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食材表示の偽装に見る日本のコンプライアンス教育の未熟さ

2013/11/21

国内有数の一流ホテルや大手百貨店で、使用する食材の表示を偽る事例が相次いでいる。日々、繰り返される経営トップの謝罪会見を見るにつけ、「日本のホテル、百貨店はどうなってしまったのか」と思う方も多いことだろう。どうすれば、企業はこのような不祥事の発生を回避できるのだろうか。

 多くの企業では素晴らしい「経営理念」「ビジョン」を掲げている。「社是」「社訓」を定める企業、CSR(企業の社会的責任)を強く反映した「行動指針」を規定している企業も数多くみられる。したがって、企業が自身の「経営理念」などに沿って組織運営を行っていれば、およそ不祥事などは起こるはずがない。

 しかしながら、企業の不祥事は繰り返される。今回の一流ホテルや大手百貨店にみられるように、自ら定めた理念に大きく反して、表示の偽装など不適切な行為に手を染めてしまう組織は決して少なくない。

 企業が不祥事を起こさず、好ましい活動を継続するための重要なポイントのひとつに、社員に対するコンプライアンス教育の徹底がある。企業に求められるコンプライアンスは、一般的な解釈である「法令遵守」よりも幅広い概念であり、「法令に規定がなくても、企業のルールに規定があれば守ること」「法令や企業のルールに規定がない場合でも、倫理観ある行動をとること」までを含んでいる。このように、現代の企業は社会から「極めて高度な倫理観」が要請されている。
 企業に求められるコンプライアンスの中では、「倫理観ある行動をとる」という意味が分かりづらいところである。人により「倫理観」という言葉の解釈は異なるからだ。いろいろな説明の仕方があるが、平易な表現を使うと「一般の人が『それっておかしいよね』と思うようなことは絶対にやらないこと」などと説明できる。この意識をいかに全社員の心に植え付けられるかが、コンプライアンス教育のポイントになる。

 社員教育は「“知識”の教育」と「“意識”の教育」の2種類に分けられる。「“知識”の教育」とは、業務に必要な「新しい知識、技術」を身に付けさせることであり、「“意識”の教育」とは、業務に必要な「考え方」を身に付けさせることである。ここで重要なことは、「コンプライアンス教育」は“知識”ではなく「“意識”の教育」にあたるという点である。

 人は「理屈」ではなく「感情」で動くといわれる。したがって、「“意識”の教育」では社員が自らの意思で「そうしよう!」と思うような働きかけをする必要がある。そのためには、単に“知識”として新しい情報を与えるだけでは効果がなく、社員の心を揺り動かせるよう、強く訴え掛けなければならない。「倫理観を持ちましょう」と形式的に呼び掛けるだけでは、コンプライアンスを“知識”としては理解できても、社員の“意識”は変わらない。
 「『それっておかしいよね』と思うことは絶対にやらない」という意識を全社員に徹底させることは容易ではない。企業内でキャリアを積むほど、意思決定の基準が社会一般の視点からズレるケースがあるからだ。

 だからこそ、コンプライアンス教育では経営トップが“熱い気持ち”をもって、「倫理観」の重要性を訴えることが必要になる。社員の心に響くよう、「ダメなものはダメ!」と繰り返し説き続けなければならない。「倫理観」を身につけた社員を育成するためには、経営トップの熱意と自らの取り組みが何よりも重要である。コンプライアンスに関する「正しい“意識”」が身についていれば、表示の偽装などは起こらなかったのかもしれない。

コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀 信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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