第1回「健康経営」で本当に何かが変わるのか?【後編】

2018.08.22 
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みなさんこんにちは。
このコラムでは「健康経営」というキーワードを中心に、人事関連の様々なトピックについて考えていきます。

第1回「健康経営」で本当に何かが変わるのか?【前編】
第1回「健康経営」で本当に何かが変わるのか?【中編】

前編中編では、「健康経営」という言葉について私が考えるツッコミどころを好き勝手に述べてきました。
この後編では、それらの議論を踏まえたうえで、真の健康経営とはどうあるべきかについて、私の考えを述べたいと思います。

中編で述べたように、従業員の健康と生産性の向上との直接の因果関係はハッキリとは実証されていないと私は認識しています。
しかしそれは因果関係がないということを意味するのではなく、それ以前に「健康」と「生産性」を明確に定義・測定できていないことに起因するのではないでしょうか。
そもそも何をもって「健康」を表現するかはわかりませんし、「生産性」の定義も様々です。(注1)

これらの曖昧な概念を指標にして可視化すること、そして可視化された指標をコンパスにしながら、健康と生産性のどちらもが高いレベルでバランスした状態を実現させることこそが、真の健康経営なのではないかと個人的には考えています。

仕事に没頭し、健康を害してまで結果を出すのは持続的な取り組みとは言えません。
一方で、“神モード”に入ってノリに乗って仕事しているときの勢いは大事にしたいですよね。
また、特に若い時期は時間をかけてじっくり取り組むことも、将来的な成長には必要不可欠です。(注2)

そして、時間を忘れて働いたときは、しっかり休む。
すべての従業員がこのバランスを上手く取ることができれば、あるいはすべての組織がこのバランスを上手く取らせることができれば、個人の健康と成長が企業の業績向上に貢献し、それが社会的な生活水準の向上につながるといった、プラスのスパイラルをつくることができる可能性は大いにあると信じています。

そのために重要なのは、まず現在の状態を「可視化」することです。
ほとんどの場合において、測定できないものはマネジメントできません
なにも難しい話ではなく、ダイエットなどにも言えることですよね。読者の皆さんはもう既にお分かりのことだと思います。

ここで出てくるのが、数値による人事データ分析です。
上手く活用すると、すごく強力なカードになってくれます。
多くの方が、「ウチの会社にはデータがない」とおっしゃいますが、そんなことはありません。
それが紙なのか、スプレッドシートなのか、データベースなのかはわかりませんが、必ず何らかのデータがあるはずです。
まずエクセルに手入力してみるところから始めるので良いと思います。

とにかくスモールスタートから始めることが成功の秘訣です。
小さくても成果を出すことで、新システムの導入などのより大きな予算獲得につながるかもしれません(つながった例を私は知っています)。

注意していただきたいのは、データ分析はあくまでもデータ分析であり、それ以上でもそれ以下でもない、ということです。
「データ分析で全てのことがわかる」「データ分析なんてあてにならない」どちらの姿勢も半分正解・半分間違いです。
私たちの解釈能力が低ければ、入力したデータもただの電子ゴミです。
データと同じかそれ以上に、「想像力(妄想力)」が重要であると私は考えています。
分析結果からビジネスの現場や従業員の状態を想像し、そのわずかな変化の兆候を見逃さないための「想像力(妄想力)」です。
これは(少なくとも今のところは)人間の仕事です。

この点について気の利いたフレーズを考えていたのですが、渋沢栄一氏の本のタイトルである「論語と算盤」がピッタリな気がします。論語を「人情のマネジメント」、算盤を「データのマネジメント」と置き換えてみると分かりやすいのですが、この2つはどちらか片方だけでは不十分で、両方揃って初めて完全体なのだという考え方です。(注3)

また、管理職のマネジメントスキルが今まで以上に問われることは間違いないでしょう。
バイアスのかかった評価をデータとして入力しても、バイアスのかかった結果しか出力されません(注4)
たとえAIを使ったとしても同じです。
部下の評価や育成がきちんとできている自信はありますか。
部下の健康と自分の組織の業績との両立に自信はありますか。
ささいな変化の兆候を見逃さずに対応できていますか。

もちろん管理職といえども、そのほとんどはスーパーヒーローではなく、たまには失敗する普通の人間です。
だからこそ、様々なアイデアやテクノロジーについて情報を収集し、補完的に活用していく姿勢が必要になるのだと思います。

それではまた次回。

※本コラムは執筆者個人の考えに基づく論考であり、特定の企業や団体の意向を代表するものではありません。

(注1)
生産性の考え方については別の回で述べる予定です。

(注2)
「中年世代の武勇伝自慢」のように言われることもありますが、これはこれで間違っていないと思います。いわゆる「ワークライフバランス」を実現させたと言われている人の話を聞くと、人生のどこかでは必ず「ワークライフアンバランス」を経験しているような気がします。ただ、それは自慢するようなことではないかもしれませんが。

(注3)
この「論語と算盤」の話は、日本管理会計学会の会長で関西大学教授の水野一郎先生が2017年8月の会計サマーセミナーでお話しされていた内容にインスパイアされています。データ分析の限界と「想像力(妄想力)」のバランスについては、機会があれば改めて記事を書きたいと思います。

(注4)
“Garbage in, Garbage out”なんて身もフタもない言い方をします。

【プロフィール】

新改敬英 (Takahide SHINKAI)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 大学研究員

大手国際会計事務所等にて会計監査・M&Aアドバイザリーに従事したのち、
外資系メーカーおよび国内系医療・介護グループを経て研究者に転身。
民間企業在籍中は一貫して経営企画業務に従事し、
経営戦略立案、組織マネジメントから財務分析、人材採用までオールラウンドに手掛ける。
現在は九州大学大学院の博士課程に在籍し、会計学・組織マネジメントについて研究する傍ら、
慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)の研究員として、
企業との共同研究・アドバイザリーに従事。(2019年3月現在)

参考リンク

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