健康経営は個と組織に何をもたらすのか――。第1回

2018.05.31 
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慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授 岩本 隆氏

近年、従業員の健康増進への取り組みを強化し、「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人(ホワイト500)」の看板を取得する企業が増えている。

しかし一方で、健康経営自体が目的化し、業績に繋げられていない企業も少なくない。
多くの企業にとって、次なる課題は、健康増進をいかに生産性の向上や組織パフォーマンスの向上に繋げていけるかだ。

そこで本ページでは、「健康×経営ラボ」の監修者である、慶應義塾大学大学院 経営管理研究科・岩本隆特任教授へのインタビューを実施致しました。

【第1回目】となる今回は、企業の健康経営や働き方改革に対する取り組みの現状や課題について語って頂いた。

なぜ今、健康経営が求められているのか。
その背景と取り組みの現状

――企業の健康経営や働き方改革に対する取り組みは、年々広がりを見せつつありますが、そもそもなぜ政府は今、企業の健康経営を推進しているのか、まずはその背景からお聞かせいただけないでしょうか?

岩本 もともとは経済産業省が医療費のお金の流れを分析するところから始まりました。
現在、国民医療費は40兆円を超えていますが、その内訳は、感染症・外傷などの「通常疾患」、がん・アルツハイマー等精神疾患などの「老化由来」、糖尿病等生活習慣病から来る「生活管理」の3つに分けられます。

膨らみ続けるこれら医療費を、いかにして減らしていくか。その最も有効な手立てとなるのは、生産年齢人口にあたる労働者の健康を損ねる生活習慣病対策です。
生活習慣病は努力して正していけば大幅に減らすことができますよね。

さらに生活習慣病を減らして医療費を削減できれば、その分を日本のヘルスケア産業の育成に活かすこともできます。

つまり、輸入超過の進む医療産業において、ヘルスケア分野を輸出産業に育てたいという、産業政策の側面もあるのです。

そこで国としては、これらを実現させるために全国民に周知徹底したいところですが、一人ひとりに伝えても推進力があるわけではないので、まずは健康経営という表彰制度を作り、企業に取り組ませ、そこから従業員やその家族、さらには地域へと波及させていくという未来図を描いているのだと思います。

――その表彰制度についてもう少し詳しくご説明ください。

岩本 経済産業省は、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として選定しています。

原則的に1業種1社で、第4回目となる「健康経営銘柄2018」には26業種26社が選ばれ、さらに2020年までに500社を「健康経営優良法人(ホワイト500)」として認定する制度も作りました。

企業によっては健康経営を導入したことによって業績が上がった事例も多く、今後は大手だけでなく、中小企業や病院経営などにも健康経営の波が広がっていくことが予測されています。

――経済産業省は健康経営を、厚生労働省は働き方改革を掲げ、さまざまな施策を講じていますが、一方で少子高齢化の進む日本では、生産性向上が喫緊の課題であり、健康経営や働き方改革といった動きには、ある種の矛盾もはらんでいますね。

岩本 おっしゃる通りです。
健康経営や働き方改革は、それ自体は良いことですが、結果的に産業力が落ちてしまっては意味がありません。

健康経営や働き方改革を進めながら、いかに経営のパワーアップや従業員のパフォーマンス向上に繋げられるか――そういった視点が不可欠でしょう。
両者を繋げる物差しや仕組みの整備は、大きな課題だと思います。

――実際にいろいろな企業の方々が健康経営や働き方改革に関して岩本先生のところに相談に来られると思いますが、どのような悩みが多いのでしょうか?

岩本 一番多いのはHRテクノロジーの活用に関する相談ですね。
以前は「テクノロジーを活用したいけれど、経営陣が言うことを聞いてくれない」といった声が多かったのですが、最近は経営陣の意識が変わり始めており、「経営陣からテクノロジー活用の要請があるが、どうしたらいいのかわからない」といった声が増えてきています。

しかし日本企業には、年功序列や労働組合との折衝など越超えるべき壁が多々あり、ドラスティックに変革を起こすのは容易なことではありません。

HRテクノロジーの導入といっても結局は新卒採用など断片的な活用に留まってしまい、なかなか全体的な取り組みに広がっていかないのが現状です。
また、そのこと自体が目的化してしまった断片的な取り組みでは、企業の競争力を阻害しかねないでしょう。

人事の変革は働き方改革にも直結するもの。
いかにデータ視点・分析視点を持ち、テクノロジーを活用できるかが、日本企業の大きな課題になると思います。

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