【テクノロジーHRパーソン スタートアップ講座】第2講座:HRテクノロジー スタートアップの実務

人材開発全般のコンサルティングに携わる株式会社セルムによる、「テクノロジーHRパーソン スタートアップ講座」。第2講座は「HRテクノロジースタートアップの実務」をテーマに、PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 北崎 茂 氏に登壇いただきました。
講座で紹介された事例を除く、講座の抄録をここでご紹介させていただきます。
講師:北崎 茂 氏
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター

慶応義塾大学理工学部卒業。外資系IT会社を経て現職。組織設計、中期人事戦略策定、人事制度設計から人事システム構築まで、組織/人事領域全般にわたって、15年以上コンサルティングに従事。現在は、人事部門構造改革(HR Transformation)、人事情報分析サービス(People Analytics)におけるPwCアジア地域の日本責任者に従事している。ピープルアナリティクスの領域においては、国内の第一人者として日系及び外資系企業の様々なプロジェクト導入の指導・セミナー講演・寄稿などで活躍中。

前提として知っておきたい分析用語と概念

ピープルアナリティクス(人材データ分析)ができることを大別すると、「予測すること」と「分類すること」の2つに分類されます。そして、その中で使用される分析手法としては、「決定木分析」「回帰分析」「クラスター分析」などがあり、この3つの分析手法があれば十分に様々な解析を行うことができます。また、分析を行う際によく登場する言葉に「目的変数」「説明変数」という言葉がありますが、「目的変数」は証明したい事象を表す情報、「説明変数」は“立てた仮説を説明するために必要な情報”のことを指します。
今挙げた基本的な分析手法や用語については、時間があるときに、Web等でもよいので内容を確認しておいてください。これらは最低限知っていないと、ピープルアナリティクスに関する正しいコミュニケーションや意思決定ができないのではないかと思います。

ピープルアナリティクスを人事にどう活かすか

ピープルアナリティクスを行う際に間違えてはならないのは、「分析結果に、意思決定のすべてを委ねるのではない」という点です。分析によって得られる結果とは、これまで人事担当者が感覚的に判断していたリスクや勘を可視化したものです。この情報を意思決定の判断材料に加えて、対応の早期化や判断の精度をあげていくのです。
ピープルアナリティクスは人事業務のほとんどすべての場面で活用可能ですが、現時点で最も多く活用されているのは採用の場面です(「採用最適化分析」)。例えば、5,000名の応募者を50名の内定者に絞る際のプロセスをイメージしてください。採用担当者だけに任せていると、物理的に手が回りきらないこともありますし、大量の書類審査や面接の中で判断がぶれる可能性もあります。それを補完するためにピープルアナリティクスが利用できます。「ハイパフォーマー分析」や「配属マッチング分析」に対する期待も高いのですが、「配置マッチング」でも、一般的にはベストな配置を見つけるというより、「ミスマッチ」を見つけることにアナリティクスが使用されるケースが多いです。また、「退職リスク分析」では、どの因子が退職に一番強く影響しているのかを特定して改善したり、このような行動をとるようになった社員Aが退職する確率は〇%、といった数値を出して、早期の段階でフォローをする、といった行動につなげたりしています。

実務上の落とし穴と留意点

ピープルアナリティクスを進めるプロセスの中にも、つまずいてしまいやすいポイントがいくつか存在しますので、ここで紹介させていただきます。

【やりたいこと・検証したい仮説が不明瞭】
例えば、自社にはデータがたくさんあるので分析すれば何かわかるんじゃないか……と分析を始めてしまうケースは少なくありません。しかし検証したい内容が不明瞭だと、仮説の深掘りができずに曖昧な分析に陥りがちです。その分析自体に意味があったのかどうかも確かめることができない場合もあります。検証したい内容・仮説を明確にして、小さくても1つひとつ目的をクリアし、それを積み重ねていくことが重要です。

【社内にデータや人材が不足していると思いがち】
「自社はデータもバラバラだし、データ分析を理解できる人材もいない」とおっしゃる企業様は多くいます。しかし、目的を絞れば必要なデータを絞ることができます。データを絞ることができれば、たとえ必要なデータが紙の状態であっても、データ化することは可能なはずですし、人材に関しては外部のアナリストを活用することなども可能でしょう。最初に全ての要素を揃えようとすると、大きなコストと数年単位の時間が必要になります。まず目的を明確にして、1つひとつ確かめていくことからこそ、スタートが切れます。これは巨大なグローバル企業であっても、同じことが言えます。

【意思決定のための分析ではなく、納得のための分析】
「これまでに行ってきた施策が正しかった」ことを証明するために分析をするケースもよくあります。ある仮説を証明するために分析をすることは悪いことではありませんが、願っていた内容とは異なる結果が出てしまった場合に、「その結果、なんとかできませんか」と、本末転倒な相談を受けることもあります。社内事情もあるので、完全否定はできませんが、それではアナリティクスの活用を進めることは難しくなってきます。いかなる結果であれ、データを客観的に見る力が重要なのです。

【関連部署の理解や協力を得られていない】
ピープルアナリティクスに必要なデータは人事部内のデータだけではありません。情報システム部門を始め関連部署の協力が不可欠ですが、適切なサポートを受けることができずに十分な分析ができなかった、という例をいくつか聞くことがあります。プロジェクト初期段階から、必要となる部門や経営層などの巻き込みを行うことが重要です。人事部門単独で分析を進めようとしてしまったりすると、こうした失敗に陥りやすくなります。

【既存組織への無茶振りや特定人物に依存】
分析は何度も行って推移を見ることが大事です。せっかくデータ分析を行っても、1回で終わってしまってはノウハウも貯まりません。私の知人のデータアナリスト達は口をそろえて、分析を続けていくことで「データを見る目」が養われる、と言います。先進的な欧米企業では、ピープルアナリティクスの専門部門を設けて定常的にデータ分析を行い続け、ノウハウの蓄積を行っています。日本の国内では分析を一時のプロジェクトとして行っている企業が少なくありませんが、今後、データ分析を人材マネジメントにうまく活かしていくためには、こうした専門組織の設立と継続的な分析は必要不可欠になると考えます。

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