第2回 「生産性×健康経営」について考える【後編】

2018.09.03 
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みなさんこんにちは。このコラムでは「健康経営」というキーワードを中心に、人事関連の様々なトピックについて考えていきます。

前回の第1回(前・中・後編)では「健康経営で本当に何かが変わるのか?」という問いについて考えてきました。

「健康経営で本当に何かが変わるのか?」(前編)はこちら
「健康経営で本当に何かが変わるのか?」(中編)はこちら
「健康経営で本当に何かが変わるのか?」(後編)はこちら

「生産性×健康経営」について考える【前編】「生産性×健康経営」について考える【中編】では、「生産性」についての全体像、ならびにそれを向上させる上での課題についての私の考えを述べました。
後編では生産性と健康経営の関係性について、主に「人間としての限界」の側面から論じていきたいと思います。

中編が少し長かったので、今回は短めでお送りします。

皆さんは「プレゼンティーズム」という言葉をご存知でしょうか。
健康経営を語る上ではいろいろなところで出てくるキーワードです。
近いうちにこの「健康×経営ラボ」でも紹介されると思います。
山下・荒木田(2006)(注1)によると、プレゼンティーズムの定義は「出勤している労働者の健康問題による労働遂行能力の低下であり、主観的に測定が可能なもの」であり、その「先行要因は職場要因と個人要因に分類され、健康問題を抱えた労働者の出勤するか否かの判断に影響を与えるもの」とされています(下線は筆者加筆)。

要するに、職場環境や個人的な理由による身体的・精神的な不調のために、労働生産性が低下している状態、と言えるでしょう。

このプレゼンティーズムは、効率性が低下することによってコストが増加している状態です。
従いまして、個人レベルの生産性向上の一つの(有効な)方法として、プレゼンティーズムを極小化することによってコストダウンを図ることが期待できます。
この点については私も異論はありません。

中編では、個人レベルの効率化によるコスト削減について、「個人レベルの効率化は、そもそも生産性向上にどのくらい寄与しているか」「自分の都合だけでは効率化できないことも多いのではないか」という2つの論点について触れました。
今回は、これに加えて個人的に思うことの最後のひとつをお話したいと思います。

それは「果たして、個人レベルの効率化を、組織がそこまで徹底的に行う必要はあるのか」ということです。

正直に告白しますが、私はプレゼンティーズムを全く感じずに朝からギンギンに働けた日というのは、それほど多くはありません。
しかし一方で、どこかいまひとつ調子が悪かったけれども最低限の仕事はできたと思えた日や、お昼ぐらいから徐々にスピードが乗ってきて夕方にはスッキリしていた日も少なくありません(注2)。

人間は機械ではないので、好不調の波はどうしてもあります。
個人の要因だけでも、家庭問題やアフター5のプライベートな飲み会での二日酔い、週末のスポーツ中のケガなど、仕事に影響しそうなことって多いですよね。
こういった個人の問題について組織がコントロールできる範囲には限界があります。
一方で、調子が良い時はどこまででも頑張ることができてしまうことも、少なからずあります。

プレゼンティーズムについては、職場要因は極めて重要だとは思いますが、そもそもこのような人間の柔軟な特性を前提とせずに最大限の効率化を狙うと、逆に効率が下がるような気がするのです。
良かれと思って推進する効率化がプレッシャーやストレスとなって、逆にプレゼンティーズムの職場要因化しまうイメージです。

実際に、先述した山下・荒木田(2006)でも、「仕事を能率化させるためのチームワークシステムや休業をモニタリングするシステムが従業員にとって重圧となり、休業取得を阻害」すると報告した海外の論文(注3)が引用されています。

これらのことを考慮した結果、個人レベルの効率化には「気持ちが乗らないときは流してOK、でもギンギンのときはどこまでも働いてOK」という、絶妙なメリハリやバランスが重要なのではないかと、個人的には思うに至りました。
「平均すると適切な効率化が図られている」という状態です。
その「適切な効率化」の度合いは各組織によって異なりますから、もちろんそれは自分たちで定義することが必要でしょう。また、目標や個人の職務範囲の明確化や、現状の可視化なども必要です。

この「目標や個人の職務範囲の明確化や、現状の可視化」は、現状でもおそらく様々なベンダーさんのシステムによって実現可能だと思います。
しかし、先に述べた「メリハリやバランス」のような、人間の限界を上手く取り込んで最適な状態をキープさせるための指標や、そのマネジメントを実行する管理職を支援するようなシステムは、私が調べた限りでは発見できませんでした。
このようなシステムを稼働させることができれば、組織メンバーの能力やモチベーションを最大限発揮させつつ、より健全な効率化の取り組みを行うことができるのではないでしょうか(注4)。

人間というのは割とミスをするし、ちょっとしたことでも有頂天になることができる、愛すべき不完全な生き物です。
その「限界」を前提に考えると、よく例えられる「車のハンドルの遊び」のように、多少のバッファを設けた方が逆に上手く効率化できるのではないかと思うのですが、皆さんはどう思われますか?

今回のコラムで述べた個人レベルの「適切な効率化」が果たして成立し得るのかどうか。それは今後の実証研究を通して明らかにしていきたいと思います。

さて、生産性についてはこの回で最後になります。
次回は新シリーズ「ハイパフォーマー/ローパフォーマー分析の本質に迫る」です。
タレントマネジメントやHuman Capital Managementの流れで割と良く出てくるようになったこの分析手法の奥深さについて論じていく予定です。

それではまた次回!

第2回 「生産性×健康経営」について考える【前編】はこちら
第2回 「生産性×健康経営」について考える【中編】はこちら

※本コラムは執筆者個人の考えに基づく論考であり、特定の企業や団体の意向を代表するものではありません。

(注1)
山下未来・荒木田美香子, 「Presenteeism の概念分析及び本邦における活用可能性」, 2006, 『産業衛生学雑誌』 48, pp. 201-213.

(注2)
もちろんこれは私だけかもしれません。もし読者の皆さんが私のような経験をお持ちでないということであれば、それはとても素晴らしいことです。

(注3)
Grinyer A, Singleton V., Sickness absence as risk-taking behaviour: a study of organisational and cultural factors in the public sector, 2000, Health, Risk & Society, 2, pp. 7–21.

(注4)
今回は「人間としての限界」にフォーカスしているため、社風や人間関係などの職場要因については考慮していません。

新改敬英 (Takahide SHINKAI)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 大学研究員

大手国際会計事務所等にて会計監査・M&Aアドバイザリーに従事したのち、
外資系メーカーおよび国内系医療・介護グループを経て研究者に転身。
民間企業在籍中は一貫して経営企画業務に従事し、
経営戦略立案、組織マネジメントから財務分析、人材採用までオールラウンドに手掛ける。
現在は九州大学大学院の博士課程に在籍し、会計学・組織マネジメントについて研究する傍ら、
慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)の研究員として、
企業との共同研究・アドバイザリーに従事。(2019年3月現在)

参考リンク

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