第1回「健康経営」で本当に何かが変わるのか?【前編】

2018.08.06 
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みなさんこんにちは。このコラムでは「健康経営」というキーワードを中心に、人事関連の様々なトピックについて考えていきます。

いきなりで恐縮ですが、私は人事の専門家ではありません。
専門で研究しているのは「マネジメント・コントロール」、誤解を恐れずにわかりやすく言うと「計数情報を中心とした組織マネジメント」です。

そのようなバックグラウンドから、「HRテクノロジー」や「健康経営」といったバズワードについては、これまである程度客観的に観察してきました。

一方で、会社勤めのときには経営企画メンバーとして人事的な経営課題に数多く取り組みましたし、採用も担当していました。
そして研究の道に入ってからは、慶應義塾大学の岩本隆先生と一緒に、様々な企業さまの人事データやサーベイ結果をお預かりして統計的に分析するといったことも数多く実施してきました。
そのため、統計学をベースとしつつ、人事のこともデータやシステムのこともある程度分かるという、絶妙な(微妙な?)立ち位置に現時点では立っていると思っています。

このようなバックグラウンドから、逆に人事でもベンダーでもない、ちょっと違った観点からお話ができるのではないかと考えています。
また、学術的な厳密性にはこだわらずに、実務の観点からお話をしていきたいと思っています。

しばしの間、お付き合いのほどをどうぞよろしくお願いいたします。

さて、第1回のテーマはズバリ「健康経営」です。書いているうちに長くなったので、前編・中編・後編の3部作でお送りします。今回は前編です。

みなさんは当然、この「健康経営」という言葉にご興味があるからこのサイトをご覧になっておられると思いますが、実際のところどのようなご印象をお持ちでしょうか。
私の個人的な印象は「コンセプトは間違いなく正しいけどツッコミどころもいくつかありそう」です。そのツッコミどころ、パッと思いつくのは2つです。以下、私見を簡単に述べます。

ツッコミどころ①:従業員の健康に配慮するのは、そもそも「あたりまえ」のことでは?

従業員の健康に配慮した経営を行っている法人に対して「健康経営優良法人」の認定を行う制度を、経済産業省が実施しています。同省のウェブサイト(注1)を見ると、様々な企業が優良法人の認定を受けられていることがわかります。
そして、関連するニュースや記事を目にするたびにいつも思うのが、「従業員の健康に配慮するなんて『あたりまえ』のことなんじゃないの?」ということです。

言葉を選ばずに言うと、「(病気等の仕方のない理由以外で)遅刻はしないのがあたりまえ」という前提の組織(ほとんどの組織がそうだとおもいます)で、「そういった仕方のない理由以外で1年間いちども遅刻しなかったので表彰された」のと同じことのようにも感じます。

「ブラック企業を罰するのはわかるけど、あたりまえのことをやって表彰するというのは何だかシュールだな」と、最初にこの話を耳にしたときに率直に思いました。(注2)

より好意的に解釈すると、このような制度をつくらなければならないほどに、「あたりまえ」ができない企業が多くなってきている、ということなのでしょう。
しかし、「なぜ『あたりまえ』ができないのか」という問いに対する解を見出すことができなければ、どのような制度をつくっても結局形骸化してしまい、本質的な解決には至りません。
この制度は、外部からポジティブな刺激を与えることによって、この「あたりまえ」を実行させる仕組みをいま一度組織内で考えさせる契機となるかもしれない、と考えています。

ただ、そうなるとこれはかなり難しい経営課題になりそうです。
個人の適性や能力だけではなくて、上司の評価スキルやマネジメント能力も当然関わってきますし、もし組織が弱い立場に置かれているのであれば、無理をして仕事をしなければならないこともあるでしょう。
つまり、経営資源や外部環境などをすべて考慮しないと本質的な解決につながらない、まさに「経営そのもの」についての各組織・経営者・管理職の力量が問われている気がするのですが、みなさんはいかがお考えでしょうか。(注3)

 

さて、前編はここまでです。

中編ではツッコミどころの2つ目について述べたいと思います。キーワードは「因果関係」です。

それではまた次回。

第1回「健康経営」で本当に何かが変わるのか?【中編】

※本コラムは執筆者個人の考えに基づく論考であり、特定の企業や団体の意向を代表するものではありません。

(注1)

経済産業省「健康経営優良法人認定制度」ウェブサイト

(注2)
誤解のない様に申し上げておくと、私はこのような取り組みが間違っているとは思っていません。

社員の人生を搾取するようなマネジメントなどは絶対に存在してはいけないと思っています。
過重労働にパワハラ、言語道断です。
この世に生を受けたからには、いかなる場合であれ尊重される権利を誰もが持っています。
私がこの記事を書いている2018年7月5日、過労死と自殺の痛ましいニュースが報道されていました。本当に心が痛みます。

(注3)
この「『あたりまえ』ができない」という点については、組織論の領域に数多くの知見がありますが、本コラムの内容から逸脱してしまうのでまた別の機会に述べたいと思います。

 

【プロフィール】

新改敬英 (Takahide SHINKAI)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 大学研究員

大手国際会計事務所等にて会計監査・M&Aアドバイザリーに従事したのち、
外資系メーカーおよび国内系医療・介護グループを経て研究者に転身。
民間企業在籍中は一貫して経営企画業務に従事し、
経営戦略立案、組織マネジメントから財務分析、人材採用までオールラウンドに手掛ける。
現在は九州大学大学院の博士課程に在籍し、会計学・組織マネジメントについて研究する傍ら、
慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)の研究員として、
企業との共同研究・アドバイザリーに従事。(2019年3月現在)

参考リンク

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