあったとしても、まず第一歩としてとにかくデータ分析をやってみて、大枠の傾向と課題を掴む、という姿勢が大事であるように思います。

今回はここまでとなります。続く中編後編では、今回の内容を踏まえて、それぞれHP分析とLP分析について、健康経営との関連性について論じていきたいと思います。前提として、HP(LP)の定義を人事評価とする、という考え方を置きます。

HP分析(中編)にもLP分析(後編)にも共通するのは、分析によってあぶり出された全体的な傾向と個人ベースのパフォーマンス・特性との乖離から「何を読み取り、どのように考えるか」です。
それが健康経営とどう結びついていくのかを、これから明らかにしていきます。

それではまた次回!

第3回  ハイパフォーマー分析が「健康経営」に繋がる?!その理由とは?【中編】
第3回  ハイパフォーマー分析が「健康経営」に繋がる?!その理由とは?【後編】

<謝辞>
今回のコラムはその大部分において、イオン株式会社グループ人事部人事企画グループの小河原好弘さまとの数ヶ月に及ぶ議論にインスパイアされています。
ここに感謝の意を表します。
※本コラムは執筆者個人の考えに基づく論考であり、特定の企業や団体の意向を代表するものではありません。

(注1)
今回のコラムではHP/LP分析の手法自体については触れません。
分析手法についてはいろいろなウェブサイトで紹介されていますので、是非検索してみてください。
ちなみにこのコラムでも、先のシリーズでエクセルを使った分析手法について簡単に説明する予定です。

(注2)
もちろんこの場合には、みなさんおなじみの「それは因果か相関か?」といった議論だけでなく、「疑似相関」と「逆因果」が存在することにも十分な注意が必要です。

(注3)
正確には「ロジスティック回帰分析」という手法を用いる必要があります。
通常の重回帰分析はエクセルでも対応可能ですが、それだと統計的に正確な分析は行われていないとお考えください。
ただし、各特性がプラスに効いてるか、マイナスに効いているかを把握したり、分析の有意性は「ロジスティック回帰分析」とそれほど違わないことが多いので、参考情報として活用はできるかと思います(結果の保証はできませんが)。

新改敬英 (Takahide SHINKAI)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 大学研究員

大手国際会計事務所等にて会計監査・M&Aアドバイザリーに従事したのち、
外資系メーカーおよび国内系医療・介護グループを経て研究者に転身。
民間企業在籍中は一貫して経営企画業務に従事し、
経営戦略立案、組織マネジメントから財務分析、人材採用までオールラウンドに手掛ける。
現在は九州大学大学院の博士課程に在籍し、会計学・組織マネジメントについて研究する傍ら、
慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)の研究員として、
企業との共同研究・アドバイザリーに従事。(2019年3月現在)

参考リンク

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